第8話「調理台の上のモノ」
文字数 1,150文字
－PM10時15分－
《鬼束屋敷－厨房》
ここが厨房か··、薄暗いわね··
し、失礼します··
···殆んど片付けられてんな
つーか、何か腹減ったぜ
食うもんは何もねえのか？
人の家の台所を勝手にあさったらダメだよ夜叉丸
人んち····か？
鬼の家なら問題ねえだろ
鬼···、でも確かここの家には本当にご老人が住んでいたはずだけど··
そんなんとっくに喰われてるぜ
鬼女は人間なら誰でも喰ってしまうんだよ、本当は若い女のコが大好物らしいけどね
ｿﾞ··ｯ
·····ん？
···と、その時
薄暗い厨房の調理台の上に何かが乗っているように見えた···
何だありゃ？
な···、何なの···これ···
魚っ！
おい、ホシ猫
喰うんじゃねえぞ
体の半分が魚····？
奇妙なヤツだな
ホシ猫、調べろ
仕方ないね
ホシ猫さんはそう言うと、さっきからずっと大事そうに抱えている巻物を床に広げた
·····この魚は
この巻物には載っていないね
ちっ、使えねえヤツだな！
でもこれ、見た事があるよ
あ？
昔、ジジイが読んでくれた本に絵が描いてあったんだ
本だと···？
(ホシ猫さんのご家族の方かな··？)
···だから
その魚はきっと『人魚』だね
·············
に、人魚···？！
人魚って···確か――――――
上半身がキレイな女の人で下半身が魚じゃなかった？
で、でも···
これは···上半身が赤ん坊だよね··
そのフォルムが余計に気味悪さを際立てる
有り得ねえ、
人魚なんて伝説の中だけの生き物だ
確かに、本当に見たことがあるヤツはいないかもしれない
現に、700年近く生きて来た夜叉丸ですらみた事がないのなら尚更ね
な···っ、700年？！
····ちっ
余計なことを言うな、ホシ猫
ニッ
だが実際にこうして、こいつは今ここにいる··。あの鬼女、一体何処でこんなもん手に入れやがったんだ
もし、この魚が『人魚』なら
伝説はその先の方が重要になるよ
っっ！！！
·······不老不死か
っっ？！！！
·········
なるほどな、全く··合点が行くぜ··
ふ···、不老不死···？
そう言えば····あの時····
鬼女が言っていた言葉··
我の永遠の食糧としてなぁ···！
永遠の食糧·····って···
まさか··、私を不老不死にして生きたまま喰い、再生させてはまた喰い、それでも私は年も取らず若いまま··
味が落ちることもなく永遠に喰われ続けていたって事···？
···············
(考えただけでも吐き気がする··)
(そう考えると、あの時夜叉丸が現れてくれて本当に助かったんだ··)
(それが例え、不老不死になってなくて··そのまま死んでいたとしても)
···············
私は···
夜叉丸がこんなヤツでも本当の意味で命の恩人だったんだと初めて認識した··
