第141話「夜叉丸の弱点」
文字数 1,469文字
《春の闇》
そう言い放った夜叉丸は、先手必勝とばかりにカルラ目掛けて自身の血の刀を振りかざし、空間に赤い刀の斬閃を残す速度で宙を斬り裂いた
それはまさに一瞬の出来事だった
夜叉丸の赤い斬閃は見事にカルラの肉体を斬り裂き、それと同時に斬り裂かれた肉体は徐々に崩れ始めていったのだった
だが夜叉丸は違和感を覚えていた
目の前では確実に崩れ掛けているカルラが存在している―――――
勿論手応えもあったのだ
しかし、それではあまりにもあっけない
以前に手合わせした時はカルラに触れることすら叶わなかった事実が脳裏を過ぎっていた
夜叉丸に斬り刻まれ、肉体が崩れ落ちて行っていると言うのにカルラは何事も無いかのように言葉を発している
しかしその時、夜叉丸はハッとした
目の前で音を立てて地面に崩れ落ちたのは夜叉丸に斬り裂かれた筈のカルラの肉体―――
だが、それをまるで見下すかのような視線で見つめながら奥に立っていたのもカルラだったのだ
――――実際に斬り裂かれた肉体の正体····それは鬼の餌となり息絶えた人の亡骸だった
約200年前、カルラが人間を隠形鬼(おんぎょうき)に喰わせた時の事だ···
あの時、隠形鬼に喰われて人の原型を留めていなかった亡骸はカルラに操られ夜叉丸の行く手を阻んで来たが、夜叉丸の血の刀はその亡骸には通じなかった事をホシ猫は思い出した