第110話「縁(えにし)」
文字数 1,610文字
《江戸―城下町》
申し遅れたが、俺の名前は「釈 玄宥」だ。そしてこっちは俺の弟子の夜兎(やと)····
···ヤトです。ヨロシク
ゲンユーとヤトね、ここで会えたのも何かの縁だしヨロシクね
···········
お前らが何のためにこんな時間に徘徊してんのか知らねえが、今日は鬼の気配がまるでねぇから安心しとけ
っ！！！！
これは··、凄いな
普通の人間にも化けられるんですね
はぁ？俺はそもそも普通の人間なんだよ！！
···君の生態はどうなってんだ？
知るかっ！！
神仏共に聞け！
っ！！！
まぁ、夜叉丸の事について話すと遡ること500年も前の話になってしまうから、時間のある時にね
ご、500年？！
それは既に普通の人間じゃないでしょ！
夜兎、鬼化している時点で普通とはかけ離れているだろ？
うるせぇな！
因みに、君も中々変わった百鬼のようだな
っ！！
ホシ猫かい？
ホシ猫はただの仙狸(せんり)だよ？
そう、仙狸はかなり貴重な存在だ。絶滅したと聞いていたんだけどな··
仙狸を知っているとはね··
···見た目は普通の三毛猫ですけど
三毛猫、可愛いだろう？
これでも結構人間からモテるんだよ？
自分で言うことか！
まぁ、取り敢えず今日のところは引き上げよう。確かに鬼の気配をまるで感じない
···てめぇ、やっぱ一般人じゃねえな
········
確かにこんな日は珍しいけど、ホシ猫的には君達の方に興味があるし丁度良かったよ
··俺達に？
あぁ？！
···どう言う意味ですか？
·········
····ところで、君達の家は近いのかな？
俺達は遠くから来ているから、近くに宿を取っている···けど··
········
あぁ···、なるほどね
玄宥様？
·······
ふ···
仕方ないな···、君達の分も追加してあげるよ
な、何だと···？！
《宿》
おや、お帰りなさい
玄宥様
主人、すまないが宿泊客を1名と、猫一匹を追加してもらっても良いか？
猫もですね···
ええ、勿論構いませんよ
悪ぃなじーさん！
·······
有難う御座います
ようこそおいでくださいました。
ごゆっくりどうぞ
《蔓の間》
ず···、随分広い部屋じゃねえか
···そうかな？
···あ？
玄宥様は、中務省陰陽寮陰陽師に指定されている陰陽頭(おんようのかみ)、つまりは位の高い方なのです
お、おんようりょう··怨霊？！
夜叉丸、陰陽師だよ。
それもかなり腕の立つ幹部だ
へえ、ホシ猫は人間に詳しいんだな
まぁ、長く生きていると元号や世界情勢にも興味が湧いてくるものさ
陰陽師かよ！
ろくなもんじゃねぇな！！
なんだと？！
玄宥様に向かって失礼だぞ！
夜兎、問題ない。
夜叉丸は半分鬼なんだ、そう思うのが普通だろう
ふん！
それで、何を夜中にコソコソとやっていた？
········
···夜叉丸はずっと江戸にいたんじゃないのか？
あ？
いたけど何だよ？
ならば此度の騒ぎを何故知らない？江戸中で大騒ぎしていた様なのだが
····何の話だ
···江戸に目一鬼(まひとつおに)が出たんだ
目一鬼だって？！
俺達は普段東北のとある場所を拠点としているが···、江戸から目一鬼の排除依頼が来た
普通は江戸から私達の元へそんな依頼なんか来たりはしないんだ！
なるほど、確かに江戸には優秀な陰陽頭(おんようのかみ)が沢山滞在しているはずだからね
もし、陰陽頭たちが対処出来なくて俺に依頼が来たのだとしたら、かなり苦戦を強いられることになる
あ〜···、もしかしてその日··
····？
火山の麓にいたかもしれねぇな···
火山？！
何のためにそんな危ない場所へ？！
···あ、そうか
温泉に····
·····温泉
おっ、温泉？！
鬼狩りの鬼が温泉に居て目一鬼を取り逃がしたんですか？！
し、しゃーねぇだろがっ！！！
ずっと風呂に入れなかったし！
まぁ、間合いが悪かったん····
ふ··、金が···無かったんだな··
············
············
図星であった····
