第170話「あの日の廃炉とイカタル*ちゃん②」

文字数 3,190文字






        《高架下前―公園》

い、イカタル*さん·····
あ、あの···っ



案の定、全く離れる気配のないイカタル*ちゃんに廃炉はドキドキしつつも、この状況をどうしたら良いのかとうろたえていた····


いや、だからと言って離れて欲しいとは微塵も思ってはいないのだけれど!



·····廃炉さん――――
····イカタル*さん、そのままで良いのでワタシの話を聞いて欲しいッス
っっ!!!
········は、はい



イカタル*ちゃんはそう返事をすると、ちゃんと廃炉の話を聞くためにも体勢を整えなければと廃炉から離れる事にした――――


その時···



あれっ?!いやっっ!!

そのままで良いッス!!!

↑廃炉は鬼なので欲望が丸出しになる時がたまにある
···えっ?
えっ?じゃないッス!!

そのままでイイッスヨ!!?

········



勢いで抱きついてしまったイカタル*ちゃんは廃炉の言葉で我に返り、急に恥ずかしくなってしまっていた――――


自身の行動をはしたなかったとさえ思えていたところに、廃炉の離れて欲しく無さそうな発言に増々恥ずかしさを募らせていたのである



あ···、あの···

え〜っとぉ···

···········っ



そんな状況にオロオロするイカタル*ちゃんが可愛すぎて仕方のない廃炉は、イカタル*ちゃんの手を優しく握り、そのまま手を引いてベンチまで歩き出した―――――



っ!!
···········



ベンチの手前で立ち止まった廃炉は、イカタル*ちゃんをそのままベンチに座らせると、自分も隣に座った

(握った手は離さずに)



···········

(手···は、離さないんですね··)

···········
·····嫌ですか?
っ?!
···本当ならワタシは··ずっとイカタル*さんに抱きしめられていたかったのデスが···
··········っ!!!!!
カァァァ
ご、ごめんなさい···廃炉さん
急にあのような···はしたない事をしてしまって····
いや···っ!はしたないとか全然思っていないッス!!むしろご褒美的な――――――ゲフンッ ゲフンッ
···········
····手を··、握って下さったのは始めてですね――――
····ま、まぁ、そう···ですか?

(本当は手だけでは全然足りないんですが····ね?!)

············
全然··、嫌じゃありません

廃炉さんの手は大きくてとても好きなので····

ズッキュ―――――――ン!!!!



このままでは理性すら消え去りそうなイカタル*ちゃんの可愛さに、鬼の性(サガ)(脳内煩悩で埋め尽くされる)が出てしまいそうだった廃炉は、とにかく冷静になる為にも先ずはこれ迄の経緯を順を追って話すことにした










       ―PM11時45分―

          《高架下前―公園》

―――――――それで、鬼の世は崩れ去り···ワタシは忠誠を誓った主までも亡くしてしまいました
····主って、もしかして以前お店に来てくださったあの方ですか?
······はい

カルラ様は鬼族の長でした····

鬼族は···、人を喰らうのが当たり前でしたので···滅亡させられても仕方がなかったのかもしれません――――
そんなっ!滅亡させられて仕方ないだなんて·····っ!!
···いや、同族だとしても、もし――――イカタル*さんが喰われてしまったら··ワタシは···、きっと同族をも皆殺しにしてしまうでしょう
っ!!!
····手前勝手な事デスが、今なら家族を喰われたヒトタチの気持ちが分かる気がするッス···
だから―――――――
···········
···だから、何ですか?

廃炉さんはこれからどうしようとしているんですか?

··············

ワ、ワタシは――――――

···········
···本当は今日、イカタル*さんにお会いする事を····躊躇っていました
っ!!!
··········
···········
············

私はずっと待っていましたよ···?

廃炉さんなら···また絶対会いに来て下さると···信じて待っていたんです
····イカタル*さん
····でも、前にお会いした日から一切訪れて下さらない事に··私は毎日が不安でしかなくなりました
··········
考えてみれば、私は廃炉さんの事を何一つ知らないんです···
鬼の世が何処にあるのかも、廃炉さんがスマホなんて持っているのかも分からないので連絡先を聞く事も出来なかった··
············

(スマホ··は無いなぁ)

そもそも、私達は······

お···、お付き合い···している訳でもありませんからね···

·············
····そう考えたら、廃炉さんにとって私なんてその程度の存在だったのかもしれないって思わざるを得なかったんです
··········
····イカタル*さん
··········
···申し訳ないと··思っています

···しかし、以前とは違うのです··

状況は一変しました···

·········
本当は···、カルラ様のアトを追ったほうが良いのではないかと思っています――――
っっ!!!!!
ワタシにはもう居場所がありません――――、それに···ワタシだけが生きていて良い訳が無い····
····そんな···自責の念がワタシを苦しめて止まないんデス
もう···死んでしまった方が――――
〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!
廃炉さんっっ!!!!!
っつ!!!



イカタル*ちゃんは自分でもカナリ大きな声が出たと思うくらいに叫んでいた



唇を噛み締めながらフルフルと震えるイカタル*ちゃんの、此れまでならば絶対に見ることなど無かったであろう表情に廃炉は目を離すことが出来ない――――



い、イカタル*さ·····
···だったら、だったら何でココに来たんですか?!何の為に?!
っっ!!!
最期のご挨拶にいらしたんですか?!
·············っ
違うでしょ?!それでも、少しでも救われたかったから来たんじゃないですか?!
っっ!!!
···確かに、私は廃炉さんの恋人でも何でも無くて、ただのお友達かもしれません――――
···いつも何かを悩んでいて、それを絶対に打ち明けてくれなくたって···
それでも――――――
それでも!!なぜ私がずっと廃炉さんを待ち続けていたのか分かりますか?!
っっ!!!!
····すっ、す―――――っ
好き····だからですよ!!!!
······っ!!!!!
こっ、こここんな事っっ女子から言わせないで下さいっ!!!!
っっ!!!!!!

スッ、スミマセンッス!!!!

············
だから···、もし居場所がないと言うのなら、私の所へ来て下さい
······っ!!
生きているのが辛いのなら、心も体も癒えるまで私が隣にいますから
···········!!



こんな事をイカタル*ちゃんに言わせてしまった自分はなんて弱くて情けない鬼なんだろうか·····


顔を真っ赤にしながらも廃炉を支えようと必死で訴えるイカタル*ちゃんの言葉が脆く崩れそうだった自身の心に浸透して行くようだった



イカタル*さん·····、ワタシは―――――
っ!



そのとき廃炉は、ベンチに座ったまま隣で息を切らしながら上半身をコチラに向けているイカタル*ちゃんを、包み込む様に優しく抱きしめた――――――



!!!!!!
はっ、廃炉····さん···?
·····好きッス

本当はずっと言いたかったッス

······っ!!!
それなのに····、こんな状況になってイカタル*さんに言わせてしまうなんて···本当に申し訳なかったッス
····す、好きって···

私の事を··ですか?

····他に誰がいるんデスか?

貴方より素敵な女性など見たことも会ったこともないッス

カァァァ
···········
····それでも、今までずっとこの気持ちを打ち明けられなかった理由をちゃんとお話します――――
っ!!!
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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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