第179話「不安と孤独」

文字数 3,329文字




         ―3年後―


          《黒崎家》

·········
いろはちゃん
っ!!!
は、はい―――――
準備は出来たかい?
·····はぃ
···いろは、本当に一人で大丈夫か?
·····大丈夫です
···俺は心配でしょうがないよ
···黒崎さん、黒鉄さん

本当に長い間お世話になりました

····まぁ、この家はずっとあるだろうから近くに来た時は遠慮なく寄って行け

うんうん

俺はすぐ居なくなるけど黒鉄が此処に居ると思うからね

佐助の輪廻転生は俺のアンテナに直結しているのだ。佐助もまた此処に戻ってくるさ
····なら、生まれ変わった黒崎さんに会いに必ず戻りますね
·····待ってるよ
····もし、心が折れそうになったその時はワシを呼べ。ワシの眼が必ずいろはを見つけるだろう
っ!!!
ワシらが生きている限り、お前は独りでは無い···、それを忘れるな
····有難うございます



あれから3年間、私はひたすら鬼化した人達を元に戻すため、奮闘していた―――――


でも···どうしたって身を守る方法が見い出せず、結局は真那さんと玄宥様にご迷惑をお掛けする形となってしまった·····


そんな状況に悩んでいた頃、一年ほど前に櫻井鴒(さくらいれい)さんが、私に会いに来てくれた



一本の短剣を渡すために――――



その短剣こと「破魔の剣」は昔、伊吹さんのお父様が使ったとされる付喪神が憑いた短剣だった


柄を握れば、短剣に憑いている付喪神の声が聞こえ、勝手に動いてくれるという何とも便利な代物だ


···身を守るすべを持たない私としてはかなり有り難い事で、取り敢えずその短剣を握ってみることにしたのだけれど――――

想像以上に激しい動きを強いられる為、体力的にキツイのが難点だった



···出来る事なら使用せずに行けたらいいなぁ―――と言うのは内緒···


でも、レイさんのお陰で今では一人で鬼狩りに出られるようにもなったし、そろそろ旅に出ようかと決心したのである



(黒鉄さんって、本当に優しい方なんだよね···)
あ、そうだ

今日の分のおにぎり作ってあるから持って行って欲しいのと···

バイト代+お餞別は全部口座に入れてあるから我慢せずに使うんだよ?
っ!!
佐助、お主は母親か
ふふっ

黒崎さん、本当に有難うございます

一応、旅をしながらの資金集めは色々考えていたので何とかなるかなって、でも本当に有難うございます!
うん···

気を付けて行っておいでね

·····またな
はい!

行ってきます!








           ―PM11時30分―


             《住宅街》

···鬼って意外と住宅街に出るイメージがあるのよね
········

(いつもと違って荷物抱えながらの戦闘はちょっとキツイかもしれないわ)



さっそく私は初日から鬼狩りをすべく、とある閑静な住宅街へと来ていた――――――


実は、旅を始める際に一緒に決意した事がある····

···それは、「一日一鬼狩り」!


鬼狩りに出るようになってから目の当たりにした、鬼化した人達の数の多さに驚倒した


私の考えが甘いのはいつもの事だけど、まさかここまでとは思ってもいなかったのだ―――――


だから···

一人でも多く、鬼の呪縛から解き放ってあげたかった

···それは勿論、業から開放される訳では無いし、人に戻ってからも報いは必ずあるけれど―――――

鬼化した人の犠牲になる人達を救う為にもやらなければならない使命だと思った




··········
私が夜な夜な歩いてるだけでも誘き寄せる効果にはなるよね···
ドキドキドキ―――――



私がいつもの如くドキドキしながら鬼の出現をジッと待っていたその時だった――――



こんな夜更けに女性の一人歩きは危険じゃないのかい?
っっ!!!!!?



···え、鬼ってこんなに人の言葉を話すものだったっけ?!


