第13話 お悩み相談

文字数 2,267文字

「シエル。ああシエルね」

「やっぱり、知ってますよね」

「ッたり前だ。ヒカリ属ながらヤミ属として生きた〝堕天の子〟。

 お仲間だったはずのヤミ三名を一瞬の思いつきみたいにブっ殺し、オマエに最大の禁忌を犯して烙印を一気に三本負ったイカレ野郎。

 ヤミの間では超有名だぜ。ま、そんな野郎も元バディのアスカにブチ殺されて一件落着だ。そうだろアスカの現バディ?」

「……」

「なんだって浮かねぇ顔? おいおい辛気クセェな。オマエを陥れたヤツは核ごとキレイさっぱり消えたんだ、もっと喜べよ」

「誰かの死を喜ぶことはできないです。それが僕を殺そうとしたシエルさんであっても……アスカ君のお兄さんでもありますし」

 響の言葉にジャスティンは一瞬間ののち理解しきれないといった様子で笑った。だが響の口は止まらない。

「……アスカ君、シエルさんを執行してからずっと苦しそうで。どう言葉をかければいいのか迷ってるんですよね。

 アスカ君はシエルさんとバディだったし、ヤミ神から〝異分子排除〟の指名勅令も受けていた。だからアスカ君は絶対に自分がシエルさんを討たなくちゃって考えてたと思います」

「……」

「でも、お兄さんだったシエルさんを殺すなんて、やっぱり気持ち的にはやりたいはずがなかったよなって。

 僕が『執行者になりたい』なんて言わなかったらアスカ君が執行することはなかった。だからシエルさんのことには罪悪感があるんです。

 ……そのせいか、余計に何て声をかけたらいいか分からなくて」

 ずっと押さえ込んできたせいだろうか。誰かに聞いてほしいという甘えが出てしまったのだろうか。

 響の口はあらぬタイミングで堰を切ったように抱えていた思いを吐き出してしまった。

 だが、ジャスティンは表情ひとつ変えず再び口を開いてくる。

「さあな。そんな話オレにしたところで無意味だぜ。オレはどっちかっつうとシエル側の思考回路だからなぁ?」

「そ、そっか。確かにそうですね」

「つうかウダウダめんどくせぇ。悩んでる暇があんならアスカに今の話してみりゃいいじゃねぇか」

「でもそういうのって逆に重荷になりませんか? 僕的にはもっとこう、アスカ君の気持ちを的確に軽くする方法を――」

「なるほどオマエ、一発で救っちまえるようなモン探してんのか」

「へっ?」

「そんな都合のいいモンあるわけねぇだろうが。仮にあったとしてもオマエみたいなガキに探し当てられると思うな。

 相手が自分にとってデケェ存在であればあるほど、抱えてるもんが深刻であればあるほど近道はねぇ。

 捨て身で愚直に仕掛けるしかねぇんだよ。オレがベティを必死に口説いたみてぇによ」

「そ、そんな捨て身で!?」

「そうだ。邪険にされても平手打ちされても諦めなきゃどうにかなる。

 断言するが、オマエは考えすぎて自滅するタイプだ。だからさっさと脳直で動いちまえ。

 ……ま、それで禁忌の烙印を負ったオレが言っちゃ説得力なんざあるはずもねぇが。くく」

「い、いえ……ありがとうございます」

 話自体は理解しかねる部分があったものの、意外と親身に言葉を返してくれたことはありがたかった。

 ジャスティンは響の感謝に何故か舌打ちをし――本当に何故だ――気を取り直すようにまた煙を吸い込んだ。

「どうでもいい話だったな。だが、これだけは覚えておけ。シエルの末路は自業自得だ。

 〝堕天の子〟を拾って受け入れたヤミ属も自業自得だ。だからこれについてオマエが背負う必要はねぇ。何ひとつな」

「……」

「ヒカリ属っつーのは関わっちゃならねぇ連中だ。アイツらは常に傲慢で卑怯で鼻持ちなんねぇ。

 〝堕天の子〟はそのヒカリ属に見捨てられた。つまりしようもねぇヤツらに見捨てられた、さらにどうしようもねぇヤツってことだ。本来ならガキのころに死んで然るべきだったんだよ」

「……」

「そもそも〝堕天〟なんつう死刑方法を平然と繰り返す時点でヒカリ属の高が知れてんだろ。

 処刑を担うヒカリだっているってのにわざわざ生物界に落とすんだぜ? 落とされたら良くて即死、悪くて存在養分を得られず餓死だ。

 奇跡的に生き長らえたとしてもヤミ神に観測されて〝異分子排除〟の勅令が下りたオレたちヤミ属執行者に狩られる。

 それを全部知りながら〝堕天〟させてんだ、ヒカリ属ってのは。ロクなもんじゃねぇ」

「……ジャスティンさんはヒカリ属が嫌いなんですか?」

 ヒカリ属の話に移った途端言葉にあからさまなトゲが混じったのを感じて響は訊いた。するとジャスティンは大きく首肯してくる。

「ッたり前だろ。任務中に顔合わせると常にヤミ属を見下してくるからな、お上品なヒカリ属サマはよう」

「あはは……」

 響はシエル以外のヒカリ属に会ったことがないため、肯定も否定もできず曖昧に笑うしかない。

 それがおかしかったのかジャスティンは肩を揺らして満足げに笑う。

 気づけば彼の姿からは苦しげな様子が消えていた。

 禁忌の烙印もすっかり収まったようで、ジャスティンは一度短くなった吸い殻を地面に落として踏み潰すと、再び響へ背中を見せた。

「うし、そろそろいいな。進むぜぇ」
「はい」

 響はジャスティンに踏み潰された吸い殻を回収しつつ頷く。

 これからまた延々と歩き進む時間が始まるのだ。

 どうか無事脱出できますように――心のなかで祈りジャスティンの後に続こうとした響だったが、ジャスティンはまだ先へ進んでいなかった。

 そればかりか何もない真っ暗闇に向けて声を上げる。

「で、アンタはいつまで隠れてんだ。出てきなァ」

「……!?」

 響が目を見開き肩を揺らしたのは言うまでもない。
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登場人物紹介

◯◆響

普通の男子高校生だった17歳。

アスカに命を狙われ、シエルに〝混血の禁忌〟を犯されて

生物とヤミ属の中間存在〝半陰〟となった結果、

生物界での居場所を根底から奪われた過去を持つ。

◆アスカ

物語当初は響の命を狙う任務に就いていたヤミ属執行者。

シエルに紋翼を奪われて執行者の資格を失ったが、

響が志願したことにより彼も執行者に復帰することとなった。

以降は響の守護を最優先の使命とする。

◇シエル

〝悪夢のなかで出会った神様〟と響が誤認した相手。

アスカの紋翼を無惨に引きちぎり、

響に〝混血の禁忌〟を犯した相手でもある。

アスカと因縁があるようだが……?

◆ヴァイス

ヤミ属執行者。

〝混血の禁忌〟に遭った響の首を切り落とそうとした。

長身かつ顔面をペストマスクで覆った容姿はシンプルに恐ろしい。

アスカの元育て親、ディルの相棒。

◆ディル

ヤミ属執行者。

しかし軍医的位置づけであるため執行行為はご無沙汰。

ヴァイスの相棒かつ響の担当医、キララの元育て親でもある。

素晴らしい薬の開発者でもあるが、ネーミングセンスがことごとくダサい。

◯乃絵莉

響の妹、だった少女。

響にとって何よりも守りたい存在。

響が〝半陰〟となって以降は一人っ子と再定義された。

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