第205話「放置」
文字数 3,394文字
―PM7時30分―
《緑川区》
····本日、私とカイトは朝早くにカイトの実家である廻転院を出立し、いつもの二人旅を再開した所なのだが――――
···おや?凪さんはどうしたの?
と思っている方も多いかと思われる···
···うん、実は朝起きたら――――
凪さんが強制的に玄宥様になっていて、(玄宥様に無理やり指示されたらしい)それを見たカイトが朝からスンッとなってしまったので、伊吹家の方に迎えに来てもらって車でお帰り頂いたという経緯なのである····
····でも一番ホッとしたのは、廻転院を出立する際に慧慈様がお見送りに来て下さり、カイトに対して――――
「次はこまめに帰って来なさい。それから、どうしてもいろは様と籍を入れたいと言うのであれば、私のサインを貰いに来る事を条件として二人の婚姻を認めよう」
と仰っていた事だ····
いや···別に婚姻云々が良かったとかって話ではなく、慧慈様とカイトの距離が少しだけ近付いたような気がして勝手に喜んでいるだけなのだけれど――――
だから······
あざとい!
分かっててやってるとしか思えないわ·······
だがしかしワンコカイトが可愛すぎて秒で許してしまう自分もしばき倒したい―――――――
夜叉丸になったり、ワンコになったり、意外な一面を見せられて心臓が爆発寸前だ·····
普段が冷静なだけにギャップ萌えがすぎる――――
―近隣ビジネスホテル―
《ニュー・ロックハンド》
カイトから渡されたモノは、付喪神のモガさんだった――――――
のだが、柄を握ってもモガさんが反応する事はなく、未だに封印されたままのようだ
て言うか、そもそもカイトはモガさんを私に使わせるのをこの上なく嫌がっていた筈なのに何故このタイミングで、しかも封印されたままのモガさんを渡してきたのだろうか?
カイト·····
言ってる事とやってる事が矛盾してない?
そもそもカイトが私を守るからモガさんは必要無いんだって言ってたよね···?
それなのに、急にモガさんを渡してきたかと思えばモガさんの封印も解いて無いとか···
これじゃこの剣を私が持っていたとしても唯の装飾品じゃないの
どっ、どう言う事っ?!
さっき言った言葉は何だったの?!
「俺からすれば、いろはが襲われる方が余程許せないけどな」
···って聞こえたのは私の幻聴だったのかしら?!
カイトが選定した、「鬼が絶対に出没する場所」に放置され、これはさすがに何を考えているのか全く分からなくなった
····確かにいつもの事で慣れっこではあるが、それはモガさんがいてこそ成り立つ安心感と言うかね···
···街灯も建物の灯りも、とうの昔に消え失せ、真っ暗闇の中でひと気の無いゴーストタウンのような街並みに一人突っ立っているのは正直結構怖い
何故ならモガさんが封印されているからだ―――――
これまでモガさんの掛け声に安心感を抱いていただけに心細さは尋常では無かった
―――と、思い直したその時、
私の首元を生暖かい風がヌルッと通り過ぎたような気がした····
そしてその気持ち悪い風が通り過ぎると同時に異臭が漂い始めたのである
ギヒヒヒヒヒヒ
その奇声が聞こえた瞬間、暗闇に浮き上がる様にソレは私の目の前に居た―――――――
····あまりの声の大きさと、顔の大きさには本当に驚いた
そして何処から照らされているのか下からの光で余計に顔が大きく見えて更にギョッとしてしまった
――――なんて考えてる場合ではないわね···
私は咄嗟に身を翻し、鬼との距離を取った
···まあ、こう言うのは本当にいつものことだし最初の出だしくらいは慣れっこである
この鬼は「青鬼」だ―――――
青鬼に鬼化してしまう理由は「嗔恚(しんに)」と言って、悪意や憎しみ怒りなどの感情が爆発する事で変化してしまう
この人に何が起きたのかは分からないし、そんな事をいちいち考えてあげられる程私は仏に近くもない