第182話「謎の修行僧」

文字数 3,369文字






             《夜明け通り》

····世尊よ、この陀羅尼神呪をもってこの経を説くものを守り、悪を呪わんとする
っっ!!!



赤鬼の前に立ちはだかった彼は、今まで聞いたこともない呪文?を唱えた――――――その時、私達の周囲からは謎の煙が立ち込めて来たのである



なっっ?!

何だっっこれは―――――っ

············

(この煙ってなんとなく――――)

····お前は人に戻ることを許されない――――
っ!!!!!?



不意に··彼がボソっと呟いた言葉を私は聞き逃さなかった




そして·····

一切有為法 如夢幻泡影(いっさいのういのほう むげんほうようのごとし)
っ!?



次の瞬間だった


周囲に立ち込めていた煙は、まるで竜巻の如く渦を巻き始めると、全ての煙を巻込みながら一本の渦となり、あっという間に赤鬼を飲み込んでしまった


そして煙の渦は天と繋がり、徐々に細くなりながら雲散したのだった――――



····この煙は――――



この煙はまるで玄宥様の使う真言のようだと感じた···


真言は結界が現れて聖なる光の様なもので百鬼を消滅させてしまうものだから全く別物のようだけど、見た目的な問題じゃなくて······


効果がって言うか――――


以前にホシ猫さんが言っていた、「真言と陀羅尼は殆ど似たようなモノ」という言葉がストンと落ちたような感覚だった



············



そうしてあれ程に立ち込めていた煙の一切は跡形もなく消失し、当然の如く赤鬼の姿も何処にも無かったのである



···········
···········
···········
···········



な、何か気不味い····



あ、あの

さっきの赤鬼は····

··········
···アレには禅語の教えが届かないと判断しましたので····
消滅させて頂きました
っ!!!



····消滅―――――



でも、確かに「復元」でも人には戻らなかった···、きっと神にも運命にも見放されてしまったのかもしれない····



···それよりも
え···?
さきほど怪我をされていましたね
ギクッ
大丈夫ですか?

良ければ手当を····

だっっ、大っ丈夫です!!!
私は見た目より遥かに頑丈に出来ていますので!
···········
でも、心配して下さったんですね···
あっ、因みに私は姫城いろはと申します!!助けて下さり有難うございました!
いえ、こちらこそ·····

名乗りもせずに失礼致しました



そう言うと彼は、深く被っていた網代笠(あじろがさ)を外してこちらを向いた―――――――



っっっ!!!!!



私は一瞬、凄くドキッとした···


いや、別にまさかの説教修行僧が超絶イケメンだったからとかでは無くてね···



私の名前は桐生 海弦(きりゅうかいと)と申します
····桐生?
···見ての通り、修行僧として旅をしております
あ···、えっと私は――――――
·····いろはさん
へっ?!



初対面で名前呼びとか·····



他に怪我をされた所は御座居ませんか?
えっ?!

い、いや――――――――っ



何故か、とても心配そうに私を見つめる彼は――――不意に私の頬に手を添えて、優しい手付きで軽く撫でた····



っっっ!!!!
············
あっ、えっ?!

·····えっと·····あの――――

·····あ、

すみません···つい····

····?!

(ついって何?!)

ジィ――――――――
···········



な、何だろ

すっごい見てくるな····


それにこの人····

めっちゃ距離が近いんだけど!



えっと····

わ、私の顔に何かついていますか?

·········
いいえ

···とても可愛らしい方だなと思って

ドキッ



いやいやいや――――!

ドキッ っじゃないのよ私!!


って言うか、最初の印象と何か全然違くない?!

···落ち着いていてクールなカッコ良さが売りだったのに!←(?!)

こんなにナンパな修行僧がいていいの?!











         《Caffe―ゑ來屡》

····遅い
もう既に2時間が経過している
いろはさん···大丈夫かな···
····そうですね

ワタシが見に行って来ま―――――

いや····

ホシ猫が行く

えっ!?

体調は大丈夫ッスか?

ああ

だいぶ休ませて貰ったからね

···ホシ猫さん
では···宜しく頼むッス









          《夜明け通り》

クンクンッ
····この辺からいろはの匂いと―――――
もう一人誰かの匂いがする····
鬼ではなさそうだけど····
···········
···············
···あ






あ、あのっ!!

ちょっと近くないですか?!

···············
もしかして、嫌ですか···?
い、嫌とか···

そう言う事ではなくて―――――



な、なんでそんなに切なそうな表情を?!

対応に困るんですよ!!


わ、私には····夜叉丸が····






と、思っていたその時だった――――――

····ニャー
っっ!!!!!
ホっ、ホシね―――――――
っ!!!!
······猫
····いろはさん、この猫は貴方の飼い猫か何かですか?
えっ!?

そ、そうです!そうですよ!!?

可愛いでしょう?!
って···

それがっ、何か?!

····ならば、今すぐにその猫から離れたほうがいい
······えっ?!
··········
その猫は、妖猫「仙狸(せんり)」

百鬼の仲間です

·········
このまま一緒に居ると、生気を吸われて干からびてしまうでしょう
············
····あ、

えっと〜···

··········
·····猫は

猫を被らない生き物だ

ヒッ
············
····君は何枚猫を被るのかな
っ?!
·············
ホシ猫を追い払っていろはを独り占めしようったってそうはいかないんだ
·············
え···?!
さっさと本性を表したらどうだい
夜叉丸
········
··········
ええええええっ?!?!?!
·············
夜叉丸·····ですか
·············
······?
··まぁ、確かに私の前世は····

何故か粗暴でゲスい「鬼狩りの鬼」だったんですよね···

······へ?!



ちょ、ちょっと···何だろうコレ

····予想していた再会と全然違うんだけれど――――――


この人が本当に夜叉丸だと言うの?!


でも··、ホシ猫さんが間違えるとは到底思えないわ!



···現世での君の両親はとてもマトモな人達のようだ
·······確かに

今はそうですね

···昔の私は孤児でしたし、母親が遊女だったので愛情を与られた事はありませんでした···
···殺らなければ殺られる――――

そんな時代でしたので、仕方無いと言えば仕方がありません

···········
·····でもね、夜叉丸
魂の本質は変わらない
············
·······?
修行僧の立場を忘れてみてくれないかな?
··············
······フッ
っははっ!
何だよ·····

つまんねぇなホシ猫てめぇは!

っっ!!!!!
やっっと見つけたんだぜ?

俺の邪魔すんなよ野暮だろ?

なぁ?いろは····
············
······や、夜叉丸――――なの?
···········おぅ
··········っっ!!!!



その時――――――


···夜叉丸が居なくなったあの日からずっと堪えていた気持ちがまるで堰を切ったかのように溢れ出てしまい、止めることなどもはや不可能だった···



っっ!!
····ずっと待ってた
あれから150年も経って···、諦めかけた時もあって――――――っ
········いろは
それでも···、私の使命は鬼を人に復元させる事だから···例え夜叉丸が私を覚えていなくても···それでも――――
············
····ごめん

待たせたな―――――

っっ?!



ご、ごめん···?

今···夜叉丸が言ったの?


昔では考えられないくらいの優しい言葉に、驚きと嬉しさと愛しくて堪らない感情がごっちゃになって更に涙が止まらなくなってしまった····



···うぅ〜···っ

バカっ!!バカ夜叉丸!!

おっそいし!
······フフ
そんなに怒るなよ·····

·····それから

たまーにで良いからさ

·····え?
俺の事、海弦(カイト)って呼んで?
っっっ!!!!!?



や、夜叉丸······

いや···海弦さん···?



······何か恥ずかしいっ!!!!






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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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