第101話「大切な存在」

文字数 2,125文字







       《蕎麦屋の裏の丘》

···お墓の前に何かいるな



ホシ猫は、大きな桜の木の下にひっそりと建っているお墓へ近づいてみることにした。



黒い何かが気になって仕方がなかったのだ。





············



お墓の近くまで行くと、お墓の前でユラユラと揺れ動いていた黒い何かはハッキリとした形となって佇んでいた。









それは――――··

っ!!!!
く、黒猫····?
···········
···あのぅ、君は···

普通の猫ではないよね?

············
···あっ、もしかして人間の言葉じゃ分からなかったかなっ
··········
ん〜····、あれ··

君は尻尾が二本あるようだね

と、言うことは····

ヨイショッ




ホシ猫は何処に隠し持っていたのか、大きな巻物を取り出し、草原の上に広げると調べ物を始めた。



その様子を黒猫はジ―――っと見つめている。





あ、この巻物かい?

これはね、ホシ猫の大切な家族のジジイがホシ猫にくれた巻物なんだよ

···········
何かの役に立つだろうからって、ジジイが死んだあとに持たせてくれたんだ
一体こんな大きな物を何処にしまっていたんだ?と思ってるのかい?
·········
ホシ猫も君と同じで普通の猫じゃないんだ。これくらいポケットにしまうことなど容易いのさ



巻物を調べながら黒猫に話しかけ続けるホシ猫を、黒猫はジ――――――っと見つめたままだ。







その時····

···これはどう言う事なのだ··?
っっ!!!?




突然人の言葉を発した黒猫に驚いたホシ猫は顔を上げた瞬間、勢い余って首を捻ってしまった。





ゴフッ
···········
イタタタ··、いや、ごめん。

急に喋るから驚いただけだよ

おかしい、どうなっている··
··········

えっと、君はどうして此処にいるんだい?

····昨日、わしは此処で死んだはずなのだ··
···死んだ?
先日、わしの唯一無二の家族である佐助が··辻斬りに合い、死んだ··
っ?!
わしには佐助しかおらぬのだ···。独りでなど生きては行けなかった
それで君は···、家族で飼い主の佐助の元へ逝くことを選んだのかい?
···わしは、自らを責めた··。佐助が死んだのはわしが弱くて守ることが出来なかったからだ
結果的には死を選ぶことにはなったが、後悔の念が収まる事もなかった
ふーむ、なるほど···

だからか···

·····?
ジジイの巻物によるとね、君は猫又に生まれ変わったようだよ?
猫又···?
ほら、尻尾が二本あるだろう?

これは猫又以外にはあり得ないんだ

·········




黒猫はまだ自分の状況を理解しきれていないようだった





えっとね··、ホシ猫も妖猫で「仙狸」っていうアヤカシなんだよ
···センリ?
そして君は死んだ後、妖猫「猫又」って言うアヤカシに生まれ変わったってことさ
···わしがアヤカシに··?
そうだよ。この巻物によるとね、人は必ず輪廻転生するそうなんだ
·········
て言うことは、ホシ猫のジジイも、君の佐助もいつか必ず輪廻転生する
ホシ猫達がずっと生きていれば、いつか必ず輪廻転生したジジイと佐助に会うことが出来るんだ
っ!!!!
それがいつか?何てのは分からないけれど、君が猫又である以上、次からは佐助を守ることが可能になるからね
·········

··くっ·····うぅ···

···理解出来たみたいだね··。

ホシ猫もね、ジジイが死んで遠くへ行ってしまう時は泣いたんだよ

·······っく···

な··泣いてなど···おらぬ··

··おや、そうかい?




と、その時····





おい、ホシ猫!
っっ!!!

夜叉丸っ

っ?!
こんなとこで何してんだよ?

探したじゃねえか

···君がお酒と女のコ達をハベラシてるのが悪いと思うんだ
そんなんとっくに飽きて鬼狩り始めてんだよ!
知らんがな
·········
···ん?何だこいつは――
あ、彼は――――えっと〜··
···わしは、黒鉄(くろがね)だ
っ!!!

ホシ猫は、ホシ猫だよ!

ほら、さっさと行くぞ
先に行っててくれ。

直ぐに追いつくから

·····ったく仕方ねえな




そう言って夜叉丸は丘を下っていった





···仕方ねぇのは夜叉丸の方だと思うんだ。
····あれが、ホシ猫の今の飼い主なのか?
うーん、飼い主とは違うんだけどね

一応、命の恩人かな

そうか··。ならば大切な存在ではあるのだな?
いや、そうでもない
··········っ!
だけど、これから先もずっと夜叉丸と一緒にいればきっと家族も同然になると思うんだ

夜叉丸は強いけど家族ならホシ猫が守り抜くつもりだよ

···そうだな
···わしも、もう佐助を無駄死になどさせぬ。佐助の生まれ変わりを探して守ろうと思う
うん。せっかく最強の猫又になれたんだから有効活用しないとね
···有難うホシ猫

お前に会えなければ露頭に迷うところだったな

お互い、家族は大切にしていこうね
···ああ




こうして、ホシ猫と黒鉄の家族に対する異常とも取れる程の愛情はこの時に深まって行くのだった。



因みに····、この後もホシ猫と夜叉丸はずっと行動を共にするが、ホシ猫の夜叉丸に対する家族愛は一切生まれないのであった····






夜叉丸は、生きた年数分ゲスさが上乗せして行くんだから仕方がないよね
うるせぇな!
           「ホシ猫の過去編」終









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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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