第158話「玄宥の心 廃炉知らず」

文字数 2,752文字





       

         《春の闇》

夜叉丸っっ!!!!
うぐ···

くっ······そ····

夜叉丸···!



カルラの激しい攻撃を辛うじて受け止めた夜叉丸だったが、体勢を崩したが故にその勢いを抑えきれず、地面に叩き付けられていた―――――



ゼェゼェ――――

(クソ···ッ 今にも意識がぶっ飛びそうだぜ···!)

つ!!!

(石頭の夜叉丸から血が流れている!)

フン···

所詮キサマなどその程度か

···もう少し手応えがあるものだと思っていたが···過剰評価だったようだ
カ···ッ、カルラ――――!!!
(···いろはを取り戻すまではクタバル訳には行かねえ···!!)


と、その時だった――――――






キュイン―――――···
ピクッ



ホシ猫の聴覚にかすかに聞こえた音···

それは聞き覚えのある音だった



夜叉丸っっ!!!!!

コチラへ向かって走るんだ!!!!

っっ?!?!
オーマ!!ヒヅキと夜叉丸を担いでコッチに来てくれ!!
えっ?!

二人も担ぐのはちょっと―――

?!



その時、ホシ猫の耳に聴こえて来たモノ―――――


それは急速に範囲を拡大し始め、春の闇を覆い尽くしてしまうのではないかと思うくらいに巨大且つ最大の円陣···


まさにレイが放った真言結界だった



な、なんだこのヤベェもんは!!!?
夜叉丸!!!



事の重大さに気付いたオーマは左腕にヒヅキを、右腕に夜叉丸を抱きかかえてレイの結界から抜けるために走り出した



ぐぉっ!
くっそ!サスガに成人二人は重いぜ!!!
ってか、レイさん何処にこんな余力が残ってたんだ?!まさか「孔雀明王招来法」を使うなんて!
オーマ!!


その時、何故か上から颯爽と飛び降りてきたのは黒鉄だった――――


っ!!!

く、黒鉄?!

鬼狩りをよこせ!

仕方ないからわしが運んでやるのだ

····俺はモノか!
黒鉄っ!

丁度良かった、黒鉄はデカいから夜叉丸くらい簡単に運べるね

···········!
(この忌々しい結界····!陰陽師のモノか··、まさか冰鬼と暁鬼が殺られたのか?)
(あり得ぬ···!アイツらの能力は長けていた··、復元してからの消滅など容易では無いはずだ)
···········
···フン

一筋縄では行かぬと言う事か










         《春の闇》

         ―廃炉VS玄宥―

っ!!

(この気配は····)



現在、玄宥は廃炉の「眼帝降(メテオ)」から身を守るため、呼び出した十二天将「騰蛇(トウダ)」の蜷局(トグロ)の中に身を隠していた―――――



真言による明王招来法···!

これは確実にレイの能力だな

瞬時に決着を付ける必要性があったのか?!しかし、最大限の力を注ぎ過ぎている····!
これ以上結界の範囲を広げれば、レイもタダでは済まされんぞ··!
····な、何だ?

凄まじく悪寒が走るのだが···!

(野生の感?)

····ハッ



ほんの一瞬、廃炉が玄宥から意識を反らしたその時、玄宥は呼び出していた十二天将の「騰蛇(トウダ)」を解除し、廃炉の目の前から姿を消していた――――



え、えぇっ?!

いっ、一体何処に――――

廃炉っ、俺は此処――――っ
っっ?!!



玄宥のその声は、廃炉の頭上から聞こえていた


玄宥は廃炉の上空で体を旋回させ、勢いを付けたまま頭上から激しい蹴りを食らわせようとしていた―――



――――だよっっ!!!
っっっ!!!!!!



玄宥の激しい蹴りは、廃炉の首元(うなじ)に入ったかのように思えた

だが、身体能力の高い鬼である廃炉はギリギリで反応し、玄宥の蹴りを両腕で防御したのだった



!!!!!!

げ、玄宥っ!!!キサマァァ!!

隙を突くとかっっ、仏が聞いて呆れるぞ!!
悪いけど、もはや悠長に構えてられなくなってきたんだ
そ、そんな事は最初っからずっとワタシはそうッス!!!
(イカタル*さん····!!)
廃炉、君は既に力の使い方を間違えているだろう?だから、ココからはせめて体術で勝負しようかと思ってね
はぁ?!
これでも譲歩しているつもりなんだよ?
っ!!!?
だから―――――――
ワ、ワタシを愚弄する気···ッスか
っ!!
···そんなつもりは毛頭ない
分かっているッス····!!仏になったアンタに敵わない事など―――!!
だが···、ワタシにも誇りはある··ッス!!!!!
っ?!
(これはマズイ展開かもしれん··!)
鬼族としての誇りが!!!

っ!!!

(やはり····)
廃炉!これ以上能力を使うな!体が限界を超えるぞ!
っ?!

アンタに心配される筋合いは無い!

これはワタシの覚悟ッス!!
(枯渇状態でまた能力を使うつもりか···?!)
(廃炉の得意としている「空間移動」は実際に存在する物を出現させる能力だ···)
(次に何が来たとしても、防ぐことは可能なはず――――)
「能力変換能力」発動!!!
なっっっ!!!???



そう叫んだ廃炉は、距離を取っていた玄宥に向かって片手を伸ばすと、何かを握り潰すように手を握り、そのまま地面に叩き付けるような素振りをした―――――――その瞬間だった―――



っっ!!!!!!!



玄宥の体は廃炉の動きに合わせるかの様に急激に下へ引っ張られたのである



くっっ!!!



それはまさに地面に叩き付けられる程の強い力だった


さすがの玄宥も、これには地面に両腕と両膝をつく形となる



こっ、これは何だ···?!ハァハァ

体中が押し潰されそうだ···!!!

(まさかこれは―――有引力?!)
うぅ―――――··っ






ハ···ッ!!!!
(こ、このままではマズイぞ!!!マナが死ぬ―――――)
····ッハァハァ

げ、玄宥···!このままここで押し潰されていればいいッス···!!




キュイン―――――――
っっっ!!!!
(レイの結界が――――――)
ま···マズイ····ぞ···っ

廃炉――――、に··げろ――――

っ?!
·····な、何を言ってい――――
くっそ···!!

こ···のままで···は····

玄宥様――――――




っ!!?

(マナか···?!)

六合(リクゴウ)を――――――




っ!!!!!



マナの言う六合(リクゴウ)とは――――


陰陽師に仕える十二天将の内の一であり、平和と調和を司る象徴である


マナは以前にオーマが六合を呼出しているのを目撃していた事があるのだ



は、廃炉····!

このまま··ここにいれば、レイの結界に灼かれ··消滅してしまうぞ··!

一体、何の話をしているッスか?!
ワタシの意識を反らすための嘘ならば、そんなモンには引っ掛からないッスよ!!
俺は君を··死なせるわけには··いかない····っ
っ?!

い、今にも死にそうなのはアンタの方ッス!!!

···悪く思わないでくれよ
だから!何を言っているのか分からないッス!!話が噛み合わな―――――――――――



廃炉が言いかけた時―――――


それは唐突に起きた

何故か後頭部に激しい衝撃と激痛が廃炉を襲ったのである



ぐがぁ····っッッ











ドサ――――ッ

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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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