第12話 頂に君臨する者

文字数 2,649文字

 突拍子なく問われるも分かるわけがなく、響は眉をひそめる。

 階級の話自体は前に聞いている。確か最下級のCに始まり並のB、戦闘能力が高めのA、最上級のSと続いたはずだ。

 そしてS級は数名しかおらず、しかもそのうちのひとりがヴァイスのバディであるディルなのだという。

 さらに育て子だったアスカが二度も太鼓判を押すのであれば響が導き出す答えはひとつしかない。

「……S級?」

 しかしアスカは首を横に振った。

「いや。SSS級だ」

「え!? Sが最上なんじゃなかったっけ」

「そうだ。SSS級はヴァイス先輩だけに作られた階級だからな」

「……、」

「ヤミ属執行者の頂点なんだ、ヴァイス先輩は」



「――うん、そうだね。上空に避難するのが最適解だ」

 未だもうもうと粉塵が立ち込めるなか、空中で浮遊する響と響につかまるアスカを見上げていたヴァイスは、いたって平時の声でひとりごちた。

 彼は少し先にいる八尾のキツネから広範囲の攻撃を二度受けたものの微動だにしていない。

 八尾のキツネが伸ばした尾の一本を地面に叩きつけ、その衝撃で衝撃波や岩石が飛んでこようが地面が割れようがそこに佇み続けていた。

 それは彼が先んじて防御態勢を整えていたからではない。避ける必要がないよう上手く〝調整〟していたからだ。

 濃い粉塵が晴れていき、再び明瞭になっていく八尾のキツネ型罪科獣。

 しかし広範囲攻撃を二度も仕掛けた彼は今、ヴァイスの権能〝茨〟によって拘束されていた。

 その拘束力は並大抵ではなく、八尾のキツネが力づくで茨を取り払おうとするのも意に介さない。

「さて。彼らを安全な場所へ誘導できたところで始めようか」

 ヴァイスは何ということはない口調で言う。

 そう、八尾のキツネ型罪科獣の攻撃は一度目も二度目もヴァイスの〝茨〟によって力の加減や位置を微妙に操作されていた。

 操作できるのであれば何故攻撃自体を止めなかったか――もちろん彼なりの理由があった。

 ヴァイスはアスカ、響、ユエ助を遠くへ避難させるついでに、強敵を前にした彼らの動きが的確であるか精査していた。

 それゆえ彼らが無事に空中へ退避できたのを見届けた今、ヴァイスは八尾のキツネを拘束していた〝茨〟を解除する。

「このまま片をつけてしまうと彼らの学習にならないからね。最初からやり直そう」

 すべての茨は空気に融けるように消えてなくなり、同時に八尾のキツネは素早い動きで後退しヴァイスから大きく距離を取った。

 どうやら八尾のキツネも本気を出さねばならないと悟ったようだ。低く唸っては八尾の先端に青い炎を灯らせ、次の瞬間には八尾すべてをヴァイスへ放ちにかかった。

 ――現在ヴァイスたちの立つ階層深度は数値で言うなら20あたり。物体が優位となる生物界から遠く、霊体が優位となるヤミ属界にほど近い。

 生物や並大抵の罪科獣では存在できないこの階層へひとりでに至れたということは、それだけこの八尾のキツネ型罪科獣が霊的存在、それも高次存在に昇華できているということでもあった。

 そのため繰り出された八尾による攻撃は、空気や重力の抵抗をほぼ受けずにヴァイスへと鋭く飛んでいく。

 具体的に言えば響がまばたきのために目を閉じて開けた瞬間に、遠く離れたヴァイスへと到達し終えていた。

 一体どれほどの硬度を持つのか、八尾は雨のようにヴァイスへ降り注いでは地面までを深く深く抉りにかかる。しかし既にヴァイスはそこにいない。

「ここまで速いのは久しぶりだ」

 他人事のような声は尾のすぐ隣だ。ヴァイスは地面に深く突き刺さった八尾を至近距離で眺めていた。

 そしてそれを認識すると同時に今度は四尾が地面を削って蹂躙しながらヴァイスを狙い、もう四本は真上から再び飛びかかってくる。

 無論先ほどと同様に一瞬の動きだ。そしてそれが意味を成さないことも先ほどと同様。ヴァイスは既に違う場所へ移動している。

「尾に灯る炎は鬼火か。こんなものを生成してしまうくらい怨念を募らせているのは苦しいね。

 接触したら最後、私も君の糧となってしまうんだろう。恐ろしくもある」

 言いつつも口調はやはり平時どおり淡々としている。

 その飄々とした様子は八尾がありとあらゆる方向から向かってきても変わらない。

 ズドドドドォ!!

