第196話「カイトの本心」

文字数 3,590文字






           ―PM20時30分―


                 《桐生家―客室》

··············
·············
····い、いろは?
············
············

(··真顔だ···)

···あ、あの―――――

何か怒ってる····か?

·····いや、別に
··········!!

(絶対に怒ってる···!)

············
(····何故だ?心当たりがない)
そろそろ鬼狩りに出掛けなきゃならないし、今日は私一人でも大丈夫だからカイトは凪さんの話し相手でもしてあげてて
·············
····は?!
···な、なんでっ?!
凪さん、客室に一人だし何かあったら危ないじゃない
·····桐生家に居て何か起きるとは思えないのだが―――――
····それに

いろはを一人で鬼狩りに行かせる方が、俺は生きた心地がしない

···········
······?!
····いろは、どうしたんだ?

俺が何かしたのなら謝るから一人で行くなんて言うな

·············
いろはの身体はもう不死じゃなくなっている筈だ―――――
※現在、三屍蠱がいろはの中で必死に不老不死の寿命を吸いまくっている
今までと同じ様に復元するならリスクしかない。そうだと分かっていて一人で行かせると思うのか?
···········
·····分かってる
·····ホッ
····だったら一緒に―――――
···行かない―――――···
··············
なんで?!
····モガさんの封印を解いて
····だから何でだよ?!
···········
···········ハァ
·······
····氷の魔王のくせに

ボソッ

·············
····なんて?
·····別に
············
····いろは、拗ねた顔も可愛いし、何やらヤキモチを妬いているような素振りも実はかなり嬉しいけど――――
っ?!
だからって、危険だと分かっている場所に一人で行かせる気はないよ?
···········
·····まぁ、いろはは昔から今に至るまで自分の気持ちを押し通した事ってなかったから――――
やっと甘えてくれてるのかなって、むしろ嬉しいくらいだけど
っ!!!



ず、ズルい――――――

何で···いつからこんなに大人な対応が出来るように····


····あ、そうか大人の対応――――


もしかして私のカイトに対する気持ちが大きくなりすぎて、嫉妬心に変わってしまったのかも···

あの時の、凪さんへのカイトの対応が大人の対応だったと考えると···


····私はいつまで経っても成長しない

こんなに長く生きているのに情けない


昔の記憶があるだけで、カイトは実質29年しか生きていないというのに――――――


そう考えたら急に恥ずかしくなってしまった



····ご、ごめん···なさい
っ!!
····どうした?

今度は素直になるのか?

·············
ちょっと頭冷やしてくるね―――
····!
いろは!

外に行くなら俺も行く

····でも

一人になりたいなって――――

········だったら

俺の目の届く所にいてくれ

····どうして?
····俺が不安だから
····分かった
·············



トントン―――――



っ?!
(···誰だ?)
·····はい
今晩は····

夜分遅くにスミマセン

(この声は····、凪さんか―――)
(···いろはが外に行っているタイミングで中に入れるのはマズいか···?)
····少しお話をさせて頂きたいのですが――――
···········
····今開けます
ガラ――――――
····今晩は
今晩は···
あれ···、いろは様は――――?
あ···、いま少しだけ外の風に当たりに行っています
そ、そうでしたか·····
どうかしましたか?
あっ、いえ····

いろは様···、すこし調子が悪そうだったので様子を伺いに――――

····ご心配頂き有難うございます。

ですが、いろはの事は私が見ているので大丈夫ですよ

····あっ

す、スミマセン!余計なお節介でしたね···!

············
凪さんと玄宥様は、桐生家へ何をしに来られたのですか?
············
···まぁ、確かに貴方がたの血筋には桐生家も含まれているので、遠い親戚に当たるとは思うのですが―――
えっ?!

どうしてその事を―――――?

以前、私の親しい友人のお祖父様が桐生家の方だったのを覚えております
······そ、それって
····ええ、伊吹逢馬です
っ!!!

やっぱり―――――

····伊吹逢馬は私の曾祖父にあたる方なんです
····なるほど、オーマが曾祖父とは
やはり····、カイト様は本当に昔の記憶があるのですね
···ええ、まぁ···そうですね
····と、言う事は―――――
······?
カイト様は、鬼狩りの鬼の時から···いろは様の事を――――?
··············
なるほどなるほど!

そうなんですね〜!いいですね〜!

いや···まぁ···

何て言うか―――――

···当時の私はどうしようもないクズでしたので、己の気持ちを相手に伝える事など考えられませんでした
····それって、前世でのお二人は全くそんな関係では無かったと言う事ですか?!
······まぁ、700年以上も生きてしまうと···色んなモノを拗らせてしまうようでして―――
っ?!

(700年?!)

····最期の最期にやっと、ほんの少しだけ伝えた感じでしょうか?
····最期って―――
····私が――――――
···いや、私の所為でいろはが一人で鬼狩りをする羽目になり···
150年もの間····

身も心も傷付つかなければならなくなったあの日―――――

···········
····孔雀明王様に、私が輪廻転生させて頂いた日です―――――
っ!!!
····まさかあんな結末になるなどとは想像もしていなかった―――――
私は····、いろはを巻き込んでしまったことを痛烈に後悔したのです
····いろは様の事が心配で仕方がなかったのですね
当然です!!

いろはが鬼と戦うなど···考えただけでもゾッとする―――

···········
···しかし

いろはの意思は固く、絶対に引こうとはしませんでした

····私が輪廻転生をした後に、自分を見つけに来て欲しいと――――
······優しさが溢れ出ている、いろは様らしいですね
·····あぁ

そうですね····

············
····しかし、私に前世の記憶が戻る保証など無く、いろはもそんな事は分かっていた筈です―――――
····本当に、いろは様はカイト様を信じているのだと思います
···今回お話を聞かせて頂いて、お二人は間違いなく運命の相手なのだと確信しました――――
·····そうでしょうか
勿論ですよ!
今世での私は、あまりにもいろはに執着しています―――――
っ!!
····とは言え、そんな自分の思いを抑える事すらままならず――――
····いつか愛想を尽かされ、嫌われてしまうのでは無いかと····不安で仕方がないのです
············
惚気けているのですか?
················
えっ?!

どこが?!

フフッ!

いらない心配でしょうけど、そう思って接されるのは良い事だと思います

······ぇ
·········
·····ところで
····いろは様がお戻りになっていらっしゃいますが···
····!!?
··············
·····あ
·····い、今の話―――――

もしかして聞いてた?

········ウン
··········

(いろは様の前だと敬語じゃなくなるのですね〜!)

·····き、聞かなかった事にして欲しいのだが···
··········
····うん

分かった―――――

············
さて!

それでは私は自室へ戻りますね!

····あ、何か···スミマセン
いえいえ!

素晴らしいお話が聞けて何よりでしたよ?

···········
····もし、宜しければ――――

明日···桐生蒼羽の話を聞かせて頂けないでしょうか·····

っ!!?
私が此処へ来た理由ですので····
っ!
·····分かりました
っ!!

有難うございます!


····それではお休みなさい―――

と言って、凪さんは部屋から出て行った



···その後

この部屋には誰も居ないのではないかと言うほどの静寂が暫く続いていた――――――



·············
············
····いろは
ゴメンね···カイト
っ!!?
·····気持ち良い風に当たって、すっかりと頭が冷えたからもう大丈夫だよ
·······え
···じゃあ、これから一緒に鬼狩りに行く?
···········
··········

(あれ?)

行かん!
なっ、何で?!





····もう少し

いろはにヤキモチを妬いていて欲しかったそうな―――――






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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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