第3話 A級執行者ジャスティン&ベティ

文字数 2,583文字

「今ほど我が〝千里眼〟で視てみたが、やはり神託以上の情報を得ることはできぬようだ。

 まるで我が眼の存在を拒むかのごとく黒きモヤに包まれておる。狡猾で用意周到な罪科獣である可能性が非常に高い」

「……」

「ジャスティンらはよいとして、アスカ並びに響よ。他ならぬヤミ神の指名勅令とはいえ前回の例もあるゆえな。

 我は貴様らに今回の任務を決して強制せぬ。そのうえで問おう、貴様らは如何なる道を選ぶ?」

 エンラに問われ、響は目を伏せて口をまごつかせた。

 八尾のキツネ型罪科獣の脅威を目にしたあとである。前回のように安請け合いすることは難しい。

 あまりにも前回と今回のスパンが短すぎる上に――せめてもう少し鍛錬する猶予がほしかった――連携任務ということで難度が高いことも判明している。

 ヴァイスにも『難しい相手だと事前に分かった場合は無理をせず他の執行者に代わってもらうんだよ』と言われていた。

 響は隣のアスカを見上げる。しかしアスカは無言のままだ。その面を飾る黒瞳には多少の憂慮が灯っているが、今回も響の意志に従うと言わんばかりにまっすぐ見返してくる。

 正直に言えば、とても怖い。

 任務を完遂できるだろうか。罪科獣の強さも未知数だ、アスカや自分が大ケガしたり死んだりする可能性だってあった。

「……皆さんの足を引っ張らないように、頑張りたい、です」

 それでも響は言ってエンラに、フ、と笑みを浮かべさせる。

「そうか。前回が非常にシビアであったからな、さすがに今回は辞退するかと思っていたが」

「はい……悩みました。というか雑務しかできない僕が決めてしまっていいのかって今も思ってるんですが……でも、アスカ君や僕が選ばれたってことにも、何か意味があるのかも知れないって思って」

「左様。我らが神は自我を破棄されて久しいが生物や我らにとって常に正しき道を示される。

 例え非情に思える勅令であろうとも、そこには確かな意味がある。ならば雑務しかできぬという貴様が選ばれたことにも意味があろう」

「っ頑張ります……!」

 エンラの言葉に響が背筋を伸ばして言うと、エンラは微笑ましそうな面をしてまた笑い声を上げた。

「ただし無理はするでないぞ。同じく指名を受けたジャスティン、そのバディであるベティの指示に従って行動せよ。こやつらはA級執行者、貴様らにとって大先輩だからのう。

 加えて歪な者たち――繁華街や前回の〝罪科獣執行〟で出会った毛玉に類する者が現れた場合は特段の注意を払え。よいな」

「は、はい!」

「御意。必ず成し遂げます」

 多少気後れしつつも響はまた神殿内に声を反響させる。アスカもまた頼もしい返事をすれば、エンラはご満悦な表情で頷いた。

「うむ、うむ。若者どもよ、遺憾なく羽ばたけ。任務を完遂し我に元気な姿をまた見せるがよい!」

 ――こうして響とアスカは二度目の〝罪科獣執行〟に向かうこととなったのである。



* * *



 先の話のとおり執行期限まで余裕がないということで、四名はそのまま執行地である✕✕✕連邦の✕✕✕森の入り口付近へと降り立った。

 太陽が高いので時刻は昼ごろのようだ。

 ちなみにベティが紋翼を展開してくれたため、はずれた場所に降り立つことも、ベティらと離れ離れになることもなかった。

「さぁて。一緒に任務をこなす者同士、まずは軽く自己紹介しとこうよ」

 いよいよ任務が始まる、と響が緊張しているところでベティが快活に話しかけてきた。

「じゃあまずはアタシから。アタシの名前はベティ、得意なのは傷の手当てとギッチギチの拘束だ。よろしくね」

 手早く言ってニコリと姉御肌の笑みを浮かべるベティは、赤のソバージュヘア、ヘーゼル色の瞳をしたヤミだった。

 執行者となることが宿命づけられている直系属子は両性具有体だが、ベティはハッキリ女性の見かけをしており、包帯のごとき白生地を幾重にも重ねたような上衣には豊満な膨らみを確認できる。

