第181話「陀羅尼神呪(ダラニシンジュ)」

文字数 3,082文字





        《Caffe―ゑ來屡》

ウツラウツラ―――――
···いろはさん大丈夫でしょうか
そうッスね····

仙狸(せんり)さんが一緒なら安心なんスけど―――――

――――ピクッ
····おや
···いろはは何処に行ったんだい?
···っ!

いろはさんはこの辺で悪さをする鬼の様子を見に―――――

え!?

一人でかい?

仙狸さん、調子悪そうだったッスから
···すまない

いろはと一緒だとホシ猫の力も使えるものだから、調子に乗ったよ···

いろはさんならきっと大丈夫だと思います。ホシ猫さんはもう少し休んでらして下さい···
まぁ、何かあれば直ぐに戻ってくるとは思うッスが――――――
·········









         《夜明け通り》

···········



ここは、Caffe―ゑ來屡(エクリュ)のある武家屋敷通りから少し離れた場所に位置する「夜明け通り」だ


この通りは元々道が狭く、車では走りにくい道路だったらしいのだが大規模工業団地へ行くのに最短経路の為、とにかく渋滞が酷い事で有名だった


その道路を最近広く作り直した事で渋滞は解消されているが、車の通りが多いのは相変わらずである




·····何故かそんな場所に鬼の強い気配が漂っていた―――――



なんでこんな場所に鬼が····



そう思っていた時――




徐々に鬼の気配が強まっていく事に、もう近くまで来ている事を嫌でも察っせずにはいられなかった



そろそろ覚悟を決めないと――――



···ホシ猫さんがいない状況でどこまでやれるのか―――



そう呟いた瞬間―――――


背後に凄まじい殺気を感じ取った私は、後ろを振り返る間もなく其の場から距離を取り、脇差しの「破魔の剣」に手を掛けダダ漏れしている殺気の方向へと上半身をひねった



·········

いない―――――、何処に行···っ

こいつぁ〜美味そうな女がいるじゃねぇか――――――――!!!!

っっっ!!!!!!!!
ぐぇへへへへ〜〜〜〜
ッッ何処から出て―――――っ
『いろは、私を構えろ』
っ!!!!
「モガ」さんっ?!



突然聞こえてきたこのイケボは、今では相棒となっている『破魔の剣』の「モガ」さんだ


モガさんは、この剣の付喪神なので仲良くなるためにも愛称で呼ぶことにしている


まぁ、御本人もちょっと嬉しいみたいだし結果オーライかな



剣の柄を掴むと、頭の中にモガさんの声が聞こえてくる仕組みになっている···

彼はとても紳士的で冷静沈着な付喪神なのだけれど···


相変わらず激しい動きを強いられるため、いまだに切羽詰まった時しか柄を握らないようにしていた



『いろは、ようやく私を握ったのか?さっさと私の動きに合わせる準備をしろ』
いや····、それが難しいのだけれど····
····フン!

そんなもんがこの俺様に通用するとでも思ってんのかぁ〜?!あぁっ?!

············



この鬼はご覧の通り「赤鬼」だ


人が赤鬼になるのは「貪欲、欲望、渇望」が強いからである―――――

まぁ、見るからに欲が強そうで自己中そうだ


それになんか笑い方とか下品だし髪はボサボサだし、もっと爽やかな鬼っていないのかしら?



············
キサマ···、今 俺様のことを見下しただろう····!!
えっ?!ギクッ

そんな事思っていないわよ!!

それよりよく喋るわね!

ど、どいつもこいつも――――っ 

ギリギリッッ

だから殺してやったんだ!!人を見下したクソ共をな······っ!!!!
っ!!!
あの日は最高に気分が良かったぜ···!!!もう二度とこの俺様を見下す奴らはいないんだからな!!!
その後も、俺様の言う事を聞かないクズや反抗する奴らは容赦なく滅多刺しだ!!!
この俺様が一番なんだよ!!!!

逆らう奴らは殺すだけだ!!!

