第192話「玄宥の目的」

文字数 3,398文字







        ―AM10時45分―

               《蔵―倉庫》

よし、··それじゃあ、施術のために壺の封印を解呪する――――――
う、うん····!



カイトが私の為にこしらえていた「三屍蠱(さんしこ)」という蠱毒····

一体どのような百鬼なのだろう?


神霊となって寿命を喰らうみたいだけど···

おぞましくてグロい蟲が出てきたら本気で嫌だなぁ〜·····


共存だからって、食べなくても良いのは良かったけれど···どっちにして体内に取り込まなくてはならないのよね··




·····よし

覚悟を決めよう――――――




安爾(あに)、 曼爾(まに)、 摩禰(まねい)、 摩摩禰(ままねい)、 旨隷(しれい)、 遮梨第(しゃりてい)、羶(せん)

この陀羅尼神呪をもって「三屍蠱」の封印を解呪せよ
っ!!!!



カイトが陀羅尼神呪を唱えたその時···


壺にしっかりと貼られていた封印の御札が壺の内側からバリッと破かれた――――――



···········
···········



そして―――――

中から出てきたのは―――――



············
っっ!?
····三屍蠱

俺が誰だか分かるか?

···········

じぃ―――――

··············

カイト―――――

久しいな
我に共喰いをさせたな

カイト···!

···だからどうした?

お前が力を欲していたから手を貸してやったまでだろう?

············

確かに、我は力が欲しかった

だからと言って共喰いをさせられるとは聞いておらぬぞ
····ふん

そのお陰で、お前は神霊となり上級蠱毒となったのだ

俺はお前の望みを叶えてやったのだがな?
··········?!



ちょっ、ちょっと大丈夫なのこんな不穏な空気で····?!

この三屍蠱····、共喰いさせられてめっちゃキレてるようなんだけど··?!



····カイト、キサマがただの小童であればその命吸い尽くしてやっている所だが――――――
··········
····そこの娘よ
·····えっ?!
·····じぃ――――――
···········
なるほど····

お前····不老不死か――――

っ?!
····そう

三屍蠱、お前はこれから俺の支配下でいろはの寿命を喰い続けるんだ

············

キサマの支配下と言うのは気に入らんがまぁ良いだろう

こんな貴重な体験、そうそう出来るものでもない
き、貴重····なんですか?
·····お前は己以外の不老不死と出会うた事はあるのか?
っ!!
····不老不死の寿命を喰い続けるとは···何とも贅沢な事だ――――
····俺といろはが共に年を取り、命尽きるその時までの契約だ
···その後は自由に生きればいい

お前の階級はずっとお前の物だからな

····なるほどな

まぁ、悪い話ではない

―――ただし
···この先、一度でも良からぬ思いが過ぎったその瞬間···、俺はお前を即刻消滅させる
············
···いろはの体に何かしらの影響が出る前にだ。····ずっと監視されていることを努々(ゆめゆめ)忘れるな
····ふん

分かっておるわ

·······
はぁ〜···怖い怖い

娘っ子の男は恐ろしいのぅ〜

···すみません三屍蠱さん
············

構わんよ、娘っ子は可愛いからのぅ···カイトには勿体なさすぎるわぃ

イラッ
···俺的にはお前がいろはの胸の中に入ることすら不快過ぎるがな!
····何を言うておる

キサマが望んで施そうと言うものに不快もクソもあるか

全てはキサマの思うがままだろうが
···ぅグッ
(全くもってその通りね···)
と、とにかく!

サッサと始めるぞ!



すこし焦ったようにそう言ったカイトは、三屍蠱さんを私の両手に乗せた



···あれ、なんかフワフワしますね?
んまぁ〜、我の体は殆が幻影で出来ておるからのぅ本体は小さな青虫程度だ
あっ、青虫?!

それなのに共喰いで生き残ったんですか?!

うむ

驚いたか娘っ子よ?体は小さくとも口はデカいのだ

····な、なるほど

(イマイチ想像しづらいわね··)

いろは、そのまま三屍蠱を胸に抱いててくれるか?
は、はい
よし、それじゃあ···

いろは――――――

···へ?
···悪いけど少し触るから
えっ?!

(どこを?!)



