第69話「冷酷非道」
文字数 1,162文字
ーPM10時40分ー
《鷺山渓谷麓》
···よく来たじゃねぇか
··········
俺ぁてっきり逃げるんじゃねぇかと思ってたんだがなぁ！
ここは「鷺山渓谷」の麓。
強欲なこの男との金の受渡し場所として指定した場所だ。
カルラはこの強欲な男との約束通り、ナズナを買い取る為の大金を抱えて一人でやって来ていた。
先ずは、この金を受け取るからにはナズナにはもう2度と近付かないと誓え
ﾆﾔﾆﾔ
くくっ、···まさかあの馬鹿な女の為に本当にこんな大金を叩くとは、アンタも中々イカレタ野郎じゃねえか
··········
私の言葉が聞こえなかったのか？
ふんっ、分かってるよ！
もう二度と近付かねえから安心しろってんだ
ほらっ、さっさとその金をこっちによこしやがれ
·········
·····ところで、お前はこの世に様々な妖かしが存在している事を知っているか？
ぁあ？！
何を藪から棒に·····っ
鬼とてそうだ。いつもお前達の近くに存在している
鬼だと····？
姿は現さないが、お前のように強欲なクズを一瞬で叩き潰し、その骸を貪り喰らう鬼だ
ﾋﾟｸｯ
···んだとテメェ？！ケンカ売ってんのかあぁっ？！
グダグダと無駄口叩いてないでさっさとその金をこっちによこせっ！！
··そして、その鬼の名は
『隠形鬼』と言う
ッッッテメェッッいい加減に··
その時、渓谷の山側から生暖かい風が吹き抜けたと同時に、禍禍しい陰湿な空気と、血生臭ささが混ざり合ったような異臭が鼻を抜けた
っっ！！！
な、なんだこの臭いは···っ！？
死臭とも言える程の吐き気を誘う異臭の中、それでなくとも薄暗い渓谷の麓がまるで影のようなモノに覆い尽くされているかの如く、更に辺りを暗くしていた
なっ、何なんだ？！
何かいるのか？！
····私はな、人間の存在など虫ケラほどにどうでもよいのだ。だが貴様らのようなクズ共にはムシズが走って仕方がない
な····っっ
そうこうしているうちに、ゾワゾワと何かが近付いてくる気配だけが男に纏わり付き始める
ひぃっ！！
いっ、一体何なんだよテメェは！！！
········
私の名はカルラ
鬼族の頂点だ。貴様は私の大切な者を傷付けたのだ、その報いを受ける覚悟は出来ているんだろうな？
っっっ！！！！！！
お····っ、おっ、鬼····！！！？
隠形鬼は姿を現さない。
その気配に怯えながら叩き潰されるがよい
そして男は、はっとして恐る恐る上を向いた
次の瞬間には『パンッッ』と言う音が渓谷に響き渡り、先程まで意気揚々とイキんでいた強欲な男は無惨な骸へと変わり果てていた
·······ふん
隠形鬼、そいつの骸は貴様にくれてやる。残さず喰らい尽くせ
姿は見えないが、隠形鬼は喜び勇んで男の骸にしゃぶりついている
···········
··そんな汚いクズを喜んで喰らう貴様らの味覚も理解出来んがな
