第190話「艶然(えんぜん)」

文字数 3,763文字





          ―廻天院―


          《桐生家―客間》

いろは――――

···言い辛い事を言わせるのも何だけど、聞かせて欲しい
····えっと
で、でもね···

一瞬そう思っただけで、実際は全くどうでも良い事なんだよね···

·········
···どうでも良い···のか?

本当に?

うん···
むしろ、こんな年になってまで気にしちゃった事の方が恥ずかしいくらい
··········
····もしかして

正式なモノが欲しい···とか?

えっ?!
····図星?
··········

···だったらそれは···、俺がいろはを不老不死から救い出せた時にちゃんと伝えるよ

っ!!
··········
····不満そうだな
えっ?!

そっ、そんな事は無いよ?!

··········
心配しなくても大丈夫だよ
·········
俺が必ずお前を元の体に戻してやる
っ!!!
····だからその為には先ず···

今は風呂に入って、しっかり睡眠を取る事――――だな

····うん
明日は明日でやる事があるし、夜は鬼狩りに出掛けなければならないけど大丈夫か?
っ!!!
····勿論!
よし、それじゃあ行こうか



そうしてカイトは私をお風呂場へ案内してくれた後、浴衣やタオルなど必要なものを預けてすぐに部屋に戻って行った


どうやら私がお風呂に入っている間に、私の寝床の準備をしてくれたり、数少ない私の荷物をまとめてくれたりと、色々お世話をしてくれていたらしい


以外と何でも出来る系男子なのかもしれない

····夜叉丸とは大違いね―――――







いや、夜叉丸なんだけども····



カイト····、有難う···
····ん
····カイトもお風呂どうぞ
···了解

いろはは先に寝てていいから

···うん
フー

(さすがに少し疲れたな···)



カイトは結い上げていた髪をサラリと解くと、軽くため息をつきながら部屋から出て行った―――――



············
か·····カッコいい―――――



あんなに長髪の似合う男子がいたものか?!

夜叉丸も昔は髪が長かったって言っていたし、イケメンってどんな髪型でも似合うのね·····



わ、私も髪伸ばそうかな···
··········
···ってそうじゃなくて!

そっちよりも今はもっとちゃんと考えなきゃならない事があるでしょっ



そう――――――


さっきの···カイトのお父さんの態度は一体なんだったのだろう?

最初はわりと冷たかった気がしたんだけど····


それに····私達よりも先に此処「桐生家」へ来ていた玄宥様―――――


玄宥様は櫻井家の血筋だ···

もちろん伊吹さんも櫻井家だし、子孫である『凪』さん?は伊吹さんと真那さんの血筋―――――

でも、元を辿ると伊吹さんのお父様である遊馬さんは「桐生家」か···



····そうなると――――――
『凪』さんって凄くない?!

だって、陰陽師の櫻井家とイタコの十朱家と呪術師の桐生家の子孫って事になるよね?!

···········
·········

櫻井と桐生―――――

····平安時代、櫻井家と桐生家の間に出来た溝―――――
そして···遊馬さんの―――――

ブツブツ···







           ―AM3時10分―


                  《客間》

ガラッ
っ!!
····あれ
····まだ起きてたのか?
あ···、うん···

色々と考える事が多くて····



色んな事を考えていたらいつの間にか時間が経っていたようだ―――


お風呂から上がって来たカイトは当然の如く浴衣を着ている····

筋肉質でしなやかな美しい体のラインは袈裟姿でも分かるくらいだったが、浴衣となるとますます分かりやすい


何となく目のやり場に困るな···


エクリュでは私のほうが先に爆睡してしまっていた為、カイトに添い寝をされていたことは知らなかった···

(後日、イカタル*さんから聞かされた)


そんな状況に簡単に慣れる筈もない


···更には、降ろしている髪がまだ少し濡れているからか、浴衣が濡れないように肩にバスタオルを掛けている姿がこれまたカイトのカッコ良さを増幅させている気がする―――――



···まぁ···

明らかに私よりも色気がある事は確かだ、うん



············
····これまでずっと「復元」をして来たいろはは夜型だったろうしな、眠くもならないか
···そっ、そんな事はないけど―――――
って····、カイト
ん?
····カイトは――――

どこで寝るの?