 響が慌てて視線をずらした先にはビニールのような光沢を放つ黒パンツと赤のハイヒール。視線を戻せば、そばかすとビビットオレンジの紅が引かれた唇だ。

「僕は響と言います。よろしくお願いします。ですがすみません、戦闘には参加出来ないので雑用を頑張らせてください」

「俺は面識がありますが一応……アスカです。おふたりと連携任務は初めてですね」

 響の後を継いでアスカが言うと、ベティはさっぱりとした様子で首肯してくる。

「そうだねぇ。まさか最近ホットなアンタたちと一緒になるとは思わなかったよ」

「ホット?」

「ホットもホットさ。執行者になるには不完全なふたりが……って言い方が悪いね、ゴメン。

 とにかくアンタたちが二度も指名勅令を受けて、しかもそれらをちゃんと遂げてきたっていうのは執行者の間で話題――」

「ああ~。オマエがウワサの〝半陰〟。元は人間の半端者」

 ベティの言葉にするりと割り込み、ついでにベティの腰を抱いて密着するのは皆にジャスティンと呼ばれていたヤミだ。

 前傾姿勢をとっては響の方へ顔を寄せ、穴が開くのではと思うほどにマジマジと眺めてくる。

「っ……は、はい」

 遠慮のない言動と行為に響は思わず一歩後ずさりつつ返事をした。しかしそのぶんジャスティンは距離を詰めてくる。

「へぇ~。〝混血の禁忌〟で死に損なったってだけでもクレイジーなのに、そのうえ執行者にまでなっちまったってのがオマエか。

 最高にイカれてるねぇ、もしかして根っからのマゾヒストかい?」

 黒髪はイマドキな雰囲気がありつつもリーゼントヘア。目尻が垂れたバーガンディ色の双眸は濃いクマに彩られ、陰気を感じさせる。

 黒のジャケットに赤のライダースパンツ、ピアスだらけの耳、そして首に走る一本の縄状黒線。おまけに唇の端にはニヒルな笑みだ。

 響が返答に困っているのを楽しげに観察するジャスティンだったが、それは突如中断された。

 隣のベティが慣れた様子でジャスティンの腕から抜け出し、そのまま彼の首に手刀を叩き込んだからだ。

「ジャスティン、イカれたマゾヒストだなんてアンタにだけは言われたくないだろ。ブッとばすよ!」

 首を押さえながら再び腰を折るジャスティンをベティは叱りつける。怖いので『〝イカれた〟とまでは言ってないですよ』と言えない。

 手刀を受けたジャスティンはと言えば、苦しみながら肩を揺らして笑っている。こちらも怖い。
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登場人物紹介

◯◆響

普通の男子高校生だった17歳。

アスカに命を狙われ、シエルに〝混血の禁忌〟を犯されて

生物とヤミ属の中間存在〝半陰〟となった結果、

生物界での居場所を根底から奪われた過去を持つ。

◆アスカ

物語当初は響の命を狙う任務に就いていたヤミ属執行者。

シエルに紋翼を奪われて執行者の資格を失ったが、

響が志願したことにより彼も執行者に復帰することとなった。

以降は響の守護を最優先の使命とする。

◇シエル

〝悪夢のなかで出会った神様〟と響が誤認した相手。

アスカの紋翼を無惨に引きちぎり、

響に〝混血の禁忌〟を犯した相手でもある。

アスカと因縁があるようだが……?

◆ヴァイス

ヤミ属執行者。

〝混血の禁忌〟に遭った響の首を切り落とそうとした。

長身かつ顔面をペストマスクで覆った容姿はシンプルに恐ろしい。

アスカの元育て親、ディルの相棒。

◆ディル

ヤミ属執行者。

しかし軍医的位置づけであるため執行行為はご無沙汰。

ヴァイスの相棒かつ響の担当医、キララの元育て親でもある。

素晴らしい薬の開発者でもあるが、ネーミングセンスがことごとくダサい。

◯乃絵莉

響の妹、だった少女。

響にとって何よりも守りたい存在。

響が〝半陰〟となって以降は一人っ子と再定義された。

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