············
成る程ね···、夜叉丸はよくこんな事をずっと続けて来られたものだと思っていたけれど·····
···アナタの様な鬼ばかりだからこそ野放しには出来ないと思っていたのかもしれないわ



もちろん夜叉丸の場合は、人に戻る為にせざるを得ない事だったのだろうけど―――――



鬼になってからも、どれ程の数の人達を喰らって来たのかはアナタを見ていれば何となく分かる
それがどうした!!!!!
·····そんなアナタを人に戻しても良いのか···私には分からないけれど――――――
きっとその後は、運命の導きが必ずあるはずよ!
っっっ何をワケの分からねえ事をほざいてやがるッッこの小娘がっ!!!!
キサマもアイツらと同じように髪を毟って目玉をくり抜いてその顔面から喰らってやるぜぇ!!!



そう怒号を飛ばした赤鬼は、私へ向かって飛びかかって来た―――――



『いろは、あの鬼の動きを止めるぞ』
···うん!!



モガさんがそう言うと、勢いをつけて前かがみに飛びかかって来た赤鬼を避ける訳でもなく、むしろ赤鬼の顔面に剣を斬り込ませようと私の身体を捻るように剣を横薙ぎに払ったのである

(それはまさにカウンターってやつ··?!)



ヒッ!!!



やはりモガさんの動きは激しくて合わせに行くのがかなり難しい!


でも横薙ぎに払われた剣は、一瞬うろたえた赤鬼の顔の一部を削り取っていた



ぐぁぁぁっ!!
『ちっ、意外と動きの良い鬼だ。まさか私の攻撃をギリギリでかわすとは』
っっ!

でも、もしかして今がチャンス?!

『その通りだいろは。次は奴を跪かせるぞ』



モガさんは、すかさず次の攻撃に入る準備をしろと私に言って聞かせた····次の瞬間――――――――



グンッッッ!!!

と、剣が豪速で赤鬼の背後へ向かったのだ···


·····剣をただひたすらに掴んで離さないだけの私は空でも飛んでいるんじゃないかと思える程の体感で、気付くと赤鬼の背後から赤鬼のアキレス腱を掻っ捌いていた····



フルフル····ッ
(···だから柄を握りたくない)
ギィャアアアアアア!!!!!
っっ!!!
『ほら、動きは止めたし跪かせたぞ。サッサと復元させろ』
う、うん···



いや、モガさんは本当は紳士的で優しい付喪神なんだよ!

戦いになると鬼より鬼だけども····



ウガガガガガ――――――
··········
·······残息奄々(ざんそくえんえん)たるこの者を黄泉返らせ給う――――



いつものように私の両手からは蒼白の光の集合体が発生し、赤鬼の頭上へと移動すると小さく爆ぜた――――






のだが―――――――――



····え?



ま、まって―――――

今一体何が····?


赤鬼が人に戻っていない····

そんな事がこれまでにあっただろうか?


いや···1度も復元出来なかった事などなかった――――


そ、それに····

この····人は····誰?


いつからこの辺に居たのだろう···

気配に全然気が付かなかった――――――――




···女性が一人で鬼と対峙するのはどうかと思いますが···
っ!!
い、いや···

私は――――――

·············
事情はどうあれ····

後は私にお任せください



そう、私に説教をしたそうな彼は身なりからすると、きっと修行僧か何かだろう···

少しだけ仕方なさそうに赤鬼の前に立ちはだかった――――――



ハァッハア―――――ッ

な、なんだキサマはっ!!!!?

··············
····阿哩(アリ)、 那哩(ナリ)、 泄那哩(トナリ)、 阿那盧(アナロ)、 那履(ナビ)、 拘那履(クナビ)――――――
世尊よ、この陀羅尼神呪をもってこの経を説くものを守り、悪を呪わんとする
·············!!!
だ、陀羅尼神呪····?!



その美しくも聞き慣れない呪文に、私は何故か心を奪われていた


この人は······一体···何者なのだろう―――――――





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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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