第177話「白鬼」
文字数 2,769文字
―AM1時30分―
《路地裏》
確かに···理性が無いからって、人を喰い殺した鬼を人に復元させた所で、その人の業と記憶はどうなるんだろう···?
鬼化した時の最悪な記憶が残ってしまえば、一生苛まれて自分の罪に耐えられなくなる事もあるかもしれない
····もしくは、また同じ事を繰り返す人も中には出てくるのではないだろうか
ザ―――――――ッ
その時、この場に居た全員がとある気配を察知した――――――
いや···、気配と言うよりは····
これは完全に死臭と殺気だ
··そして何よりも血腥さが尋常ではない
鬼の姿は····まだ見えない―――――
でも、さっきから鳴っているこの異音は何?!
視覚で捕らえられない事が私の緊張感を高める一方だった
しかしうるさい程に鳴り続けるこの異音、それは間違いなく近づいて来ている
こんな状況が懐かしいだなんて、一体どんな生活をしてきたらそう思えるのか――――
と、その時だった―――――――――
異様に甲高いようで、でも闇の現で聞いているかのように押し込もった不協和音が不快で堪らないその声は、私のすぐ後ろから聞こえてきていた―――――
振り向いた私の目の前には、返り血であろう血だらけの顔が暗闇の中に白く浮き上がっていた
しかし、見開いた目は焦点が合っていない···
明らかに女である私の元へと対象を挟めて来ているのにも関わらず、見えていないのかもしれない
玄宥様にそう言われ、咄嗟に身を引いたその直後だった――――――
鬼はまさに私の顔にかぶり付いて来ていたのだ―――――
瞬時に身を引いていなければ確実に顔の一部を喰われていただろう
その時、玄宥様は隙かさず真言を唱え私の周りに結界を作ってくれていた―――――
やっぱり玄宥様って凄い····
何が起きても冷静さを失うことが無いのだ
常に周りを見ていて、瞬時に判断を下している···
私もいつかそうなれる時が来るのかな?
···私を喰いたくて堪らない鬼は、玄宥様の結界に侵入しては焼かれ、身を引きながらまた私を喰おうと侵入して来る··を繰り返している
この鬼は恐らく白鬼だ―――――
いつだったか夜叉丸が言っていた···
鬼の色には業(ごう)が関係しているって
白鬼は確か·····
掉挙(じょうこ)、悪作(おさ)だ
掉挙、悪作は心の動揺や後悔、絶望の象徴だったような―――――
この鬼····、そうか――――――
何故、先日殺された被害者は腹を切り裂かれ内蔵を中心に喰われていたのか···、目をくり抜かれ、舌まで抜かれる事になったのか··
分かった気がする····
その時、軽く広げていた自分の両手のひらが蒼白く光ると、その光は徐々に大きくなり鬼の頭上へと瞬時に移動した
そして、その光は鬼の頭上で激しく爆ぜると同時に、鬼は蒼白い光に包まれながら倒れたのだった―――――