第188話「縊鬼(イキ)」

文字数 3,570文字





        ―AM3時15分―


          《街頭》

·············
···やっぱり今日は、何だか静か過ぎる気がするなぁ
············
(···て、言うか鬼狩りするのにモガさんいなくて大丈夫かな····)
いろは···
へっ?!
何やら不安げだが····
そっ、そんな事は無いよ?!
心配しなくてもお前の事は俺が守るよ

(モガさんは居なくても問題ない)

っ!!!
···その為に俺はいろはを探して旅をしていたんだからな
······嬉し―――――
·····ハッ



でも····

前もそうだった―――――

私を奪い返す為に夜叉丸はカルラ様に殺されかけたんだ···


私は―――――不老不死だから死ぬことは無い····、傷付くのは死ぬほど痛いし辛いだけだから、そんな事には未だに全然慣れないけど··


それでもカイトが死ぬようなリスクを背負うくらいなら私が傷を負う方が断然マシだ



····いろは?
カイト····

私は大丈夫だよ。守ってくれなくても大丈夫···

っっ?!
·············
····もしかして、俺の心配をしているのか?
··········
·····フッ
お前はまだ知らないかもしれないけど···、俺って実はかなり強いよ?
っ!!
まぁ、こんなこと自分で言うもんでも無いんだが·····
いろはの不安を取り除くほうが最優先だからな
·····!
···夜叉丸
っ!!
·········
·········おぅ



少し切なそうに返事をしてくれたカイトは、私の頭を軽く撫でながら優しく微笑んだ―――――



(···や、ヤバい―――――)
(ドキドキする···)
·············

(可愛い···)




と、その時だった――――――





うぅ〜  ヒック···ッ

くくく········っっ

っ!!
っ!!!?
カイト····っ
いろは···静かに



カイトは私の腕を掴み、建物の隙間に身を隠した―――――



えっ?!



あれっ?!

なんで隠れるの?!

鬼狩りをする為に此処にいるのに···



か、カイト····?
······ん?
な、何で隠れてるの······って言うか···
(建物の隙間が狭すぎてカイトとの距離が近すぎる件···っっ!!)
ああ···、少し狭いけど我慢して
い、いや···そうじゃなくてっ、何で隠れるの?!
··········
いろはは、あいつに見覚えはないか?
·····えっ?!
良く見てみろ
·········

ジッ








く····っふふ―――――


危なかったぜ――――――
·············
·············
····え

もしかして――――――

思い出したか?
あの人は―――――――



あの人は····

私が鬼から人へと復元させた内の一人だ―――――


しかもあれは···忘れもしない···!

私の腕を引き千切り、痛みに苦しんでいる私の目の前で引き千切った腕をガツガツと美味そうに喰らっていた最低な鬼···!


その後、ホシ猫さんが能力を発動して下さったおかげで何とか大人しくさせることが出来たけど····かなり厄介な奴だった――――――



····ギリッ――――
あの男には····

復元される以前の記憶がない

·········
だが、業が付与されていれば俺達には分かるんだ。いろはに復元された鬼だった奴だと言う事は····
···じゃあ、カイトはあいつに―――――
···········

あいつを良く見ておけ···いろは

っ!!!








ふはは····っ!!

これでもう俺を刧かすものは何も無いぞ·····っ!!

····今日の酒は一段と美味かったなぁ〜···ヒヒヒッ



だいぶ酒を飲んでいるであろう男は気分良さそうに千鳥足で歩いている··

誰もいないのを見計らっているのか、自身の行いをベラベラと喋っているようだ



·········
ただの遊びだっつーのに本気になりやがって·····ヒック···ッ! 妊娠したからなんだよ?!責任なんか取るわけねぇだろが!
そんな自己中女は殺されて当然だ!!
っ!!!!!
···この俺が妻と離婚するとか本気で思ってたのか?!馬鹿な女だ!!アイツは院長の娘だぞ?!たかが看護師のくせに身の程を知れよ!
あぁ〜···ガキもろとも死んでくれてせいせいしたぜぇ····!
ケタケタケタケタッ
····まさか、殺したの···?