 けたたましい音が響こうがこれまでと同様にいつの間にか違う場所へ移動している。

 そして次の移動先は大きく離れて八尾のキツネの背後。

 戦闘において相手の背後を取ることは圧倒的有利だ。しかしヴァイスはまだ攻撃に転じず、臀部から生えている尾の根本をしげしげと観察していた。

 生え出ている尾は八本。これに間違いはない。

 しかし尾の枝分かれは九本だった。もう一本が生えていたであろう根本は少し先のところで寸断されており、しかもその傷跡はまだ生々しい。

 ヴァイスは合点がいったように頷く。

「ああなるほど。響くんが言っていたとおりだった。欠けた一本は先刻アスカが執行した――おっと」

 しかしその言葉は八尾のキツネの身体が突如引き裂かれたことで途切れた。

 八尾のキツネは尾を基点に己の巨躯を八等分し分裂、中型の一尾キツネ八匹となってヴァイスへ散り散りに襲いかかる。

 形状は先ほどアスカが相手にした一尾キツネと大差はない。しかし身体の大きさや内に持つ神性は、個体によって差はあってもアスカが戦った一尾の比ではない。

 さらに尾の先端に灯っているのみだった鬼火が全身を厚く覆っているため、もし体躯に少しでも触れたなら一瞬で糧にされてしまうだろうことは想像に容易い。

「ふうむ。気になるなぁ」

 八匹の鬼火キツネはただの尾の状態よりも明らかに俊敏で獰猛だった。

 地を這って、空高く跳躍して、横合いから殴りこんで――ありとあらゆる方向からヴァイスを殺そうと襲いかかってくる。

 しかもキツネたちは時に混ざり合う。三匹で突撃してきたかと思えば大きな一匹に、そうかと思えば噛みつく直前で三匹に戻ったり。

 それに加えて五匹が四方八方から仕掛けてきたりして、防御や回避のしづらい状況を意識して作っている。

 ――とはいえ。ヴァイスにとってはそれらはすべて些事だ。

 まるで背中に目でもついているようでもあり、八匹の動きを既に予期しているように回避し続ける。

 八匹の鬼火キツネが間断なく縦横無尽に襲いかかってくるというのに、必要最小限の動きで避けながら考えごとにふけっていた。

 しかもそれは目の前の脅威についてではなく、先ほどアスカが討伐した複数の毛玉型罪科獣についてだ。
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登場人物紹介

◯◆響

普通の男子高校生だった17歳。

アスカに命を狙われ、シエルに〝混血の禁忌〟を犯されて

生物とヤミ属の中間存在〝半陰〟となった結果、

生物界での居場所を根底から奪われた過去を持つ。

◆アスカ

物語当初は響の命を狙う任務に就いていたヤミ属執行者。

シエルに紋翼を奪われて執行者の資格を失ったが、

響が志願したことにより彼も執行者に復帰することとなった。

以降は響の守護を最優先の使命とする。

◇シエル

〝悪夢のなかで出会った神様〟と響が誤認した相手。

アスカの紋翼を無惨に引きちぎり、

響に〝混血の禁忌〟を犯した相手でもある。

アスカと因縁があるようだが……?

◆ヴァイス

ヤミ属執行者。

〝混血の禁忌〟に遭った響の首を切り落とそうとした。

長身かつ顔面をペストマスクで覆った容姿はシンプルに恐ろしい。

アスカの元育て親、ディルの相棒。

◆ディル

ヤミ属執行者。

しかし軍医的位置づけであるため執行行為はご無沙汰。

ヴァイスの相棒かつ響の担当医、キララの元育て親でもある。

素晴らしい薬の開発者でもあるが、ネーミングセンスがことごとくダサい。

◯乃絵莉

響の妹、だった少女。

響にとって何よりも守りたい存在。

響が〝半陰〟となって以降は一人っ子と再定義された。

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