そう思いつつ、恐る恐る振り返ったその先にいたのは―――――



やあ、いろは

久しぶりだね

っ!!!!!
ほ、ホシ猫さん·····っ?
···元気にしていたかい?
ど、どうして此処に····
········
ホシ猫さん···

レイさんと一緒に住んでいるって黒鉄さんから聞きました

···········
···やっと

幸せを見つけたんですね

3年前のあの日、櫻井家に行ってから全然帰って来なかったから心配していたんですが―――――
············
····本当に良かっ·····
····そうだよ

レイはね、こんなホシ猫を拾ってくれた大切な家族なんだ

っ!!
当時はハゲかけのくせに、白髪で長髪で長ヒゲのジジイだったけどね
············
····だから、レイにはまたあの時のように一緒に暮らさないかって言われていたんだよ
···そう···、だったんですね

私は···

ホシ猫さんが本当の幸せを見つけてくれたのならそれで十分です

そうかい?

有難う

··········
····それじゃあ

今日は今生の別れですね!

···わざわざご挨拶に来てくださり有難うございま――――――
ところで、いろは
っ?!

は、はい···?

これから何処へ行くのかな
え····?!

えっと···、今は鬼狩りをしようとしていた所でして――――

ほう

そうかいそうかい

あ、いや、ここに鬼はいないよ?
えっ?!
こんな所にいつまでも居たって意味が無いんだ
そっ、そうですか·····



確かに私は鬼の気配を感じる五感がまだまだ弱く、一人で鬼狩りに出るようになってからは、夜通し鬼の出現を待っていた····なんて事も割と多かった


結果、鬼は出て来ず、待ちくたびれながら夜明けを迎える日もあったのだ――――――――



···結局私なんて死なないだけで、タダの凡人なんです······
臭気の強い鬼の気配しか感じ取れなくて――――
····まったく
それなのに一人で旅に出るつもりだったのかい?
ま、まぁ····、それは仕方のない事ですから···
だったらホシ猫が鬼の居る場所へ案内してあげようじゃないか
えっ?!

で、でもこんな夜中にホシ猫さんを連れ回したらレイさんに怒られてしまいますよっ

それに···、皆さん優しくて···このままだと私は一人で生きていけなくなりそうですから·····
···········
いろは

···何故君の旅は一人じゃないとダメなんだい?

·····え?
な、何故···って····

だってこれは私の使命で····

確かに君の使命は鬼化した人達を人に戻す事だけれども、一人でやれってマカマユリがそう言ったのかい?
·······っ!?
ホシ猫はね、レイが大好きで、付喪神のエビスマルと3人で暮らした3年間はとても幸せだった―――――
だけど、ホシ猫にとっての家族はレイとエビスマルだけじゃないんだよ?
っ!!!!
いろは、君はもうホシ猫にとって大切な家族の一人だ
····そんな君をホシ猫が一人で行かせると思っているのかい?
で···でも···
レイさんからホシ猫さんを奪う訳には―――――
レイと暮らしていたのは期間限定なのだよ。いろは、君が旅に出るまでの間の期間だ
っ!!!
これはレイと暮らす上で、ホシ猫がレイにだした条件なんだ
それに····、レイは他に一緒に暮らしたほうが良いと思う娘がいるんだけどもね··、なんか進展しないんだよね···
っ!!!
だから、レイの事は気にしなくて良い
·····ホシ猫さん
さあ、そうと決まれば鬼の居るところへ向かおうではないか
はい·····っ!



私はずっと漠然とした不安に苛まれていた―――――

このまま歳も取らず、永久に一人で生きていく事など本当に出来るのだろうか?


···それでも覚悟はしなければならない

不安を抱きながらも、毎日鬼と対峙し人へと戻していく····


そんな事をこれから永遠と一人で繰り返す作業はいずれ、自身を人から不老不死と言う名の、ただの化け物へと変えてしまうかもしれないのだから···


自分の存在が何なのかも分からない、頼れる人もいない、正真正銘の「孤独」と向き合う事の恐ろしさが私を更に不安にさせていた·····





····だからこそ――――――


ホシ猫さんの存在の大きさが、私に重たく伸し掛かっていた不安を驚くほど簡単に払拭し、涙する程の安心感を与えてくれた事に「感謝」なんてお粗末な言葉では言い表せないくらいの感情でいっぱいになっていた····






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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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