第193話「桐生蒼羽の秘密」
文字数 3,151文字
―PM12時10分―
《蔵―倉庫》
···分かりました
すまんな慧慈
いえ、玄宥様のお願いを断るわけにはいきませんから
····助かるよ
····桐生蒼羽(きりゅうあおは)
彼のことを知りたいのでしたら、きっと史書よりもコチラの方が――――
そう言いながら、慧慈は埃だらけの棚の奥で何やらゴソゴソと探し始めた――――――
···他に何か手掛かりがあるのか？
ええ····
―――あぁ、あったあった
····こちらです
っ！
これは····、日記か···？
···はい
この日記は桐生蒼羽の母親がつけていたものです
····ほう、さすがは母親だ
生まれた時から子供たちの成長を書き綴っていっていたのか―――――
――――――なるほどなるほど··
ふーむ
······彼はあまり社交的では無かったようだな
ええ···、幼い頃から引っ込み思案で人と接するのが苦手だったようですね
····ですが、桐生家としての能力は生まれながらにして最高峰で、跡継ぎとしての資質は完璧だったと――――
なるほど―――――
····そうなると尚更に破門など勿体ないことだ
····百鬼との契約に関しては、自分だけでは無く、関わる人々の命までもが危険に晒される事になります···
·····ましてや超級百鬼など、我々の手にも余る案件です
·········慧慈
···はい？
そこに蠱毒の壺があるな
しかも封印が破かれている
······あぁ、そうですね
····この蠱毒の気配は―――――
なるほど「三屍蠱」か
どうやらカイトがいろはの為にこしらえていた蠱毒のようだ
············
····これについて何か言うことはないのか？
···ﾌｯ
何もありません。三屍蠱はどうやら神霊となったようですがカイトの手を煩わせるような事はあり得ないので···
何故そう言える？
····要するに――――、百鬼との契約とは如何に自分の支配下におけるかどうかに掛かってくるものであり、己の力量を知る者でなければならない
契約は···等価交換なのでそれは必ず行わなければなりませんが、人側が有利な状況で在ることが絶対的条件として相手を選ぶ必要があります
····桐生蒼羽とて最高峰だったのだろう？
····勿論そうですが、それは潜在能力では意味がありません
覚醒もせずに百鬼に挑むなど、ただの愚か者でしかありませんよ
····桐生蒼羽は覚醒していなかったのか――――
···········
この世は広い····、百鬼とて様々な者達がいます――――
心根の優しい者もいれば、残酷な者もおります···が、心根の優しい者を探す方が大変です
まぁ、百鬼とは人を食糧とするモノの方が殆どだからな
·····はい
·······その中でも最も残酷な獄卒にだけは手を出してはならなかった
······獄卒――――だと？
····はい
桐生蒼羽は契約相手に、地獄から這い上がってきた鬼である羅刹を選んだのです
え〜···、何でまた羅刹なんだ？あんなのまさに悪鬼じゃないか
そもそも羅刹は餓鬼道の獄卒だぞ？どうやって這い上がって来たんだよ？
···さすがにそこまでは私も分かりかねますが―――――
そちらの日記を読むかぎり、桐生蒼羽はかなり追い詰められていたと考えられます
うーん·····
····この日記、母親はまるで息子のすとーかー、と言うヤツだな
ま、まぁ··
それほどに心配だったのでしょう
····しっかし、桐生家での婚姻はやはり霊力の高い家柄の女性をあてがう訳ね
············
····ﾊｧ
我々とて、恋愛結婚の方が良いに決まっておりますが―――――
昔のわだかまりの所為でしょうね
····そんなに櫻井家を意識していたと言う事か？
···玄宥様に何と言われようとも、こればかりは初代の決め事に依るものですから我々に破ることは出来ません
···そうか、確かにそうだな
俺とて慶長様の決め事は仏になった今でも破ることは出来ん
··········
·····そうなると、これは少し気の毒な展開ではあるな
······そうですね
桐生蒼羽が、家の決めた婚姻相手を受け入れることが出来なかった理由――――――――
もっっとず――――っと前から、心に決めた女性が居たと··そういう事か
····それだけでは――――
無かったようですけどもね····
·····あぁ、なるほど
それが伊吹遊馬(いぶきあすま)の存在か――――
···ええ
その伊吹遊馬には妹もいたようですが
ほう、秘密裏に二人も子供を作っていたとは中々やるじゃないか
褒め称えている場合ですか··
····だが正々堂々と家族を表に出せなかったのはやはり可哀想だったな
············
····果たしてそうでしょうか
····なんだと？
······桐生蒼羽は―――――
結果的に······
·····百鬼との契約の等価交換に
―――――我が子を生贄に捧げているのに····ですか？
っ！！
····そう言えばそうだったな
俺はその真相を探りに来たのだった
····なるほど
そう言う事でしたか―――――
しかし、なぜ玄宥さまがその様な事を気になさるのですか？
あぁ、まさにその桐生蒼羽の息子である伊吹遊馬(いぶきあすま)····いや、桐生遊馬と呼ぶべきかな···
····彼は皮肉な事に、私の可愛い子孫と結婚をして子供まで作っている
····な、なんですって？！
さすがにそこまで日記には書いていないだろうからな
···なんと――――
まさか桐生家と櫻井家が····
まぁ、別に悪いことでは無いだろう？
·····それは、確かにそうですね
俺としてはむしろ大歓迎だけどね？
伊吹遊馬(いぶきあすま)は櫻井蓮(さくらいれん)にとても優しい男だった
※伊吹遊馬と櫻井蓮の物語は、前作の「百鬼夜行」に記されています
そして、櫻井蓮は自らの命を顧みず、伊吹遊馬を生贄の烙印と言う名の呪いから救うために尽力したんだ
っ！！！
二人の間に愛が芽生えるのにそう時間はかからなかった筈だ
············
····そうですか
·····そして、今現在――――
俺を口寄せしている、この「イタコ」である彼女は伊吹家の子孫だ
――――なるほど
····全て····理解致しました
それは何よりだ
·····しかしながら玄宥様――――
····何だ？
その〜···、「イタコ」がおられるのでしたら――――――
桐生蒼羽を口寄せして、直接問いただせば良かったのでは？
·····ﾌｯ
それはさすがに俺も考えたよ
勿論「凪」にも同じことを言ったのだが、彼女はこう言った――――――
「桐生蒼羽を口寄せする事は不可能です」
····と、ね
な、何故ですか？！
····イタコの口寄せってのは、成仏出来ていない霊魂や俺達のような神仏が喚ばれるものなんだよ
····では、桐生蒼羽は―――――
既に輪廻転生して此の世の何処かに存在していると言う事ですか···？！
まぁ···、そう言う事になるかな
·····し、しかし、通常であれば前世の記憶を持ったまま輪廻転生する事などあり得ない話だ――――
···だな
カイトの場合は前世の事情が事情だから、多少マカマユリの干渉が入っているため例外だ―――――
··········
(そう言えば黒鉄の飼い主も····)
·····マ、マカマユリって――――
孔雀明王様の事ですか？！
············
そんなに驚く事？俺だって仏様なんだけどなぁ〜
っっ！！！！
もっ、ももっ申し訳ありません！！！玄宥様っ！！！
決して軽視した訳では····っ！！！
···ﾌｯ
冗談だよ？気にするな慧慈
····それよりも、問題なのは桐生蒼羽はなぜ超級百鬼である羅刹に契約をもちかけたのか···
そして····、なぜ我が子を生贄にしたのか···だ
···············
そこにはどの様な事情が隠されている？
