第161話「夜叉丸の勝手な意志」
文字数 2,188文字
《春の闇》
ｻﾜｻﾜｻﾜ―――――――――
――――――ﾚｲｯ
―――ﾚｲ！！――――――レイッ！！
··········うぅ
····だ、誰だ
さっきから俺を呼ぶのは――――――
っ！！！！
レイ！！！
やっと気がついたか？！
春の闇の心地良い風が桜を舞い散らせる中、レイは名刀「恵比寿丸」の呼び声で気が付いた―――――――
···エ、エビ····？
お前は最後の真言を唱えた後で、暫く意識を失っていたんだよ！
――――ﾊｯ
くっそ····
やっちまった―――――···！！
まぁ、でも良くやった方だぜ？
まさかあの状態で最強真言を持ってくるとは思ってなかったからな
····あ〜··、それで結局このザマだけど
····あの時の黒鉄の言葉にイラッとしてメチャクチャ無理をした結果がこれだ
フン、うまく猫又の策略に乗せられたんだろ
····え？！
お前の唱えた真言は完成され、見事に孔雀明王を招来したぜ？
ホラ、あれを見ろ
そう言うと恵比寿丸は、切っ先を夜叉丸達がいる方の空へと向けてみせた
··············
···············マジか
···しっかしデケエよな
ありゃ存在感がデカ過ぎてそう見えんのかぁ？
(最悪、孔雀明王を招来出来なかったとしても瀕死の鬼共を瞬滅する事は出来る予定だったんだけど···ﾗｯｷｰ)
どおりで雑魚鬼共の姿が見えなかった訳だ――――――
《春の闇》
·······最悪だ
いろは――――――
明王の中でもマカマユリは慈悲深い存在だよ···。何の罪もない彼女を消滅させるとは思えないが····
···········
く、孔雀明王とは····、以前にお会いしたことがあります―――
なにっ？！
本当かオーマ？！
はい···、あの時は切羽詰った状況で、マナが口寄せしたのですが····
ほう！
さすがはマナだ！
で、ですが····
以前お会いした時よりも···何ていうか···その〜
····ん？
随分、男らしくイケメンになったような気が―――――――
っ！！
あぁ···、あの姿は仮の姿なんだよ。そもそもマカマユリは女神だし
ええっ？！
？？？？
最近のマイブームは、自分好みのイケメンに姿を成す事だと言っていたな
あ〜····
ナルホド〜···
ゴゴゴゴゴゴ―――――――
··············
···人の命は儚い――――
限りある命を全うする義務があります
っっ！！！！？
(喋んのかよ·····！？)
故に儚い命をもつ者達を殺めることは許されません―――――
(ヤバ···、威厳のあるお姿(イケメン)なのに慈悲深くて優しさに溢れているギャップに頭が追いつかん！)
····ですが、無慈悲な決断を下すのは私の役割では無い―――――
私を呼起こした者よ···どの様な審判を望みますか？
あ、あ〜····
マカマユリ、君を呼出した本人(レイ)は恐らく意識を失っているはずだよ
(それにレイは無慈悲だからなぁ···)
·············
····玄宥、此処で何を？
え？俺？
いやぁ、ちょっと···野暮用···？
っっ！！！！！
(玄宥様ってやっぱスゲー！！孔雀明王と対等に話してるっ！！)
······ｯｸ
おい····！！
テメェ····いろはを返せ！！
···········
い、いろはは何の罪もねぇタダの小娘だぞ！！不老不死にだってなりたくてなったわけじゃねぇんだよ！！
···········
···鬼狩りの鬼よ
750年近くかかるとは―――――
情けない···
あぁっ？！？！
鬼狩りの事を言ってんのか？！情けないとか言われる筋合いはねぇぜ！！
···········
···不老不死の娘の意志は尊重しますが、彼女の中にはもう一人の意志が存在しています
鬼狩りの鬼よ····
お前はどちらの意志を尊重しますか？
·····っ！！
そんなん決まってんじゃねぇ―――――――
·········
······かよ··
·········
夜叉丸····
··········
···確かに、今この場でいろはの命が助かったとしたら、此れから先アイツはずっと生き続ける事になる――――
そんな状況が··アイツにとってロクなもんじゃねえ事くらい分かってんだよ
それに···、ナズナとか言う女のカルラに対する思いも―――――
·········ｯｸｿ
分かってっけどな！！！！
俺の勝手な意志はそうじゃねえ！！！
·············
···ならば、お前のその勝手な意志とやらを言葉にすれば良い
っっ？！？！
···彼らは現在私の光の中におり、思考は停止されています。審判を待っている状況なのです
お前のその勝手な意志とやらで彼らの運命は変わる事でしょう
·······ｷﾞﾘｯ
·············
····750年ではまだ足りなかったようですね
っ？！
······ﾌｯ
やはりマカマユリは慈悲深いな··
えっ？！
何がですか？！
····それでは、審判を始めます
····いろは
っっっ！！！！
···おっ、おい―――――ｯ
···決断の出来ない者は黙って見ていなさい
(急にちょっと厳しい···！)
っっ？！
そう言うと、孔雀明王は４本の腕を広げ、まるで鬼の世の全てを覆うかのように優しく包みこんだ――――――
次の瞬間····
眩い光は更に光を増し、その眩しさには誰も目を開けることがかなわない程だった
しかし、その中でも玄宥だけは目を見開き、光の中の２人を見つめているようにも見えた――――――
