第5話 ドキドキ☆権能レッスン《講釈編》
文字数 2,510文字
ヴァイスは響の返答に満足げに頷く。
「直系属子はあんなふうに落ちた神核の欠片、つまり神核片を心臓として生まれてくる。
これはヤミ属に限った話ではなく、ヒカリ属の直系属子もヒカリ神の神核の欠片を心臓として生まれてくる。
ちなみに神核片は人間の心臓や魂魄と同じように左胸に格納されることが多い」
「……はい」
「神核片は心臓であると同時に、私たちの生命力の源である神力をためる器のような役割も持っている。
そして神力は階層移動や戦闘を行うのに必要不可欠なものであり、満足に任務をこなすには神核片がある程度大きくなければならない。
直系属子は例外なく戦闘にも耐えうるサイズの神核片を核としているが、これこそ直系属子が執行者を運命づけられている第一の理由だよ」
「他にも理由があるんですか?」
「ああ、第二の理由は直系属子の数だ。残念なことに私たち執行者には数としての余裕がなくてね。
ヤミ属がひとり殉職したらひとり生み落とされるというように、絶対数が大きく増えたり減ったりすることはないんだ。
だから直系属子はなおさらヤミ属執行者になることが運命づけられている、というわけだ」
「なるほど……」
響は小さく頷く。
話は分かった。分かったのだが、響としては人間のように就職か進学か、就職ならばどこにするかと進路を迷う自由が直系属子にはないことに引っかかりを覚えてしまう。
以前もそうだった。あのとき生まれた可愛い赤ん坊、あの子もいつか生物の死を目の当たりにして落ち込むことがあるのかも知れない。
戦闘で傷つくことだってあるのかも知れない――そんなことを考えてしまっていた。
響の心中など知るはずもなく、ヴァイスは淡々と説明を続ける。
「ちなみに前の特訓では情報が煩雑になるのを避けるために省いてしまったが、紋翼の正体も神力だよ。
神核片を活性化させると神力が外に溢れ出すが、それが目に見える形で背後に表出したものが紋翼だ。
だから紋翼の大きさや数は神力の多さ、ひいては神格や戦闘能力の高さの目安にもなる。ここまではいいかな」
「は、はい」
「さて、ここからようやく本題となるが、神力はもちろん権能を使用するのにも必要だ。
ヤミ神に与えられた権能にはヤミ神の神力〝神陰力〟が必要になり、ヒカリ神に与えられた権能には〝神陽力〟が必要になる。
最初にも言ったように権能は固有の能力であることが多い。
分かりやすいところだとエンラ様は〝裁定〟、ヤーシュナとアウラーエの神託者二名は〝神託〟という権能を持ち、それぞれの神陰力で行使している」
響はまた以前のことを思い返す。
そういえばヴァイスは前に『〝裁定〟はエンラ様しか行えない』と言っていた気がする。
あれも〝裁定〟がエンラ固有の権能であったからなのだろう。
「〝裁定〟とは魂魄の傷や歪みを正す権能だ。〝神託〟とは物言わぬ神と一時的に同化して内に発生する神託を授かる権能。どちらも生物の死を守るのにはとても大事な能力なんだ」
「確かに、裁定してもらえないと魂魄は転生できないし、神託を受けられないとヤミ属執行者は仕事にならないですね」
「そうだね。――今挙げた〝裁定〟〝神託〟は戦闘向きの権能ではないが、ヤミ属の直系属子は戦闘に有用な権能を授かって生まれてくることが大半だ。
これは生物の死を守るために生み落とされる以上、戦闘を避けられない場合が多いからだと言われている。
まぁその割に使い勝手が……うん、頑張れ! って感じの権能もあるから、そのときは自分でどうにかするしかない」
「どうにか、というと?」
「例えば鍛錬や特訓をして純粋な戦闘能力を上げたり、神陰力を練って自分に合った武器を作ったり、それが無理なら鍛冶屋で装備を整えたり……。
だが、どんな権能だったとしても自分なりの最適解、戦闘スタイルを見つけなければならないのは執行者である以上等しく一緒だよ」
「……はい」
「個々によって神核片の大きさ、つまり蓄えられる神陰力量は違うし、権能ごとに使用する神陰力量も違う。
しかしどんなに素晴らしい権能を持っていても加減を少し見誤れば窮地に立たされることもある。
死なないため、自分の身を守るためには自分の権能を深く知ること、過信しないこと、そして日頃からの鍛錬が必要だということだ。分かったかい」
「分かりました……」
「とまぁ、権能の説明は以上だ。色々話しはしたが、今は権能を使うには神力が必要であることが分かればいいよ。あとは身体で覚えてもらうからね」
その一言に響は大仰に身体を揺らしてしまった。
また地獄の特訓が始まってしまうのか。まだ心の準備ができていない。怖い。逃げ出したい。
そんな願望が出たというわけではないが――多分――響は生徒のように挙手していた。
ヴァイスもまた「はい響くん」と先生のように応じてくる。
「ええと。紋翼の正体は神力で、権能を使うのにも神力が必要なんですよね?
