第194話「見目麗しい親子」

文字数 3,543文字






        ―PM12時10分―


         《区塀良―ショッピング街》

·····くべいらショッピング街

150年ぶりに来たわ···

····仕事熱心過ぎないか?
···まぁ、着替えを買う必要がある時もあるんだけど、そんな時は近くにある商店街に行っていたので··
···いろは昔からそうなのか?
そう····とは?
·····いや、ゴメン

何でもない―――――

···········
····まぁ、若い頃はファッションなんかにも興味津々の普通の女子大生だったと思うけど···
今の私には必要のない物だと思っているから――――――
····どうしてそう思うんだ?
···今の私には使命があって、鬼と対峙するのに怪我はよくあることだし、服なんて直ぐに破れてしまうのよね
··········
それに今は····昼間に出歩く事が殆ど無かったし、見た目なんて気にしなくなったよ
そうか····
だったら、今日は俺が選んだ物を贈らせて貰おうかな
えっ!
ただし、後から文句を言っても変えてやらないから覚悟しとけよ?
うん!

楽しみにしてるね!



どうやら、カイトはカイトなりに私に気を遣ってくれているみたい···



···それじゃあ行こうかと、カイトが私の手を取り歩き出そうとしたその時―――――

何故かまたピタッと立ち止まってしまった



········?
············
···カイト?



一切微動だにしないカイトの視線は反対側の歩道に向けられている····



············



反対側の歩道にいるのは···

····親子?

どうやらカイトは、その親子を見ているようだった



············



····父と子供―――――


幼い子供は男の子で4歳くらいだろうか?

二人で買い物に来ていたのか、父親の腕にはメジャーな子供用品店の袋がぶら下がっている


そして、幼い男の子は父親に手を引かれて歩いていたが、眠たそうに目をゴシゴシと擦っていた――――

それに気付いた父親が足を止め、しゃがみこんで男の子に話しかけている····、そんな風景をカイトはジーっと見つめているのだ····



カイト·····

どうしたの?知り合いでも――――――



私がそう言い掛けた時、カイトは急に歩き出したかと思えば横断歩道を渡り、反対側の歩道へ向かい始めた―――


勿論、私の手も握ったままなので自ずと連れて行かれている状態だ···



ちょっ、ちょっと?!



そして、カイトは何故かさっきの親子の前までスタスタと歩いて行き、何を思ったのかおもむろに声を掛けたのだった―――――



こんにちは、可愛いお子さんですね
――――――え···?
···········!



なんて····

見目麗しい親子なのだろうかと、一瞬で目が釘付けになってしまった···

男の子の髪の色と父親の髪の色が全く同じなのがまた私の心をくすぐってくる―――――



急にカイトに声を掛けられた父親は、眠たそうに目を擦っていた息子を抱き上げていた所だったらしく、少し戸惑った様子でコチラを向いた



····あ、えっと――――

こんにちは

ニコニコ
····貴方は

曹洞宗の僧侶様ですか?

ええ····

今日はちょっとした野暮用で足を運ばせて頂いております

この辺だと···、桐生家の方でしょうか?
よくご存知ですね···
····ええ、まぁ···

この辺で桐生家の方々はとても有名ですからね

··········
····突然声を掛けてしまって申し訳ありません···。息子さんがあまりにも可愛らしくて――――――
はは···っ、眠っている時は本当に天使のようなんですけどね
····ですが、貴方の息子さんはとても我慢強くて父親に迷惑を掛けないようにしているように感じました
っ!!
············
····そうですね―――――

こうしてまた私の元へ産まれて来てくれたと言うのに····

············
········?
····もっと我儘を言っても良いのに――――子供らしく甘えて来てくれたら私は嬉しいのですが····
···········
···········
····昔の私は――――――

親としても、夫としても、人としても駄目な人間でした

····妻のことは愛していましたが、子供達との接し方がどうしても分からなかったんです―――――
····だからこそ、今度は間違えないようにしたい···私の精一杯の愛情をこの子に注ぎたいと思っているんです
·····ですが

中々難しいものですね――――――

······どうしてそう思うんですか?
····え?
貴方は今、これ程にないくらい息子さんへの愛が溢れている表情をしているのに―――――

何を悩むことがあるんですか?

