第126話「玄宥の再来」
文字数 1,437文字
《黒崎家》
悪ぃな真那、よろしく頼むよ
まぁ···別にいいですが。
玄宥様の亡くなられた日だけ教えて下さい
そう言うと真那はフローリングに正座をし、メガネを外す――――
そして長い数珠を二重に腕に巻き付け、ジャラジャラと鳴らすと祝文を唱え始めた
ｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗ――――――
·····
·····月山大権限の御前にて百日通夜をなされつつ
盲人末世迄の渡世の事を御受け下されかしと一心不乱に祈り給う··
真那は数珠の音に併せて祝文を唄い続けている―――
相変わらずマナの祝文は嫌じゃねえな
へぇ、鬼でもイタコの祝文は心地良いんだな
イタコの祝文は優しさに溢れているんだよね。神仏に近しい種族だという事がよく分かるよ
神仏共はクソっくらえだがな！
ｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗ――――
···然るに百日目の夜の暁に至り、月山権現、朝日の枕神立たせ給へう··
···何処に朝日、汝盲人となり、人のため、身のため、末世の渡瀬祈ること神妙成····
···················
その時、真那の数珠の音と唄がピタリと止まった――――
っ！！！
········
ﾜｸﾜｸ
····俺はいつだってお前達の事を気にかけているぞ？陰陽頭の仕事は確かに忙しいのだが――――
っ！！！！
っ！！！！
っっ玄宥様っ！！！？
····ん？
確かに俺は玄宥だが···、聞き覚えのあるような無いような声だな―――
···おい、ゲンユー
まさかこっちが見えていないのか？
····その態度の悪さ
そして顔に似合わずいい声のお前は夜叉丸か？！
やあ、ゲンユー！久しぶりだね
えっ？！まてまてホシ猫？！
これは一体どうなっているんだ？！
うわぁっ、ほんとに玄宥様だ――！
オーマがガキんちょの頃に戻っておる
ゲンユー
俺達の姿は見えているか？
···いや、もしかしてこれはあれか？俺を口寄せしているのか？
その通りだよ。
···ていうか、ゲンユーって輪廻転生してないんだね··
あぁ、俺は輪廻転生をやめて仏になることにしたから
···は？
仏で居るほうが子孫達を見守り続けることが出来るからな。それに、これは生前人の為に働き続けた結果だし
でもなんかさっき、妻への言い訳がましい事を発しながら登場してなかった？
家庭を犠牲にして仏になられてもね
っっ！！！
な、なんの話かな？！ホシ猫！？
取り敢えず、鬼族に乗り込もうってのに目が見えないんじゃ仕方ねえぜ
それ以前に、マナの体をゲンユーの意思で動かす事なんか出来んのかよ
····マナ？この体の持ち主の事か？
この娘はイタコか、なるほど···
···玄宥様、実はお願いがあって口寄せさせて頂いたんです
···ほう、お前は俺の子孫かな？
何となく話し方が俺に似ている
えっ？！
ホントですか？！めっちゃ嬉しいな！
ゲンユー、手っ取り早く説明するぜ。鬼族に乗り込んで殲滅させるのにお前の力が必要だってこった
······は？
何処に乗り込むって？
鬼の巣だよ。
昔ゲンユーだって幕府から殲滅命令が出てただろう？
いや、あれは結局殲滅は無理だったろ？あれから何年経っているんだ？
200年以上だ。今回俺の連れがカルラに連れ去られた。それを取り戻すついでに殲滅をだな――――
···ついでにすることじゃ無くない？
とにかく、ゲンユーの力が必要なんだよ！何とかしろよ！
えぇ？！
うーん、困ったな。相変わらず強引な奴だがまぁいい、俺は仏だ
普通なら仏が鬼の力になんてならないと思うけどもね
まったくもって不可解な状況なのだ
···俺は無条件に呼び出されただけの被害者だ··よな？
