第190話「艶然(えんぜん)」
文字数 3,763文字
―廻天院―
《桐生家―客間》
そうしてカイトは私をお風呂場へ案内してくれた後、浴衣やタオルなど必要なものを預けてすぐに部屋に戻って行った
どうやら私がお風呂に入っている間に、私の寝床の準備をしてくれたり、数少ない私の荷物をまとめてくれたりと、色々お世話をしてくれていたらしい
以外と何でも出来る系男子なのかもしれない
····夜叉丸とは大違いね―――――
いや、夜叉丸なんだけども····
カイトは結い上げていた髪をサラリと解くと、軽くため息をつきながら部屋から出て行った―――――
あんなに長髪の似合う男子がいたものか?!
夜叉丸も昔は髪が長かったって言っていたし、イケメンってどんな髪型でも似合うのね·····
そう――――――
さっきの···カイトのお父さんの態度は一体なんだったのだろう?
最初はわりと冷たかった気がしたんだけど····
それに····私達よりも先に此処「桐生家」へ来ていた玄宥様―――――
玄宥様は櫻井家の血筋だ···
もちろん伊吹さんも櫻井家だし、子孫である『凪』さん?は伊吹さんと真那さんの血筋―――――
でも、元を辿ると伊吹さんのお父様である遊馬さんは「桐生家」か···
―AM3時10分―
《客間》
色んな事を考えていたらいつの間にか時間が経っていたようだ―――
お風呂から上がって来たカイトは当然の如く浴衣を着ている····
筋肉質でしなやかな美しい体のラインは袈裟姿でも分かるくらいだったが、浴衣となるとますます分かりやすい
何となく目のやり場に困るな···
エクリュでは私のほうが先に爆睡してしまっていた為、カイトに添い寝をされていたことは知らなかった···
(後日、イカタル*さんから聞かされた)
そんな状況に簡単に慣れる筈もない
···更には、降ろしている髪がまだ少し濡れているからか、浴衣が濡れないように肩にバスタオルを掛けている姿がこれまたカイトのカッコ良さを増幅させている気がする―――――
···まぁ···
明らかに私よりも色気がある事は確かだ、うん
そんなに色気を大放出しておいて私と一緒に寝る気か···
カイトはもう少し自分の破壊力に気付いた方が良いと思う
―AM8時50分―
《桐生家》
昨夜は結局、緊張し過ぎて直ぐには眠れなかった···
···それに、これまでホシ猫さんとの自由な生活をしていた私にとって時間に縛られる普通の生活スタイルに戻すのは中々至難の業である
不老不死の私には特に必要の無いスマートフォンなんて既に持ち合わせておらず、腕時計すらも持っていないのにましてや目覚まし時計なんてある筈がない···
実際、時間を気にする必要はなかった··
宿泊所にしても現代には24時間営業の所は沢山あるし、今の私にとって人生とは鬼の「復元」なのだから―――――
そんな事を考えつつ、隣で寝ているはずのカイトをチラッと横目で確認してみたが···
いない―――――
まぁ···当然よね
カイトは完璧な教育を住職であるお父さんから受けているであろう事は見ていればよく分かる···
きっと子供の頃から厳しい躾の中で生きて来たに違いない···
と、その時――――――
私達の客間に入ってきたのは玄宥様だった―――――
カイトかと思ったけど、カイトならノックなんてしないか····
玄宥様がココに居ることをカイトは知っているのかな?
本当は···隣で寝ているカイトにドキドキしっぱなして殆ど眠れなかった――――――とは言えない
そう言えば玄宥様って人の心が読めるんだったわ····
と、その時――――――
そう言うと、玄宥様はまたしてもニマニマしながら部屋を出て行った···
···何処に行くのだろう?
カイトのお父さんにもう一度、ちゃんと挨拶もしたかったんだけど···
まぁ、第一印象が悪かった上に寝坊したとなると···ますます嫌がられちゃうかな―――――――