第212話「祟り神」

文字数 2,909文字





                   ―AM0時05分―


                 《立ち入り禁止区域内》

·····此処から先は怨霊の巣と化している―――――
三屍蠱がいろはの体への侵入を防いだとしても精神への攻撃は避けられない
··········
て、事で·····

こんな面倒な案件はさっさと終わらせるに限るから初っ端から飛ばして行こうかと思うんだが――――

····えっ?!
俺が冥界の穴の手前まで行くのに、いろはには援護してもらいたい
っ!!
怨霊によるいろはへの精神攻撃は俺が防ぎながら向かうが、穴に近付くと怨霊以外にもやばいのが出てくる筈だ
や、やばいの····って?
···冥界にも地獄のような場所があるんだが、その場所は「冥獄」と呼ばれていて、そこでは地獄よりもハードな拷問がなされているそうだよ
ごう··もん····
まぁ、「冥獄」に堕ちる程の者達は天上の神にも見放され、一本の蜘蛛の糸すらも掴めないような者達だ
身体をグチャグチャに潰されながらも苦しみから解放される事なく永遠に冥獄に存在させられる
···········
一体何をすればそんなに罰せられるの····
····さぁな――――

俺達には想像もつかない程の罪だと言う事だけは理解している

····そんな事はあまり考えたくもないがな
···········

それで···、そのぐちゃぐちゃな身体を持つソレが出てくると···?

ああ――――

だが、奴らは結局のところ苦しみと絶望が残るだけの動く遺体だ

い、遺体····?

(嫌な予感が····)

もはや意思は無く、ただただその場から逃れたい一心で動いている
そ、それを私にどうしろと···?
···········
ニコッ
考えるまでもないだろ?
··········
カルラの能力を使って奴らを操り、面倒でネチっこい絡みを抑えて欲しいってだけだから
·····やっぱり
い、いや····

私はそんな能力微塵も使った事が――――――

·····まぁ、そんなもん···使う機会がある方がやばいからな
·············

うーん

それが出来ればカイトは楽になるの?
勿論!本来一人で奴らと対峙しながら能力解放しなきゃならないし、結構苦労するんだよ
それに、その方法ならいろはは少し離れた所から遠隔操作も出来るから安全だしな?
··········
その場から動かなければ俺の結界で安全圏を作ることも可能だ
なるほどな·····
さ、三屍蠱さん····っ
いろは、こんなチャンスは滅多に無いぞ。そなたも能力を開放すると良い
えっ?!
せっかく不老不死に戻ったんじゃ

そなたの寿命を多いに使い、怨霊共を成仏させるのじゃよ

怨霊を成仏っ?!
そうじゃ、出て来る怨霊共に黄泉がえりの能力「復元」を使用する
さすれば、ヤツらは思わず召されるであろう
復元って、怨霊を成仏させられるのか··
···って言うかそれを私はゾンビを食い止めながらやるんですか?
なるほど、それは名案だな
大丈夫じゃよいろは

そなたなら余裕じゃろ

っっっ!!!!!??



····こ、これは

完全に他人事じゃない?!

とは言え、カイトと一緒に行きたいって言ったのは自分だし、カイトの役に立つなら何だってやるに決まってるんだけど―――――


でも···何だか命の無駄遣いしてるみたいで気が引けるなぁ·····

これなら寿命の短い人に分け与えてあげられる能力の方が欲しいよ



よし、そうと決まったらサッサと終わらせて久々に飲みにでも行くか
修行僧のお言葉とは思えないわね
僧侶だって酒くらい飲むさ



因みに黒鉄さんはと言うと――――――――



·····わしは穴からの悪臭が酷すぎて鼻が曲がりそうなので此処で待機



との事だった······














          《怨霊の巣窟》

よし、じゃあこの辺に結界を施すからいろはは此処から動かずに俺を援護してくれ
う、うん!
三屍蠱、いろはを頼むぞ
任せなさい

··········



カイトが施してくれた結界は櫻井家が作る結界とは少し違っていて、光の輪の中に居るような感覚だ

前にも思った事だが、呪いを得意とする桐生家の結界とは思えないほど美しくて優しい光がとても眩い――――


そんな結界の中に私と三屍蠱さんを残してカイトはさっさと歩いて行ってしまった



いろは、カイトの周りに怨霊共が群がってきているぞい
っっ!!!!

は、はいっ!!

スゥ――――――――ッ
――――此処に群がる残息奄々(ざんそくえんえん)たるこの者達を黄泉返らせ給う―――――――

「傍若無人Life」発動っ!!!

カッッッッ



······あ


ちょっとやり過ぎたかも····





ぬおっ?!
······え?
ど、どうかしましたか三屍蠱さん?!
いや····、うん、まぁ·····
なんですか?
····今から2秒ほど前じゃがの
はい?
一瞬だけBBAに――――――

なっとったなぁとのぅ····

っっ?!



····ババアって事ですか?!


ま、まぁ···あれだけ放出したらそうなるかな―――――

カイトに見られなくて良かった



····おっ!

いろは!見ろ見ろ!!

····えっ?
いろはの命が、まるで特大花火のように爆ぜたぞ!
うわぁ····



その時爆ぜた私の命の光は数多となり、四方八方へと散りばめられた―――


その瞬間、好き放題に暴れまくっていた怨霊たちが一瞬青白く発光したかと思うと跡形もなく消え失せたのだった


·····そんな光景を目の当たりにした私が少しだけホッしたのも束の間、今度は穴の中から、遠目に見ても体の肉片がグズグズで今にも崩れ落ちそうな血達磨の肉塊が冥界の穴から這い上がろうとしていた



き、来た―――――――っ
いろは、怨霊共が静かなのはほんの数分じゃぞい!次から次へと出て来る事を覚悟せい!
だ、だったらその前にゾンビ軍を抑えるしかないわっ!









        《冥界の穴―手前》

····よし、いろはも何とか頑張ってくれてるな――――
これならいける·····
ㇲ――――――――――









···阿哩(アリ)、 那哩(ナリ)、 泄那哩(トナリ)、 阿那盧(アナロ)、 那履(ナビ)、 拘那履(クナビ)――――――
っっ!!!!!

け、結界円陣·····!

(櫻井家以外のは始めて見たわ···)
ぬぁっ!

闇淤加美神(くらおかみ)となっ!!?

クラオカミ····って―――――
ゴゴゴゴゴゴゴ
っ!!!!!!?
っっっ!!!!
·····さ、三屍蠱さん

アレは···何ですか·····?

····アヤツは元々美しい山や森の守り神であり龍神であり土地神として高貴な位に就いていた神様じゃ
――――え

で、でも···さっきカイトは「祟り神」って······

····そうじゃのぅ

···悲しいことに、人を呪い、土地を呪い、己すら呪ってしまったんじゃろうなぁ····。それで結果的に闇堕ちしたのじゃろぅ

····何故そんな事に―――――
そりゃぁ、クラオカミ本人とカイトにしか分からん事じゃぁ
········



闇堕ちした神様か····

そんなに位の高い神様でも闇堕ちする事があるだなんて···


それに、高貴な神様は能力だって相当高いはずだよね···

カイトはどうやって彼を支配したのだろう?

カイトが持つ能力の底知れない部分に、お父様である住職様は恐れを抱いたのかもしれない―――――






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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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