第17話 相性がワルすぎる

文字数 2,467文字

「任務内容はそうそう外部に漏らしてよいものではありませんが……状況が状況です。

 教えて差し上げますわ。ここにいるということは、恐らくあなたがたも同じでしょうし」

「……、」

「✕✕村はご存知でしょう。わたくしの執行対象はそこの民をまとめ上げ〝神官様〟と村人に慕われている人間です」

「!」

「なるほど。アンタはあの神官を改心させるために遣わされたってとこか」

「……ええ。そしてあなたがたヤミ属執行者は、神官の召喚する罪科獣を執行するためにこちらへ降り立ったのではと考えますが、いかがでしょう?」

「そうだ。オレの見立てだと神官はあの村を隠れミノにしながら世界中から暗殺依頼のあった人間どもを罪科獣〝悪魔神〟に呪殺させてる。

 オレたちは力の元凶を、アンタは問題の元凶を解決するために指名勅令が下りたんだろうな」

「ええ。一方が残っていては不完全ですから、どちらも元を断たねばなりません。あのような末恐ろしい所業は到底許されるものではありませんもの」

「……ま、生き方自体は自由だと思うがね。それが元で人生転落するのも含めてな」

 ジャスティンの言葉でミランダは聞き捨てならないと言わんばかりに眉を寄せる。

「思想に品がないですのね。他者の契約寿命を害する者の生き方を肯定するだなんて。自由という言葉は思考停止をごまかすためのものではありません」

「へっ。それじゃあ何かい、ヒカリ属サマは生物の生き方自体にまでご干渉されるんで? 越権行為に品があるとでも?」

「……」

「あ、あの……」

 再びやってきた嫌な空気に響が声を上げると、ミランダは我に返る。

「失礼しました。話を戻しますわ。

 そういうわけであの村へ降り立ったわたくしでしたが、神官へコンタクトをかけようと近づいた途端に気づかれ、不可解な力で意識を失ってしまいました。そしてつい先刻ここで目を覚ましたのです」