もう既に間違えてなどいませんよね?
っ!!
···········
····貴方には昔から優しさがあったのだと私は思いますよ
ど、どうしてその様な事を····
····私は桐生家の僧侶ですから
見ていれば分かります···
··········
····いえ、

私は罪深い人間なんです

····心の焦りから選択を誤り、結局は全てを失い····自らも――――
············
······ですが、貴方はそんな状況の中でも鬼化しなかった――――
っ!!
····人の心は弱いものです

胸をエグるような事態が起きてしまえば簡単に理性が崩壊してしまう―――

····大切な最後の一人を守り抜いたのではありませんか?
····自分の命と引き換えに――――――――
·············
············

(···えっ?!ええ?!もしかしてこの会話ってこの人の前世の―――?)

···········
私は逆に貴方が羨ましいです
·····な、何故ですか?
·····私は――――――

鬼化した側の人間なので····

っっ!?
····今の貴方なら、その子にもきっと想いは伝わるはずです
これから先も、目に見える愛情を注いであげれば貴方が心配するような事は何も起こりえません
············

あ、貴方様はいったい―――――

·····私は神に仕える身ですから、皆さんの憂いを取り除くのもまた修行の一環なのです
············
···また何か困ったことがありましたら、桐生家へお越しください
他人ではあり得ない貴方のその魂を――――見捨てることはありません
!!!!!
·········

(何が何だか訳が分からないわ···)

···········
····有難うございます僧侶様
いえ····



そうして、父親は何かを噛み締めているかのように幼い子供を見つめながら優しく撫でた後、私達に軽く会釈をしてこの場から去っていった―――――――



····ね、ねえカイト――――
·····ん?
あっ、ゴメン····っ
いろはを差し置いて、他の人の事に夢中になってしまった····
·············



いや、そんな事は別にどうでも良いんだけど――――――

そこじゃなくてね···



····て言うか、知ってる人なの?
····いや、知らないよ?
―――えっ?!

じゃあ何の話だったのよ今のは···

う、うーん···

何て言ったらよいものか···

·········ジィ――――
····強いて言うなら、人にはあまり知られたくない過去の過ちと、現世で同じ過ちを犯したくない葛藤···?
····じゃあカイトには、あのお父さんの前世の記憶が見えていたの?!
·············
····正直、こんな能力まで備えてくれなくても良かったのにって···いつも思うんだけど―――――
····でも、これは――――

過去に大勢の命を奪った俺に対して、現世で償えって意味なんだろうなと···理解はしているよ

だから、さっきみたいに道行く人に声を掛けては支えようとしているのね
····て言っても全ての人じゃないよ?過去の記憶に苛まれている人にだけだ
それって···、カイトのように前世の記憶がある人って事?
···うん
まぁ、同じ境遇だし寄り添いやすいのも事実だけど···
そ、そんな、前世の記憶とか持っている人って結構いるものなのね?!
いや、そんな事はないよ

稀にあるだけで·····

········

(···そうなのかなぁ?)

ほら!

そんな事より買い物に行くぞ!

あ····、うんっ



カイトは、これまでもこうして沢山の人々の憂いを取り除きながら旅をしていたのだろうか?

前世があの夜叉丸だっただけに、この変わりようには本当に驚かされる一方だ


····カイトと出会った日から今まで一緒にいて、夜叉丸とは全く違う雰囲気に何となく寂しく感じたりするのかなって思っていたけれど·····

不思議な事にそんなものはただの杞憂でしかなかった―――――


何故なのだろう····

あんなに優しいのにやっぱりカイトと夜叉丸は同一人物なんだなって実感するのは――――――



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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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