なら紋翼があることは神力があることの証明で、紋翼がないなら権能は使えないんじゃないかなって思ったんですが……。
リェナさんは権能は持っている、でも紋翼がないから生物界に下りられないと言っていた気がします。紋翼を持っていなくても権能は使えるんですか?」
「良い質問だね。結論から言うと、紋翼を持っていなくても権能を使える者はいる。
紋翼はあくまで外部に表出するほどにあふれた神力の紋様であって、神力そのものは神力をためる神核片がある限り大なり小なり皆が持っている。
現に紋翼を失った今のアスカも権能は使えるし、リェナのような傍系属子でも例外はないよ」
「アスカ君も――っていうか傍系属子は知ってます! 前にアスカ君から教えてもらいました!」
分からないことだらけのなか、覚えのある単語に出会えて思わず大きな声を出す響。
そんな響の隣で何も喋らず話を聞くばかりだったアスカの肩がビクリと動いた。驚いたらしい。
傍系属子――ヤミ神から直接生み落とされた直系属子のヤミとは違い、彼らはヤミ属から生まれたヤミなのだと以前アスカから教えられた。
確かにリェナは『父ちゃん母ちゃんから引き継いだ混合権能があるっス!』と言っていた。
「直系属子はあんなふうに落ちた神核の欠片、つまり神核片を心臓として生まれてくる。
これはヤミ属に限った話ではなく、ヒカリ属の直系属子もヒカリ神の神核の欠片を心臓として生まれてくる。
ちなみに神核片は人間の心臓や魂魄と同じように左胸に格納されることが多い」
「……はい」
「神核片は心臓であると同時に、私たちの生命力の源である神力をためる器のような役割も持っている。
そして神力は階層移動や戦闘を行うのに必要不可欠なものであり、満足に任務をこなすには神核片がある程度大きくなければならない。
直系属子は例外なく戦闘にも耐えうるサイズの神核片を核としているが、これこそ直系属子が執行者を運命づけられている第一の理由だよ」
「他にも理由があるんですか?」
「ああ、第二の理由は直系属子の数だ。残念なことに私たち執行者には数としての余裕がなくてね。
ヤミ属がひとり殉職したらひとり生み落とされるというように、絶対数が大きく増えたり減ったりすることはないんだ。
だから直系属子はなおさらヤミ属執行者になることが運命づけられている、というわけだ」
「なるほど……」
響は小さく頷く。
話は分かった。分かったのだが、響としては人間のように就職か進学か、就職ならばどこにするかと進路を迷う自由が直系属子にはないことに引っかかりを覚えてしまう。
以前もそうだった。あのとき生まれた可愛い赤ん坊、あの子もいつか生物の死を目の当たりにして落ち込むことがあるのかも知れない。
戦闘で傷つくことだってあるのかも知れない――そんなことを考えてしまっていた。
響の心中など知るはずもなく、ヴァイスは淡々と説明を続ける。
「ちなみに前の特訓では情報が煩雑になるのを避けるために省いてしまったが、紋翼の正体も神力だよ。
神核片を活性化させると神力が外に溢れ出すが、それが目に見える形で背後に表出したものが紋翼だ。
だから紋翼の大きさや数は神力の多さ、ひいては神格や戦闘能力の高さの目安にもなる。ここまではいいかな」
「は、はい」
「さて、ここからようやく本題となるが、神力はもちろん権能を使用するのにも必要だ。
ヤミ神に与えられた権能にはヤミ神の神力〝神陰力〟が必要になり、ヒカリ神に与えられた権能には〝神陽力〟が必要になる。
最初にも言ったように権能は固有の能力であることが多い。
