第205話「放置」

文字数 3,394文字





        ―PM7時30分―


             《緑川区》

···········
············
····いろは
·····ん?
疲れていないか?
···大丈夫だよ
まさか、あんな強行手段に出るとは―――――
あはは···



····本日、私とカイトは朝早くにカイトの実家である廻転院を出立し、いつもの二人旅を再開した所なのだが――――


···おや?凪さんはどうしたの?

と思っている方も多いかと思われる···


···うん、実は朝起きたら――――

凪さんが強制的に玄宥様になっていて、(玄宥様に無理やり指示されたらしい)それを見たカイトが朝からスンッとなってしまったので、伊吹家の方に迎えに来てもらって車でお帰り頂いたという経緯なのである····



まぁ、でも最後に慧慈様と玄宥様にご挨拶が出来てよかったかな
·························

スン

···············そうか?
(すぐスンってなる···)
··········



····でも一番ホッとしたのは、廻転院を出立する際に慧慈様がお見送りに来て下さり、カイトに対して――――


「次はこまめに帰って来なさい。それから、どうしてもいろは様と籍を入れたいと言うのであれば、私のサインを貰いに来る事を条件として二人の婚姻を認めよう」


と仰っていた事だ····


いや···別に婚姻云々が良かったとかって話ではなく、慧慈様とカイトの距離が少しだけ近付いたような気がして勝手に喜んでいるだけなのだけれど――――



·····何でそんなに嬉しそうなんだよ
フフ···

内緒――――

ムッ
····玄宥様に会えて良かったな

フンッ

···············
えっ?!
····確かに玄宥様は昔からいい男なのは認めるが、結局は俺の手助けが無ければ目一鬼すら倒せなかったのだからな!俺の方が強いし、いろはを守れるのは俺だけだ!
あんな胡散臭いヤツに絆(ほだ)されるなよ
·············ほっ
絆されてない!

(一切!)

大体、玄宥さまは仏様でしょ!それに昔は妻子も居て子沢山だったらしいじゃない!愛・妻・家なの!!
っっ!!!

あ、あいさい―――――

仏様を捕まえてその辺のナンパ男と一緒にしたらダメなヤツだから!
·············っっ!
···········
····そんなに怒らなくても
っ!!!?
·····俺はただ
いろはを他の男に取られたくなくて―――――
ゴフッ



だから······


あざとい!

分かっててやってるとしか思えないわ·······



だがしかしワンコカイトが可愛すぎて秒で許してしまう自分もしばき倒したい―――――――




·····もぅ



夜叉丸になったり、ワンコになったり、意外な一面を見せられて心臓が爆発寸前だ·····


普段が冷静なだけにギャップ萌えがすぎる――――



············
さて、それじゃあ今日はこの辺に宿を取って鬼狩りする範囲を決めるぞ
う、うん···

(何だかんだで、切り替えが早いのも好き)

············

(相変わらず可愛い···)











      ―近隣ビジネスホテル―


      《ニュー・ロックハンド》

よし――――――

それじゃあ荷物は置いて、そろそろ出掛けようか

············
····カイトは割と街中を選ぶよね
街外れよりも街中の方が鬼が出没するって事?
············
いや――――

何処にいても鬼は大体出てくるよ

····あれ、でも私が以前待ち伏せていた所には全然出て来なくて、ホシ猫さんに助けられた事が――――――
当時のいろははまだ鬼の気配が分からなかっただけだろ?
······夜中に私が突っ立っていても襲われない事があるのかと驚いた瞬間だったわね···
俺からすれば、いろはが襲われる方が余程許せないけどな
·····それじゃ鬼狩りにならないじゃないの――――

······うーん

何だか複雑な気分だ――――
············
けど·····
今日は取り敢えずコレ持ってて
······え?!
·············
モガさんっっ?!



カイトから渡されたモノは、付喪神のモガさんだった――――――

のだが、柄を握ってもモガさんが反応する事はなく、未だに封印されたままのようだ


て言うか、そもそもカイトはモガさんを私に使わせるのをこの上なく嫌がっていた筈なのに何故このタイミングで、しかも封印されたままのモガさんを渡してきたのだろうか?



