第181話「陀羅尼神呪(ダラニシンジュ)」
文字数 3,082文字
《Caffe―ゑ來屡》
《夜明け通り》
ここは、Caffe―ゑ來屡(エクリュ)のある武家屋敷通りから少し離れた場所に位置する「夜明け通り」だ
この通りは元々道が狭く、車では走りにくい道路だったらしいのだが大規模工業団地へ行くのに最短経路の為、とにかく渋滞が酷い事で有名だった
その道路を最近広く作り直した事で渋滞は解消されているが、車の通りが多いのは相変わらずである
·····何故かそんな場所に鬼の強い気配が漂っていた―――――
徐々に鬼の気配が強まっていく事に、もう近くまで来ている事を嫌でも察っせずにはいられなかった
そろそろ覚悟を決めないと――――
そう呟いた瞬間―――――
背後に凄まじい殺気を感じ取った私は、後ろを振り返る間もなく其の場から距離を取り、脇差しの「破魔の剣」に手を掛けダダ漏れしている殺気の方向へと上半身をひねった
こいつぁ〜美味そうな女がいるじゃねぇか――――――――!!!!
突然聞こえてきたこのイケボは、今では相棒となっている『破魔の剣』の「モガ」さんだ
モガさんは、この剣の付喪神なので仲良くなるためにも愛称で呼ぶことにしている
まぁ、御本人もちょっと嬉しいみたいだし結果オーライかな
剣の柄を掴むと、頭の中にモガさんの声が聞こえてくる仕組みになっている···
彼はとても紳士的で冷静沈着な付喪神なのだけれど···
相変わらず激しい動きを強いられるため、いまだに切羽詰まった時しか柄を握らないようにしていた
この鬼はご覧の通り「赤鬼」だ
人が赤鬼になるのは「貪欲、欲望、渇望」が強いからである―――――
まぁ、見るからに欲が強そうで自己中そうだ
それになんか笑い方とか下品だし髪はボサボサだし、もっと爽やかな鬼っていないのかしら?
もちろん夜叉丸の場合は、人に戻る為にせざるを得ない事だったのだろうけど―――――
そう怒号を飛ばした赤鬼は、私へ向かって飛びかかって来た―――――
モガさんがそう言うと、勢いをつけて前かがみに飛びかかって来た赤鬼を避ける訳でもなく、むしろ赤鬼の顔面に剣を斬り込ませようと私の身体を捻るように剣を横薙ぎに払ったのである
(それはまさにカウンターってやつ··?!)
やはりモガさんの動きは激しくて合わせに行くのがかなり難しい!
でも横薙ぎに払われた剣は、一瞬うろたえた赤鬼の顔の一部を削り取っていた
モガさんは、すかさず次の攻撃に入る準備をしろと私に言って聞かせた····次の瞬間――――――――
グンッッッ!!!
と、剣が豪速で赤鬼の背後へ向かったのだ···
·····剣をただひたすらに掴んで離さないだけの私は空でも飛んでいるんじゃないかと思える程の体感で、気付くと赤鬼の背後から赤鬼のアキレス腱を掻っ捌いていた····
いや、モガさんは本当は紳士的で優しい付喪神なんだよ!
戦いになると鬼より鬼だけども····
いつものように私の両手からは蒼白の光の集合体が発生し、赤鬼の頭上へと移動すると小さく爆ぜた――――
のだが―――――――――
ま、まって―――――
今一体何が····?
赤鬼が人に戻っていない····
そんな事がこれまでにあっただろうか?
いや···1度も復元出来なかった事などなかった――――
そ、それに····
この····人は····誰?
いつからこの辺に居たのだろう···
気配に全然気が付かなかった――――――――
そう、私に説教をしたそうな彼は身なりからすると、きっと修行僧か何かだろう···
少しだけ仕方なさそうに赤鬼の前に立ちはだかった――――――
その美しくも聞き慣れない呪文に、私は何故か心を奪われていた
この人は······一体···何者なのだろう―――――――