第167話「ディナーに誘われて」
文字数 2,427文字
《黒崎家》
―――ピーンポーン―――――
夜叉丸が輪廻転生してから一ヶ月、未だに何かがポッカリと空いてしまったような感覚が消えない―――――――
···普段から俺様発言ばかりで、何かって言うと怒ってばかりだった夜叉丸
だけど、そこに本心はなくて···本当は凄く優しい人だって事を私は知っている
―――でも、そんな事ばかり考えていると会いたくて仕方が無い···
私はこの虚無感を何とか埋める為、バイトに明け暮れる日々を送っていた
···とは言え、ずっと黒崎さんのお世話になるわけにも行かないのと、そろそろ鬼狩りを始めなければいけないため、旅の資金を貯める必要があるのも実際の所だった
黒猫マートでの今日のバイトは既に終了しており、そろそろ夕御飯の準備をしようかと思っていた矢先の来客は、あの日以来の真那さんだった―――――
行ってきまーす!
ガチャ―――――――パタンッ
《古民家Cafe―ゑ來屡》
これは一体どう言う事なんだろう···?
店主のルカさんの正体は鬼族の族長であるカルラ様だった―――――
カルラ様はナズナさんと共に輪廻転生されて、このお店は放置されているのではと少し気掛かりではあったのだけれど···
ここへ来る決心が付かないままに過ごしてしまっていた
まさか真那さんに連れて来られるとは思ってもいなかっただけに、心の準備が全く出来ていない状態だった――――
真那さんはイタコなだけに人の心情を読み取るのが得意なのかもしれない―――――
ふわりとした笑顔で私にそう言った
《ゑ來屡―店内》
カランカラン――――――
私は真那さんと共に恐る恐る店内に入った――――
店内は以前と何も変わってはおらず、相変らず武家屋敷の趣きと懐かしい雰囲気で包まれている···
入り口から入ってすぐにある囲炉裏には赤い火が灯り、グツグツと美味しそうな音と匂いをたてながら鍋が吊るされていた
と、その時だった―――――
従業員なのか、焦ったようにパタパタと女性がこちらへ向かって来た――――
な、なるほど····
単純に新しいオーナーさんに変わっただけだったのね――――
きっとここの地主さんが配慮して下さったのだろうと私は勝手に納得していた
····それにしても―――
変わったオーナーさんね··
お店の中でクーラーボックス持って歩いてるし、頭の上には何やら可愛いけれど一風変わったマスコットキャラのカチューシャもしている···
でも、見れば見るほどに美しい女性だ
長くサラサラなポニーテール、まるでパールのような耀きでいて毛先はオーシャンカラーのよう···、何だか海の中を見ているような気持ちになっていた――――――
その時―――――――
お客さんが来ていたッスね!?気付かずに申し訳無かったッス―――――
私達の目の前に現れたのは····
鬼族の幹部、「廃炉」さんだった――――――