自分の子を身籠った女性を――――――――

···········
救ってやった所で····

···何も変わらない

···········
····これが現実だ――――
·········
だが、いろはのやって来た事は何一つとして無駄ではない
·········
お前の後ろには必ず俺が居るのだから
····カイト
···見てな

お前の優しさを踏みにじった奴に発動されるその『呪い』を―――――

っっ!!







あ〜···何か···、凄まじく眠いんだよなぁ、飲み過ぎたせいか···?



男はフラフラしながら道端に座り込んだ―――――

まるで何かに手招きされているかの如く、睡魔に襲われているようだった


そして·····

男はあっという間に夢の彼方へと落ちて行った


····zzz
···········
っっ?!



そして、男の様子を伺っていた私はギョッとした―――――


月の光に照らされた男の影が揺らめいた時、その影の中から黒い女···?のようなモノが這い出ようとしていたのだ



あ···あれは···何?
····あれが「縊鬼(イキ)」だ
···········
く、首に縄が掛かっているの···?
············
···「縊鬼」は人に取り憑き首を括らせる鬼だからな、その象徴だろうが···
以前よりも遥かにおぞましい姿に変わってきたな···
···········



最初は女の様な形をした黒っぽい影だったそれは、男の影から抜け出る頃にはハッキリと恐ろしい姿に変わっていた



·······!



すっかりと形を成した「縊鬼」は熟睡しているであろう男をジッと凝視した後、今度はズルズルと男の体の中に入って行ったのである―――――



··········
っ!!



男の中に「縊鬼」が入り、暫く経った頃だった


気持ちよさそうに熟睡していた筈の男の表情が徐々に変わっていく―――――



·····グ····ガァ···ッッ
く、首にアザが····っ
···········
···呪いは完成され、悪夢は始まった
····申し訳···ありません

··死んでお詫びします

····ゆ、許して下さい

首を括りますので···どうか――――

········っ!!
あの男は「縊鬼」に取り憑かれ、もう救われることは二度とない――――
あのまま永遠に悪夢の中で首を括り続けて精神が果てるまで繰り返される
············
体が死ぬことは無いが、苦痛だけを伴い目覚めることもない永遠の呪いだ
·············
·······残酷だと思うか?
·····そうね
だけど···

本来、業を背負えば鬼となり···鬼となれば消滅させられるだけの道しかなかった

·········
私が「復元」をする事で鬼化は解かれ、業だけが残るけど····
····業は―――――

来世にまで引き継がれるが···、百鬼に喰われるまでその苦行は続く

だが、今はいろはが「復元」をし、俺が業を取り除く事で(呪いはかかるが)一度だけ再起する事が可能だ
····鬼化以前の記憶が無い中で、再び業を背負うような事をすれば今回のような事にはなるが、心を入れ替える事が出来れば回避するのは簡単だ
·····うん
これは孔雀明王からの御慈悲以外の何者でもない
···そうだね
············

いろはは優しいから――――

あんなクズにさえも同情するんだろうな
····そ、そういう訳じゃ···
·········
呪いをかけるのが俺の役割で良かったと····心底思うよ
っ!!



そう言ったカイトは私に向けて優しく微笑むと、また軽く頭を撫でた―――――――



············っ!



もう···

カイトは絶対に天然タラシだ―――――

こうやって世の女性達をメロメロにして来たに違いない····





完全にメロメロになってる奴がここにいるのがその証拠だ···



··········



でも···、カイトの本心はどうなんだろう···?

夜叉丸の思いがカイトの気持ちに影響させているだけなら···私のような170年も生きている実質オババになんて興味ないのが本来なのではないだろうか····?


私はオババなのに、若干20代後半?くらいの若者にドキドキさせられて···、実はこれって結構情けないのでは――――?!



····自覚すると思ったよりも凹む
············
····急にどうした?
い、いえ····
···········
····それじゃあ行こうか
あっ、あの人は―――――?
····朝になれば誰かに拾われるだろ
俺はいろは以外に興味は無いし助ける気もないよ?
っ!!!



そ、それが現職の僧侶が言う言葉か――――――





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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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