第195話「氷の魔王を返上しろ」

文字数 3,559文字






        ―PM4時15分―


            《桐生家―蔵―倉庫》

·····うーん
····紙に穴があくほど眺めているが―――――
どれだけ読み返しても肝心な所はヤハリ書かれていないな····
····そうですねぇ

動機についてはさすがの母親にも分からなかったのかもしれません

まぁ、さすがにここまで来るとかなり危険なレベルだからな―――――
陰から見ているとは言え、これ以上首を突っ込むのも·····



その時―――――



····あれ、こんな所でなにをされているのですか?
おお!カイト帰ってきたか!
ただいま戻りました
お帰りなさいませ

いろはさん―――――

っ?!
···········
いろは、疲れたなら先に部屋に戻っていてもいいぞ?
っ!

大丈夫だよ

三屍蠱さんの壺を片付けないとっ
·····次は何を作ろうか?
えっ?!

また蠱毒を作るの?!

いろはを護らせる為には他にも必要だろ?
·············

(これ以上、彼らに共喰いをさせるわけにはいかないわ····)

か···、カイトが――――
······?
守ってくれれば良いと思う····
·······
それもそうだな·····
···········



そんなに照れられると言ったこっちが恥ずかしいじゃない····!



············
······お前ら
俺の目の前でイチャつくなよ···

(羨ましいな!)

っ?!
···フッ····玄宥様

羨ましいんですか?

·····さあ〜

どうでしょうね〜

イラッ
と、言うか···そもそも、いろはには破魔の剣をレイが持たせてやっていたはずだろ?アレはどうしたんだ?
あ···、あ〜···モガさんはぁ〜···
アレは口が悪く、とても煩かったので封印しましたが何か問題でも?
······カイト―――――
あの破魔の剣は俺が譲り受けたものだぞ?!せっかく付喪神が宿ったのに!!
····玄宥様の?

その割には随分ファンタジーでダサい長剣ですね?

アレは遥か昔、その時代では珍く外国から来た者が友情の印にと櫻井家に置いていった超絶レアな剣なんだ!それに元々は短剣で、遊馬が使った時に長剣に――――――――
···········
············
――――――どうした慧慈?
····あ、いえ

あのカイトが――――――コホンッ

····いろはに優しくしているのが意外だったか?
····ええ、まぁ··

カイトは昔から女性に対しての態度が冷たすぎて氷の魔王と呼ばれていましたので――――――

こ、氷の魔王·····!

ブホッ

(氷の魔王·····?!こんなに甘々なのに?!)
·············

いろは以外に優しくする必要など全く無いからですがそれが何か?

·········我が家は代々、霊力の高い家柄の女性と婚姻しなければならないと言うのに···、お前の態度で女性達が泣きながら逃げていくんだぞ?
もう少し自覚しろ
っ?!
··········



あぁ···やっぱり――――


分かってはいたけれど、私は望まれていないのね···

まぁ、家の事情だもの仕方がない――――――



そうだぞカイト?

女性には優しく紳士に接するのが基本中の基本だ!

シラ――――
お前ももう29歳だ

さすがにそろそろ結婚も視野に入れて――――――

··········
·····何を言うかと思えば
ですから、一番最初に申し上げましたように····結婚についてはご心配には及びませんよ
私はいろは以外の女性と結婚するつもりはありませんので
···········
······カイト―――――
····いろはさんは特別な方だ

その様な方をたかが桐生家に繋ぎ止めておく事など恐れ多いのだ

···········?!
彼女は·····言わば孔雀明王様の仕いにも等しいのだぞ
·········

だから何ですか?

っ?!
父さんに何が分かるのです?

