第186話「分岐点」

文字数 3,594文字






         ―AM8時20分―


        《Caffe―ゑ來屡》



チュン チュン チュン―――――








·······ッッッハ!!!
ワ、ワ、ワタシとした事がっっっ!!

寝過ごしたッス!!!!

····ック!!

(どんなに朝まで呑んでも鬼の世で寝過ごした事など一度もないのに!)

·····あら

廃炉さん起きたんですね

イッ、イカタル*さん····っ
おはよう御座います!珍しくグッスリと眠っておられましたね!
す、すみません····

こんな時間になるまで寝過ごしてしまうとは····

フフッ

どうしてそんなに謝るのか分かりませんが大丈夫ですよ!

今日は臨時定休日にしましたから!
っ!!!!
それに·······
お二人もまだ、気持ち良さそうに眠ってらっしゃいますから····、起こさないようにして下さいね
―――――え
っっ!!!!

(しかも起きてるし!)

····何ですか?

何か文句でも?

·····あ、アンタ

職業的に煩悩を捨てるのが普通なんじゃ無いんスか····?!

····人には108の煩悩がありますが、鬼の煩悩は5000万くらいですか?
いやっ!!!質問しているのはこっちッス!!!つーかそんなに煩悩だらけだったら仕事なんか出来ないッス!
(あらあら···)
··········
···いろはがまだ眠っているので静かにして貰っても?
ッッッ!!!!!
···········
廃炉は何となくイラッとした
もう···廃炉さんたら···
さぁさ、お店を片付けたらお買い物に行きましょう!今日はお天気も最高ですよ!
イカタル*さぁん♡

行くッス!デートッス!!

合い鍵を置いておきますので、カイトさんといろはさんはどうぞご自由にされて下さい
····有難うございます



そう言ってイカタル*ちゃんと廃炉は部屋から出て行った―――――



···········
スー スー



カイトはスヤスヤと眠るいろはを見つめた後、ふと窓の外を眺めながら、これまで焦燥感に駆られてきた日々がまるで嘘のように感じていた···



····本当に

今日は天気が良い·····



カイトが窓の外を眺めながら再びウトウトし始めた時――――――



夜叉丸
····ん
····あぁ

ホシ猫―――――

夜叉丸····

少し頼みたい事があるのだけれどもね

·····頼み?
ホシ猫はそろそろ引退の年齢(ジキ)に入っている気がするんだ
·····何を今更―――――
ホシ猫はね、もう齢(ヨワイ)980歳だ

寿命が無いとは言え、この能力を存分に発揮するには年老いたよ

············
····最近ホシ猫が寝てばかりだと、いろはが心配していました
···まあ能力が能力だからね

寝てばかりなのは結構昔からだったんだけどもね、猫だし

ああ〜···

そう言えばそうでしたね

だから別に不調な訳ではないのだよ?だけどもね、ホシ猫は夜叉丸がいろはを迎えに来るのをずっと待っていた
············
確か昨夜····

いろはをひとり占めさせないとか言っていませんでしたか?

···そんな事言ったかい?

もし言ったのだとしたら、その猫被り夜叉丸が気に入らなかっただけだよ

···そんな事言われても困るのですが
ふむ···

猫被りも癖になれば変えるのが難しいらしい

鬼狩りの鬼だった頃の私の印象が、どれほどに酷かったのか良く分かりますね
····いや、そんな事はないさ

みんな夜叉丸が好きだったよ

っっ!!!!
·········
夜叉丸

君は昔からとても優しい奴だった

っ?!
それは、あの日に出会ったホシ猫が一番よく分かっているんだ····
··········
····ホシ猫が死にたがっていた時に迎えに来てくれて有難う
·····別に

一人で旅をするのも飽き飽きだっただけですから

····そうかい?
て、言うか···

何をらしくない事を言っているのか―――――

ホシ猫はまだまだ生きて行く···

黒鉄だって、貴方が来るのを待っているのでは?

····そうかな
···黒鉄は自身の本音を口にするような雄(オトコ)ではありませんが、きっとホシ猫を待っている筈ですよ
うん······
···········
いろはを····

大切にすると約束出来るかい?

············
·····フッ

当然!