分かりやすいところだとエンラ様は〝裁定〟、ヤーシュナとアウラーエの神託者二名は〝神託〟という権能を持ち、それぞれの神陰力で行使している」
響はまた以前のことを思い返す。
そういえばヴァイスは前に『〝裁定〟はエンラ様しか行えない』と言っていた気がする。
あれも〝裁定〟がエンラ固有の権能であったからなのだろう。
「〝裁定〟とは魂魄の傷や歪みを正す権能だ。〝神託〟とは物言わぬ神と一時的に同化して内に発生する神託を授かる権能。どちらも生物の死を守るのにはとても大事な能力なんだ」
「確かに、裁定してもらえないと魂魄は転生できないし、神託を受けられないとヤミ属執行者は仕事にならないですね」
「そうだね。――今挙げた〝裁定〟〝神託〟は戦闘向きの権能ではないが、ヤミ属の直系属子は戦闘に有用な権能を授かって生まれてくることが大半だ。
これは生物の死を守るために生み落とされる以上、戦闘を避けられない場合が多いからだと言われている。
まぁその割に使い勝手が……うん、頑張れ! って感じの権能もあるから、そのときは自分でどうにかするしかない」
「どうにか、というと?」
「例えば鍛錬や特訓をして純粋な戦闘能力を上げたり、神陰力を練って自分に合った武器を作ったり、それが無理なら鍛冶屋で装備を整えたり……。
だが、どんな権能だったとしても自分なりの最適解、戦闘スタイルを見つけなければならないのは執行者である以上等しく一緒だよ」
「……はい」
「個々によって神核片の大きさ、つまり蓄えられる神陰力量は違うし、権能ごとに使用する神陰力量も違う。
しかしどんなに素晴らしい権能を持っていても加減を少し見誤れば窮地に立たされることもある。
死なないため、自分の身を守るためには自分の権能を深く知ること、過信しないこと、そして日頃からの鍛錬が必要だということだ。分かったかい」
「分かりました……」
「とまぁ、権能の説明は以上だ。色々話しはしたが、今は権能を使うには神力が必要であることが分かればいいよ。あとは身体で覚えてもらうからね」
その一言に響は大仰に身体を揺らしてしまった。
また地獄の特訓が始まってしまうのか。まだ心の準備ができていない。怖い。逃げ出したい。
そんな願望が出たというわけではないが――多分――響は生徒のように挙手していた。
ヴァイスもまた「はい響くん」と先生のように応じてくる。
「ええと。紋翼の正体は神力で、権能を使うのにも神力が必要なんですよね?
なら紋翼があることは神力があることの証明で、紋翼がないなら権能は使えないんじゃないかなって思ったんですが……。
リェナさんは権能は持っている、でも紋翼がないから生物界に下りられないと言っていた気がします。紋翼を持っていなくても権能は使えるんですか?」
「良い質問だね。結論から言うと、紋翼を持っていなくても権能を使える者はいる。
紋翼はあくまで外部に表出するほどにあふれた神力の紋様であって、神力そのものは神力をためる神核片がある限り大なり小なり皆が持っている。
現に紋翼を失った今のアスカも権能は使えるし、リェナのような傍系属子でも例外はないよ」
「アスカ君も――っていうか傍系属子は知ってます! 前にアスカ君から教えてもらいました!」
分からないことだらけのなか、覚えのある単語に出会えて思わず大きな声を出す響。
そんな響の隣で何も喋らず話を聞くばかりだったアスカの肩がビクリと動いた。驚いたらしい。
傍系属子――ヤミ神から直接生み落とされた直系属子のヤミとは違い、彼らはヤミ属から生まれたヤミなのだと以前アスカから教えられた。
確かにリェナは『父ちゃん母ちゃんから引き継いだ混合権能があるっス!』と言っていた。