·····これは

一体どう言うつもり?

取り敢えず身を守るための何かが必要かなって思って
········??

まぁ、いいけど――――――



カイト·····

言ってる事とやってる事が矛盾してない?

そもそもカイトが私を守るからモガさんは必要無いんだって言ってたよね···?


それなのに、急にモガさんを渡してきたかと思えばモガさんの封印も解いて無いとか···

これじゃこの剣を私が持っていたとしても唯の装飾品じゃないの



·····ぬぅ

(取り敢えずブン回すか····)

さて、それじゃあいろはは少しだけこのまま立ってて
······え
俺は、近辺を散策してくるから
っ?!

ハァッ?!

ちょっ、ちょっと待ってよ――――――――――
それじゃあな
んなぁっっ?!



どっ、どう言う事っ?!

さっき言った言葉は何だったの?!


「俺からすれば、いろはが襲われる方が余程許せないけどな」


···って聞こえたのは私の幻聴だったのかしら?!



··············



カイトが選定した、「鬼が絶対に出没する場所」に放置され、これはさすがに何を考えているのか全く分からなくなった



···な、なんなの?!

私の事からかってるのかしら?!

別にいつもの事だし慣れっこだから平気だけど!
·············
てゆーか、せめてモガさんの封印解いてってよ!!



····確かにいつもの事で慣れっこではあるが、それはモガさんがいてこそ成り立つ安心感と言うかね···


···街灯も建物の灯りも、とうの昔に消え失せ、真っ暗闇の中でひと気の無いゴーストタウンのような街並みに一人突っ立っているのは正直結構怖い


何故ならモガさんが封印されているからだ―――――

これまでモガさんの掛け声に安心感を抱いていただけに心細さは尋常では無かった



····なんて不安がってる場合じゃないね。覚悟はもうとっくに決めて今まで生きてきたんだし
····きっと何とかなる―――――――――――


―――と、思い直したその時、


私の首元を生暖かい風がヌルッと通り過ぎたような気がした····


そしてその気持ち悪い風が通り過ぎると同時に異臭が漂い始めたのである



···············

(これは···血の臭いだ)

(·····近くにいる―――――)
はぁ〜·····ハァハァハァ―――――――

ギヒヒヒヒヒヒ

っっっっ!!!!!!



その奇声が聞こえた瞬間、暗闇に浮き上がる様にソレは私の目の前に居た―――――――



クッッ
オンナアアアアアア!!!!
············



····あまりの声の大きさと、顔の大きさには本当に驚いた


そして何処から照らされているのか下からの光で余計に顔が大きく見えて更にギョッとしてしまった


――――なんて考えてる場合ではないわね···


私は咄嗟に身を翻し、鬼との距離を取った

···まあ、こう言うのは本当にいつものことだし最初の出だしくらいは慣れっこである



(····相変わらずモガさんは無反応ね)
ハァハァハァハァ―――――ジュル―――

オンナァァァ喰わせろ喰わせろッッ

····アナタはついさっき誰かを喰ってきたんじゃないの?口の周りも服も血だらけよ?
男はマズイ――――――――

男は不味いイイイイイイイイイ!!!!

····人の命を奪っておいて男は不味いですって····?
····アナタは、例え復元させたとしても人には戻れないかもしれないわ
煩い煩い煩い煩いイイイイイイイイ
お前らなどただの喰い物でしかない価値のない家畜と同じダアアアアアア
···········

貴方だって元は人だったでしょう?もう覚えていないかもしれないけれど



この鬼は「青鬼」だ―――――


青鬼に鬼化してしまう理由は「嗔恚(しんに)」と言って、悪意や憎しみ怒りなどの感情が爆発する事で変化してしまう


この人に何が起きたのかは分からないし、そんな事をいちいち考えてあげられる程私は仏に近くもない



(とにかく今はモガさんの剣を使うしかないわね――――――)
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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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