これまで私が何と戦ってきて今に至るのか―――――――

·····ずっと探し続けていた女性(ひと)をようやく見つけ出した私の気持ちに、口を挟むのはおやめ下さい
っ!!!!
カイト····
それに、これは私達の気持ち以外にも選択肢は他にはありません
····なに?
これから先も、鬼化する人々の数は減らない····、そしてそれを復元するのはいろはです――――――
····その復元された人々の業を取り除き、呪いをかける桐生家····
しかし、いろははこの先私と共に生き、共に死ぬ事が出来る
·····な、なにを―――――
復元はいろはにしか存在しない能力ですが、これは継承する事が可能だと思っています
····いや、継承というよりは受け継がせると言う方が正しいか――――
へぇ〜···

なるほどね、色々考えて行動してきたんだろうなぁカイト····

っ!
····まあ、ああ見えて夜叉丸も実は結構聡明な奴だったからね
··········
·····その為にはつまり、私達の結婚は絶対的な条件に含まれる
·····残念ですが父さん···

俺は貴方の敷いたレールの上を歩くつもりは毛頭ない

·············
·····まったく
子供とは私達の知らない所で勝手に成長するものですね―――――
フッ

その通りだな慧慈···

だいたい、桐生家の婚姻の掟はもう既に破かれているではありませんか
······なんだと?
·····それはどう言う意味だカイト―――――
桐生 蒼羽の事です
っ!!!?
な、なんでカイトがその事を―――――――
·····カイト、なぜお前が桐生蒼羽の存在を知っているのだ?
あっ、もしかして····

ここの倉庫にあった日記を読んだとか?

····日記?

何ですかそれ?

確かにここは、私が呪具の研究に使っている場所ですが···呪いに関する資料以外に興味はありません
で、では何故―――――――
··········
·····桐生蒼羽···

彼はとても我が子思いの優しい男性でした――――――

ま、待て!!

それは昔に会ったことがあると言う意味なのか?!

··········

いえ、彼とは―――――――

······っっ!!!!?
っ?!

玄宥さま···?

········くっ

な、凪――――

っ!!
おま····っ、もう···少し――――

タイミ··ングってもんが·····

玄宥様?!

大丈夫ですか?!



その時、玄宥様は崩れ落ちるかのように地面に膝を付き、カイトのお父さんである慧慈様に支えられていた···

そして、下を俯いている玄宥様の姿は少しづつ変化しているように見える··


····この風景は前にも見たことがあった――――――


そう、それはイタコの伊吹真那さんが口寄せしていた玄宥様を解除した時である



·····も、もしかして――――――



そう思った次の瞬間····

俯いていて顔は見えないものの、すっかりと小柄な背中に変わり果てた玄宥様···?は慧慈様に起こして貰いながら私達の方を見据えた···


····そしてその時の私は、その凛とした美しさから視線を逸らすことが出来ずに見惚れていたのだった―――――



·······ボケ〜··
··········

(なんて美しい人なのだろう···、男性のような凛々しさも兼ねていて、これは男女共に惚れそうね···)

ふぅ······
············
何日連続で口寄せしていたと思っておられるのか···、まったく玄宥様は勝手すぎるのですよ―――――
あ、あの·····

もしかして――――――

凪さんですか····?
っ!!!
·············
こっ、これは···っ!

ご挨拶が遅くなり申し訳ありません、いろは様!!

さ、様っ?!

··は必要ありませんよ?!

は···はい!

私の名は『伊吹 凪(いぶきなぎ)』と申します!何卒宜しくお願い致します

こちらこそ宜しくお願いします!
······因みに、私も自己紹介をさせて頂いても宜しいでしょうか?
っ!!!!

も、勿論です!!

っ?!



あ、あれ?

なんかカイト···、ちょっと格好つけてない?


まぁ、凪さんめちゃくちゃ素敵な女性だからね!女の私でもドキドキしちゃうし、仕方ないかな?



私は、桐生海弦と申します

凪さんは伊吹家の方ですね?

は、はいっ!

今回は玄宥様に無理を言って、私と先祖の願いを叶えて貰いに参りました

·····凪さん、カイトは貴女よりも年下なので敬語ではなくても大丈夫ですよ?
·····あっ、いや····その···
···それでもカイト様は、あの『鬼狩りの鬼』だったと玄宥様から聞かされておりますので―――――
····あぁ、そんな事は気に為さらないで下さい。昔のことですので···
····ええっと―――――
···ですので、どうぞタメ口でお願い致します
っ?!

―――――ゾッ



えっ?!

そんなキャラだったっけカイト?!

なんか知らんがよく喋るし


ちょっとどころかカナリキザっぽくてなんとなぁくイラッとしちゃうな!

氷の魔王が聞いて呆れるわ!

返上しろ!!フンス!



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色