その時、胸に抱いていた三屍蠱さんごと私の手を覆い包むかのように、カイトは優しい手付きで両手を重ねた―――――――



··········
········

(カイトの手···大きいな···)

唵(おん)―――――
 帝(てい)、 目帝(もくてい)、 目多履(もくたび)、 娑履(しゃび)、 阿徠娑履(あいしゃび)、 桑履(そうび) ――――
 叉裔(しゃえい)、 阿叉裔(あきしゃえい)、 阿耆膩(あぎに)、 羶帝(せんてい)、  陀羅尼(だらに)、 阿盧伽婆娑(あろきゃばさ)
世尊よ、この陀羅尼神呪をもって三屍蠱といろはを融合させ、人として歩む道を示されん
っ!!!



カイトが陀羅尼神呪を唱え終えた時、三屍蠱さんと私の手を覆うカイトの手の内側から白く眩い光が優しく放ち始めた―――――


その光は、私が復元する時に放つ光とはまるで種類の違うモノであり、「呪い」とはかけ離れている程に優しくて美しい光だったのである



··········

(なんてキレイな光なんだろう···)

っ!!

もしかしてカイトって聖女様?!

····ん?

聖女様とは何だ?

····なんでもない
↑ただの漫画の読みすぎである
····よし

成功したみたいだな

っ?!
あ、あれ?!

三屍蠱さんは?

たった今いろはの中に入ったよ
いろはの中····

と言われてもよく分からないわね

そうか、違和感が無いならうまく融合されたようだな

それって―――――

私が死んだ後は···三屍蠱さんは出てこられるの?

····大丈夫だよ

一応、三屍蠱とは契約を結んであるから、いろはの死後は開放される

····そっか

なら良かった!

三屍蠱さんとは仲良くなれそうだったんだよね!何となーくホシ猫さんぽくて!
···········
そうか?
うん!
···まぁ、いろはが願えば三屍蠱と会話が出来るようになるかもしれないな
っ!!

ほんと?!そうなるといいな〜っ

···········
(···後は暫く様子を見ながら三屍蠱を監視する必要があるな)
いろは
····ん?
今日からは人と同じ様に年を取る事が出来るはずだ――――――
っ!!!
····だから――――

記念日として、少しでいいから祝わせて欲しい··

····うん

有難う···カイト――――

と、言う事で――――

これから出掛けるぞ

っ!!!

うんっ










          ―AM11時35分―


         《蔵―倉庫》

·····桐生家の史書ですよね

―――確か、この蔵に保管していた筈なんですが··

ほぅ、中々広くて立派な蔵だな
いやはや、最近はあまり人の出入りが無いもので埃っぽいのですが····
しかし何故そんな物を拝見したいのですか玄宥様?
···俺の可愛い子孫がなぁ、ある思いを遺して亡くなったものでな―――
っ?!

玄宥様の子孫ですか····?

····ああ
····櫻井家が桐生とどのような関係があるのでしょうか?
····申し上げ難いのですが、桐生と櫻井は平安時代の派閥によって―――――――
·····そりゃあ大昔の事だ
···やはり、慧慈も知らんのか
····何をですか?
お前達の代から五代くらい前の話なんだがなぁ····
····五代···と言うと――――
···確か、跡継ぎに選ばれたのは「桐生 蒼羽(きりゅうあおは)」、彼が長男だった筈ですが――――
っ!!!!
····そう、まさにその「桐生蒼羽」が問題の男だ
····まさか、彼のことを調べに来たのですか?
····そうだよ
わざわざ玄宥様が?!
悪い〜?
い、いえっ!

滅相も御座いません!

············
·····ただ――――

桐生蒼羽は·····

長男でありながら跡継ぎを拒否し、あろうことが超級百鬼に自ら契約を持ち掛けた桐生家にあるまじき男です
············
·····ですので、その後は破門にされていたと思います
·····そうか
····はい
····で?
·········はぃ?
何で彼は超級百鬼に契約を持ち掛けたんだ?破門になる事は分かりきっていただろうになぁ〜
··············
···本当に桐生蒼羽の事を知りたいのですね――――
当然だろ?

それが目的で俺は凪の身体まで借りて今ここにいるのだからな―――――

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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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