第179話「不安と孤独」
文字数 3,329文字
―3年後―
《黒崎家》
あれから3年間、私はひたすら鬼化した人達を元に戻すため、奮闘していた―――――
でも···どうしたって身を守る方法が見い出せず、結局は真那さんと玄宥様にご迷惑をお掛けする形となってしまった·····
そんな状況に悩んでいた頃、一年ほど前に櫻井鴒(さくらいれい)さんが、私に会いに来てくれた
一本の短剣を渡すために――――
その短剣こと「破魔の剣」は昔、伊吹さんのお父様が使ったとされる付喪神が憑いた短剣だった
柄を握れば、短剣に憑いている付喪神の声が聞こえ、勝手に動いてくれるという何とも便利な代物だ
···身を守るすべを持たない私としてはかなり有り難い事で、取り敢えずその短剣を握ってみることにしたのだけれど――――
想像以上に激しい動きを強いられる為、体力的にキツイのが難点だった
···出来る事なら使用せずに行けたらいいなぁ―――と言うのは内緒···
でも、レイさんのお陰で今では一人で鬼狩りに出られるようにもなったし、そろそろ旅に出ようかと決心したのである
―PM11時30分―
《住宅街》
さっそく私は初日から鬼狩りをすべく、とある閑静な住宅街へと来ていた――――――
実は、旅を始める際に一緒に決意した事がある····
···それは、「一日一鬼狩り」!
鬼狩りに出るようになってから目の当たりにした、鬼化した人達の数の多さに驚倒した
私の考えが甘いのはいつもの事だけど、まさかここまでとは思ってもいなかったのだ―――――
だから···
一人でも多く、鬼の呪縛から解き放ってあげたかった
···それは勿論、業から開放される訳では無いし、人に戻ってからも報いは必ずあるけれど―――――
鬼化した人の犠牲になる人達を救う為にもやらなければならない使命だと思った
私がいつもの如くドキドキしながら鬼の出現をジッと待っていたその時だった――――
···え、鬼ってこんなに人の言葉を話すものだったっけ?!
そう思いつつ、恐る恐る振り返ったその先にいたのは―――――
確かに私は鬼の気配を感じる五感がまだまだ弱く、一人で鬼狩りに出るようになってからは、夜通し鬼の出現を待っていた····なんて事も割と多かった
結果、鬼は出て来ず、待ちくたびれながら夜明けを迎える日もあったのだ――――――――
私はずっと漠然とした不安に苛まれていた―――――
このまま歳も取らず、永久に一人で生きていく事など本当に出来るのだろうか?
···それでも覚悟はしなければならない
不安を抱きながらも、毎日鬼と対峙し人へと戻していく····
そんな事をこれから永遠と一人で繰り返す作業はいずれ、自身を人から不老不死と言う名の、ただの化け物へと変えてしまうかもしれないのだから···
自分の存在が何なのかも分からない、頼れる人もいない、正真正銘の「孤独」と向き合う事の恐ろしさが私を更に不安にさせていた·····
····だからこそ――――――
ホシ猫さんの存在の大きさが、私に重たく伸し掛かっていた不安を驚くほど簡単に払拭し、涙する程の安心感を与えてくれた事に「感謝」なんてお粗末な言葉では言い表せないくらいの感情でいっぱいになっていた····