第131話「いろはの思い」
文字数 1,810文字
《鬼の世》
《ナズナの部屋》
《春の闇》
····このヒト――――
知っている···
この声を私は聞いた事がある
何処かで会った···
このヒトの声―――――
何処かで聞いたことがある気がした··
あの夏の日の夕方···
和傘をさして私の前に立っていた
泣きじゃくる私の手を握ってくれたあの人――――
物静かで優しくて低い声····
私はあの時、とても安心していた
あの人の手をずっと握り続けていたんだ···
そう――――
そもそも彼の瞳には私(いろは)など写ってはいないんだ
···いや、そんな事はこの際どうでもいい
私はわたし···
姫城いろはだ――――
私を私として見てくれる人たちだって沢山いる····
ホシ猫さん···
夜叉丸···
《春の霞―朧》
ルカさんのその言葉を聞いたとき··
一瞬、私の脳裏に何かが過ぎった
それはとても懐かしいもので···
でも、とても心が苦しくなる何かだった――――