第170話「あの日の廃炉とイカタル*ちゃん②」
文字数 3,190文字
案の定、全く離れる気配のないイカタル*ちゃんに廃炉はドキドキしつつも、この状況をどうしたら良いのかとうろたえていた····
いや、だからと言って離れて欲しいとは微塵も思ってはいないのだけれど!
····イカタル*さん、そのままで良いのでワタシの話を聞いて欲しいッス
イカタル*ちゃんはそう返事をすると、ちゃんと廃炉の話を聞くためにも体勢を整えなければと廃炉から離れる事にした――――
その時···
勢いで抱きついてしまったイカタル*ちゃんは廃炉の言葉で我に返り、急に恥ずかしくなってしまっていた――――
自身の行動をはしたなかったとさえ思えていたところに、廃炉の離れて欲しく無さそうな発言に増々恥ずかしさを募らせていたのである
そんな状況にオロオロするイカタル*ちゃんが可愛すぎて仕方のない廃炉は、イカタル*ちゃんの手を優しく握り、そのまま手を引いてベンチまで歩き出した―――――
ベンチの手前で立ち止まった廃炉は、イカタル*ちゃんをそのままベンチに座らせると、自分も隣に座った
(握った手は離さずに)
···········
(手···は、離さないんですね··)
···本当ならワタシは··ずっとイカタル*さんに抱きしめられていたかったのデスが···
急にあのような···はしたない事をしてしまって····
いや···っ!はしたないとか全然思っていないッス!!むしろご褒美的な――――――ゲフンッ ゲフンッ
····手を··、握って下さったのは始めてですね――――
····ま、まぁ、そう···ですか?
(本当は手だけでは全然足りないんですが····ね?!)
全然··、嫌じゃありません
廃炉さんの手は大きくてとても好きなので····
このままでは理性すら消え去りそうなイカタル*ちゃんの可愛さに、鬼の性(サガ)(脳内煩悩で埋め尽くされる)が出てしまいそうだった廃炉は、とにかく冷静になる為にも先ずはこれ迄の経緯を順を追って話すことにした
―――――――それで、鬼の世は崩れ去り···ワタシは忠誠を誓った主までも亡くしてしまいました
····主って、もしかして以前お店に来てくださったあの方ですか?
鬼族は···、人を喰らうのが当たり前でしたので···滅亡させられても仕方がなかったのかもしれません――――
そんなっ!滅亡させられて仕方ないだなんて·····っ!!
···いや、同族だとしても、もし――――イカタル*さんが喰われてしまったら··ワタシは···、きっと同族をも皆殺しにしてしまうでしょう
····手前勝手な事デスが、今なら家族を喰われたヒトタチの気持ちが分かる気がするッス···
···だから、何ですか?
廃炉さんはこれからどうしようとしているんですか?
··············
ワ、ワタシは――――――
···本当は今日、イカタル*さんにお会いする事を····躊躇っていました
············
私はずっと待っていましたよ···?
廃炉さんなら···また絶対会いに来て下さると···信じて待っていたんです
····でも、前にお会いした日から一切訪れて下さらない事に··私は毎日が不安でしかなくなりました
考えてみれば、私は廃炉さんの事を何一つ知らないんです···
鬼の世が何処にあるのかも、廃炉さんがスマホなんて持っているのかも分からないので連絡先を聞く事も出来なかった··
そもそも、私達は······
お···、お付き合い···している訳でもありませんからね···
····そう考えたら、廃炉さんにとって私なんてその程度の存在だったのかもしれないって思わざるを得なかったんです
···しかし、以前とは違うのです··
状況は一変しました···
本当は···、カルラ様のアトを追ったほうが良いのではないかと思っています――――
ワタシにはもう居場所がありません――――、それに···ワタシだけが生きていて良い訳が無い····
····そんな···自責の念がワタシを苦しめて止まないんデス
イカタル*ちゃんは自分でもカナリ大きな声が出たと思うくらいに叫んでいた
唇を噛み締めながらフルフルと震えるイカタル*ちゃんの、此れまでならば絶対に見ることなど無かったであろう表情に廃炉は目を離すことが出来ない――――
···だったら、だったら何でココに来たんですか?!何の為に?!
違うでしょ?!それでも、少しでも救われたかったから来たんじゃないですか?!
···確かに、私は廃炉さんの恋人でも何でも無くて、ただのお友達かもしれません――――
···いつも何かを悩んでいて、それを絶対に打ち明けてくれなくたって···
それでも!!なぜ私がずっと廃炉さんを待ち続けていたのか分かりますか?!
こっ、こここんな事っっ女子から言わせないで下さいっ!!!!
だから···、もし居場所がないと言うのなら、私の所へ来て下さい
生きているのが辛いのなら、心も体も癒えるまで私が隣にいますから
こんな事をイカタル*ちゃんに言わせてしまった自分はなんて弱くて情けない鬼なんだろうか·····
顔を真っ赤にしながらも廃炉を支えようと必死で訴えるイカタル*ちゃんの言葉が脆く崩れそうだった自身の心に浸透して行くようだった
そのとき廃炉は、ベンチに座ったまま隣で息を切らしながら上半身をコチラに向けているイカタル*ちゃんを、包み込む様に優しく抱きしめた――――――
それなのに····、こんな状況になってイカタル*さんに言わせてしまうなんて···本当に申し訳なかったッス
····他に誰がいるんデスか?
貴方より素敵な女性など見たことも会ったこともないッス
····それでも、今までずっとこの気持ちを打ち明けられなかった理由をちゃんとお話します――――
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