···············
····ここだけど?
···え

でっ、でもお布団は一つしか····

···一つあれば十分だろ
···············



そんなに色気を大放出しておいて私と一緒に寝る気か···

カイトはもう少し自分の破壊力に気付いた方が良いと思う











        ―AM8時50分―


               《桐生家》

ハッ!!
·····ック

また、寝坊してしまったわ···



昨夜は結局、緊張し過ぎて直ぐには眠れなかった···


···それに、これまでホシ猫さんとの自由な生活をしていた私にとって時間に縛られる普通の生活スタイルに戻すのは中々至難の業である


不老不死の私には特に必要の無いスマートフォンなんて既に持ち合わせておらず、腕時計すらも持っていないのにましてや目覚まし時計なんてある筈がない···


実際、時間を気にする必要はなかった··

宿泊所にしても現代には24時間営業の所は沢山あるし、今の私にとって人生とは鬼の「復元」なのだから―――――



···とは言え、普通の体に戻ったら昔の生活スタイルにして行かなきゃならないのもまた事実ね····



そんな事を考えつつ、隣で寝ているはずのカイトをチラッと横目で確認してみたが···



いない―――――



まぁ···当然よね

カイトは完璧な教育を住職であるお父さんから受けているであろう事は見ていればよく分かる···


きっと子供の頃から厳しい躾の中で生きて来たに違いない···



と、その時――――――



トントン―――――
っ!!
は、はい···っ
いろは、おはよう

あ···

玄宥様、おはようございます



私達の客間に入ってきたのは玄宥様だった―――――


カイトかと思ったけど、カイトならノックなんてしないか····

玄宥様がココに居ることをカイトは知っているのかな?



良く眠れたか?
···えっ――――と

は、はい!それはもうグッスリと!



本当は···隣で寝ているカイトにドキドキしっぱなして殆ど眠れなかった――――――とは言えない



·····フッ
いろは···、良かったな
えっ?!

ななっ、何がです?!

転生した夜叉丸は、想像以上に素直だ。前世での未練が余程残っているらしい反動だが良い傾向だな
··········
····ホシ猫の方は――――

とても心配していたぞ

っ!!!!
···ホ、ホシ猫さんに――――

会ったんですか···?

いや···、実際に会ったわけでは無いが、ホシ猫の強い思いが様々な境界を越えて来るんだよ
···ホシ猫さん
···もし、夜叉ま··じゃなくて、カイトの術式が上手く行ったら、ホシ猫に会いに行ってやってくれ
····はい

必ず会いに行きます

·····って何でその事を知っているんですか?!
俺を誰だと思っているんだ

仏にはなんでもお見通しさ

····ック

(ドコからドコまで知ってるのかしら)

フフ

ぜーんぶ知ってるよ?

っ!!!!



そう言えば玄宥様って人の心が読めるんだったわ····



仏には天眼通と言うモノがあるからね。確か黒鉄にもその能力があったよな〜····謎だ
····黒鉄さん
····そう言えば、玄宥様を口寄せしている「凪」さんとはいつお会いできるんでしょうか?
あぁ、凪が疲れ切ったら一旦口寄せは終了するとは思うが····
っ!!
·····?
···凪もいろはに挨拶をしたがっているぞ?
唯一「復元」の出来る存在であり、不老不死の君には憧れすら抱いているようだ
っ?!
···何故、凪さんは復元を私が行っていると知っているのですか?
そりぁ···、俺といろはの会話を聞いているからだけど?
···あ、あ〜···なるほど



と、その時――――――



ガラッ
おいっ!!

玄宥様!!此処で何してんだよ!

いろはの寝所に入るとか仏が聞いて呆れるぞ!!
おっ!

やっと来たか〜カイト!遅いぞ♡

イラッ
···しっかしアレだなぁカイト、その顔面は俺に対する挑戦状か?
··········
·········

言っている意味が分かりませんね

そんなに怒るなよ〜

別にいろはを取って食ったりしないよ

············
···俺ってば仏様なのに信用ないんだなぁ〜
····そんな事より、住職が探していましたよ!ご自身の目的の為だけに行動されてはいかがですか?
はいはーい

じゃあまたな、いろは!

はい、また後ほど



そう言うと、玄宥様はまたしてもニマニマしながら部屋を出て行った···



·····ハァ
···油断も隙もないな
カイト···

玄宥様はそんな方じゃないよ?

·········
分かってる····
でもそういう問題じゃない
··········
取り敢えず、これからいろはを案内したい場所があるんだが···付いてきてくれるかな?
っ!!
う、うん!



···何処に行くのだろう?

カイトのお父さんにもう一度、ちゃんと挨拶もしたかったんだけど···


まぁ、第一印象が悪かった上に寝坊したとなると···ますます嫌がられちゃうかな―――――――






ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色