第88話「ホシ猫の過去」
文字数 1,145文字
ー約700年前ー
《深緑の森》
ここは、深緑の森···
通称「見限りの森」と言われている場所だ。
ホシ猫は物心つくずっと前にこの森へ捨てられた。
自分が何者なのかも知らなかった。
家族という存在がこの世にあると言う事すらも知らない。
何故ここに居るのかも分からなかった。
まだ小さいホシ猫にこんな森の中で生きていく術(すべ)などない。
だが、ホシ猫は生き延びていた。
ホシ猫は普通の猫ではない。
この森に住む他の生き物達の声を聞くことも話すことも容易かったのだ。
ある時は食べ物のありかを教えて貰い、そしてある時は大型の野獣から逃げ回る方法も教わった。
ホシ猫は、「深緑の森」で勝手に育って行った。
バサバサバサッ
この森に捨てられてからどのくらいの時間が経ったんだろうか?
ホシ猫はもうずっと一人ぼっちで過ごしている。
さっきの狼は仲良しの狼だ。いつも遊びに来てくれる。
だけど、ホシ猫はこの森でも忌み嫌われているらしい。
理由はホシ猫にはよく分からないが、それでもたまに遊びに来てくれる友達には感謝していた。
そうして、ホシ猫は深緑の森を後にするのだった。
ー6日後ー
《大町》
6日間をかけて山を下り続けたホシ猫は何も口にしていなかった。
ひたすら歩いて来た獣道の近くには川も流ておらず、雨が降ったときにしか水分補給ができない状況だった。
そのため、大町に着いたときには疲労困憊で意識を失ってしまったのだった。
《町外れの家》
かなり謎な人間もいるものなんだなぁと不思議な気持ちで、ホシ猫は爺さんをしばらく眺めていた···