····うん

良かった―――――

これで···いろははもう傷付かなくて済むね
············
·········
······やっぱり

ホシ猫は年老いたなぁ····

···········

いや···

····お前は昔からそんな感じだろ













         《Caffe―ゑ來屡》

あ、ここに居たんだね
カイト――――
····いろは、やっと起きたか

遅すぎだろ

ご、ゴメンナサイっ!

お布団があまりにも気持ち良くて起きれなかったよ···

····そうか

それなら良かった

イカタル*さんと廃炉さんは?
···二人なら

仲良く買い出しにでかけた

そっか!
あれ、そういえば···

ホシ猫さんはまだ寝てるのかな?

···········
ホシ猫は····

黒鉄に会いに行ったよ

····えっ
···········
··········

そうなんだ―――――

ま、また直ぐに戻って来るよね···?
············
····そうだな

きっと直ぐに戻るだろう

·····うん



カイトは心の思いが顔に出やすい···


きっと·····

ホシ猫さんはもう戻っては来ないのかもしれない―――――


···せめて

お礼だけは言いたかった····



私は····

ホシ猫さんと一緒に過ごした時間だけは、いつも心が穏やかだった···


鬼との戦いは辛くてシンドいものだったけど、ホシ猫さんが居てくれたから何があっても心が折れずにやってこれたんだ


ホシ猫さんを開放しなくてはと思いながらも、きっとこの先も側に居てくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのは私の勝手な甘えだ――――


···これで良かったんだよね

ホシ猫さん····



············












        ―PM16時30分―


         《黒猫マート》

·······おや?
おかしいな

この辺だったと思ったのだけれど

···········

まぁ···あれから150年、一度も立ち寄らなかったからね··

····こんな事は良くあることだ
··············

···フゥ

····仕方ない

またイチから探すのも悪くないか―――――――――



そうブツブツ言いながら、ホシ猫が来た道を戻ろうと後ろを振り向いたその時だった――――――



お主、そこで何をしておる
っっ!!!!!
ここは立入禁止区域なのだ
·············え
····記憶喪失?
······何が?
いや·····

何でもない

····ワシがボケたとでも思ってるのか?ホシ猫よ
····何だよ紛らわしいな
紛らわしい事など何もしておらんのだが····
サスガにチョットだけイラッとしたさ
っっっ!!!!!?

何故だ?!

····そんな事はいいとして

黒鉄の住処は何処へ行ったのかね?

······あぁ

黒猫マートは移転して、現在は花街の近くにあるのだ

····なんでまた花街?
···たまたまだろ

立地条件が良かったのと土地代が安かったらしい

ふーむ···そうかい?

ところでサスケはどうしてるのかな?


サスケか?

サスケは現在まだ8歳程度だ。前世では89歳という若さで亡くなったからな

なるほどね····
·············
···········
で、何で移転したのかね?
·····いや

それよりも大事なことがあるだろ

·····なにが?
····なにが?じゃない!

いろははどうしたのだ

····あぁ

いろははやっと幸せになれるんだ。これ以上辛い人生を生きて行く必要がなくなったんだよ

っ!!!!
·····なんと、夜叉丸と出会ったのか?!
····うん、猫を30枚くらい被ってるけどもね
····ホシ猫、輪廻転生とはそう言うものだ。前世とはまるで雰囲気が違う場合はいくらでもあるのだ
しかし、それが現代の夜叉丸なのだろう。あまり昔を懐かしんでしまうと、本人は傷付くものだ
·····そうだね
············
·····いろはと離れて寂しいのか?
····どうかな

いろはの事を思えば、これで良かったんだと思うんだけどね··

····そうか
ならば····

これからは黒猫マートを拠点として、今度はとある人物を探さんか?

とある人物?
ああ―――――

···ホシ猫、お前の「ジジイ」を、だ

っっっ!!!!!
·····長旅、ご苦労だったな
これからは自分の為に、マイペースに生きて行けば良い
·············
黒鉄·····
····口説いてるつもりかい?
·····フン

たかがワシなんぞ···ホシ猫を口説くにはまだまだ経験不足なのだ

·····今年で何歳になったんだい?
·····七百六歳だ
十分ジジイじゃないか
·············


齢(ヨワイ)980歳のホシ猫には言われたくないと心底思う黒鉄だったが、口が裂けてもそんな事は言わない紳士的な黒鉄なのであった



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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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