「僕たちと似た流れですね。もしかしてミランダさんも夜の教会にいたんでしょうか?」

「いいえ。わたくしは神官が朝の森のなかを歩いていたときに働きかけました。体感としては数時間前のことです」

「なるほど……。それで目を覚ましたあとは僕とジャスティンさんの話し声が聞こえたから隠れて聞いていたってことですね」

 響が言うとミランダは頷きかけたあとで数秒静止、首を横に振った。

「いいえ、いいえ。先ほども申し上げたように偶然聞こえてきただけであって、断じて盗み聞きなどしておりません。

 ……そう、そうだわ、あなたの心の叫びが聞こえてきたのです。そのためにわたくしはここへ参りました。そうなのです。分かりましたね?」

 響としてはただの時系列確認だったのだが、ミランダとしては肯定しかねる言葉だったようだ。早口で言いのけたかと思えば有無を言わせない視線を投げてくる。

「な? 分かったろボウズ。ヒカリ属はこんな具合で鼻持ちならねぇんだ。自分のお高いプライドのためなら平気で嘘つきやがる」

「なんですって!」

「で、ヒカリ属サマよ。オレたちはそろそろ脱出に向けて動き出すがどうする。一緒に来るかい。オレはどっちでも構わねぇが」

「……ど、同行して差し上げるのもヤブサカではありません」

 一瞬ホッとした顔をしつつもプライドを捨てきれないミランダ。

 ジャスティンは「へっ」と皮肉げに笑いつつ彼女の傍らを通り過ぎる。

「そうかよ。じゃあアンタはオレとボウズの間を歩きな」

「あら……意外と紳士的ですのね」

「まさか。あんたが微妙に発光してるからジッポ代わりに使うだけだ」

 ジャスティンは言ってさっさと歩き始める。

 ミランダの面はあからさまな怒りを表しつつも、結局はジャスティンの後に続いた。響もまたふたりの背を追う形で歩き始める。

 仲間がひとり増えたのは喜ばしいが、ジャスティンとミランダの相性は最悪だ。

 自分がちゃんとしなければと考えていた――その矢先だった。

「……意外と速かったな」

 歩みを再開して間もないジャスティンが不意に声を上げた。今までの声とは違う、鋭さのある声を。

「どうしたんですかジャスティンさん?」
「前方から何か来やがった。しかも複数だ」
「!」

 ジャスティンの短い言葉に重なって進行方向から姿を現したのは歪な罪科獣。

 ここは大量に彼らを召喚してみせた神官がいざなった洞窟なのだ、予想出来なかったことではない。

 幸いにして小柄な者が多い。しかしやはり違和感ばかりのグロテスクさだ。

 ツギハギだらけの奇っ怪な見た目にミランダが後ずさる。その前でジャスティンは悠々と左胸に手を伸ばした。

「三、四、五……この量じゃ前座にもならねぇな。まァお上品なヒカリ属サマは動かず目でも覆ってりゃいい。ボウズは念のため後方警戒。そんくらいできんだろ?」

「は、はい。でもジャスティンさん、逃げなくていいんですか? ここでは神陰力があまり使えないって……」

 いくら呼びかけてもやはりユエ助が出て来ないのを確認しつつ、響は背後へと視線を巡らせた。幸いにして後方に敵の気配はない。

「後ろの道は全部探索済み、つまり出口があるとするなら前だ。退く選択肢なんざねぇよ」

 言いながらジャスティンは左胸に手を突っ込み銃を取り出しては片手で構える。そしておもむろに撃つ。

 喉を貫かれた一体は衝撃のままに倒れてはヒヅメのある手足をバタつかせ、やがて動かなくなった。

 しかし他の歪な罪科獣たちは怯まない。そればかりか後方に控える響を認識した途端色めきだし、思い思いの声で唸りながら飛びつく機会をうかがっている。

 ジャスティンは次の獲物に狙いを定めて余裕に笑っていた。

「へっへ。こいつらストーカー野郎か。つまんねぇな、もっとオレを見ろよ」

 ガゥン! 耳をつんざき洞窟内に響き渡る銃声。

 ギュアッ、グギュルウウウッ。ついでくずおれる罪科獣の苦鳴。

 ジャスティンは気分が良さそうに次に照準を定めた。すると歪な罪科獣たちの注意がジャスティンに集まり直す。

「おら、もっと熱烈に来なァ。運命のオンナは決めちゃいるが、こちとら言い寄られるのは嫌いじゃないんでね」

 ガゥン、ガゥンッ!
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登場人物紹介

◯◆響

普通の男子高校生だった17歳。

アスカに命を狙われ、シエルに〝混血の禁忌〟を犯されて

生物とヤミ属の中間存在〝半陰〟となった結果、

生物界での居場所を根底から奪われた過去を持つ。

◆アスカ

物語当初は響の命を狙う任務に就いていたヤミ属執行者。

シエルに紋翼を奪われて執行者の資格を失ったが、

響が志願したことにより彼も執行者に復帰することとなった。

以降は響の守護を最優先の使命とする。

◇シエル

〝悪夢のなかで出会った神様〟と響が誤認した相手。

アスカの紋翼を無惨に引きちぎり、

響に〝混血の禁忌〟を犯した相手でもある。

アスカと因縁があるようだが……?

◆ヴァイス

ヤミ属執行者。

〝混血の禁忌〟に遭った響の首を切り落とそうとした。

長身かつ顔面をペストマスクで覆った容姿はシンプルに恐ろしい。

アスカの元育て親、ディルの相棒。

◆ディル

ヤミ属執行者。

しかし軍医的位置づけであるため執行行為はご無沙汰。

ヴァイスの相棒かつ響の担当医、キララの元育て親でもある。

素晴らしい薬の開発者でもあるが、ネーミングセンスがことごとくダサい。

◯乃絵莉

響の妹、だった少女。

響にとって何よりも守りたい存在。

響が〝半陰〟となって以降は一人っ子と再定義された。

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