第146話「咫尺天涯(しせきてんがい)」

文字数 2,131文字






         《春の闇》

·····っく   ハァハァッ

(本来ならばこんな力の使い方などしたくはないが···)

(クソッ 集中出来ん··!)



玄宥に想い人の話をされてから廃炉は相当焦っていた――――


鬼族を裏切ることは出来ないが、今すぐにでも彼女の元へ駆け付けたい気持ちは増すばかりである


陰陽師とは本来占いが得意な分野である事を廃炉は知っているが故に信じざるを得なかったのだ



廃炉···
動揺しているようだな···フフ

普段は冷静で賢い奴だが、今回の力配分は確実にやらかしている

まぁ、でも彼女の事は事実だし出来れば相思相愛になって貰いたいのは仏心から言えば当然だろ
··········
穏便に済ませられると良いのだか··
···取り敢えず、今はこの状況をどう突破するか――――
相手が隕石となると聖結界は通用しない··、騰蛇は十二天将の中でも剛性があるため暫くは大丈夫だろうが隕石の数によるな···
隕石が収まるまで騰蛇が保てば、接近戦に持ち込んで廃炉をタコ殴りにすることは可能か··
※タコ殴り=穏便だと思っている↑
ハァハァ···ッ

あの赤い大蛇···咄嗟に十二天将を出したのか――――

さすがは陰陽頭ッス···!

しかし現在は仏になったと言っていた。仏は我々では敵う筈もない六神通を持つと言われている····!

ハァハァ――――

いくらゲンユーとは言え、仏と戦うなど無謀だと言う事は分かっている

しかし、我らとて誇りはある··!

負けると分かっているからと逃げ出したりはしないッス!!!



そうして暫くの間、廃炉の眼帝降(メテオ)は隕石を降らせ続けた――――が、玄宥を囲う騰蛇は平気そうに毛づくろいならぬ、羽づくろいをしている様子だった



召喚される十二天将の能力は、召喚師の霊力に影響されるため玄宥(仏)程の力の持ち主が召喚した場合、十二天将の能力も遥かに上昇するのである



ワナワナワナ――――

な、何だろうか···あの大蛇見てるとイラッとするッス!

ホッ
流石は玄宥様だ···っ

俺が呼び出した騰蛇とは桁が違いすぎるぜ···!



オーマが廃炉と玄宥の戦いに気を取られているその時だった―――――



···夜叉丸

そろそろ時間よ

っ?!
その忌々しい結界も完璧ではないようだ
氷月·····!
地獄へ行く覚悟は出来ているのだろう?
っ!!!
···当然

地獄なんざ覚悟するまでもねえ

···そう、それは何よりだ

やっと···父上の仇が打てる

や、夜叉丸····!?
だがなぁ氷月···

悪ぃがそれは今じゃねぇんだよ

·········

イラッ

···お前は結局なんの覚悟も出来ないクズのままだ
·········
····何とでも言え

俺には俺の決めた道がある

今俺がこの場所に居る理由は、残念だがお前の為じゃねぇ
····何を
···勿論、俺が死ねない理由はずっとお前の為だったが――――
今だけは違う
········
だから何だと言うの?

お前の都合など知ったことか!

···········
(あの夜叉丸と言う鬼はカルラ様の敵···、そして私の中のもう一人の私を探しているみたい··)
(彼もきっと···もう一人の私に会いたがっているんだわ··)
(私は··、輪廻転生した自分と統合する事が出来なかった···)
(いろは··と呼ばれたもう一人の私···、彼女は私を受け入れず完全に拒否してしまった···)
(同じ魂なのに、まるで全く別人のようなこの感覚···)
(きっと··いろはも彼の事が好きなのね···。私がカルラ様を想う様に··)
っっ?!

ナズナ?!

···え?
どうしたナズナ?

何故泣いているのだ――――

カ、カルラ様····、私は今―――

泣いているのですか?

っっ!!!!?
····いや、そうか··

泣いているのは···

いろはか···
っっ!!!!
っ!!?
(何だ?今、一瞬いろはが近くにいたような感じがしたが····)
···夜叉丸、余所見をしている余裕があるようね
っ!!!
もう···逃さない····!!!!



氷月は裸足のまま夜叉丸目掛けて飛び掛かり、父の形見でもある名刀「鬼丸」を振りかざした



氷月····!!!
死んで夜叉丸―――――!!!!
夜――――っっ



その瞬間、夜叉丸は氷月との間合いをはかっていた


氷月が刀を振り下ろしたタイミングを見計らい、一歩後ろへ引いて氷月の攻撃をかわし、大勢を崩した氷月の首の後ろを掴むと勢いそのままに地面に押し付けたのだった



ドサッッ!!
グァッッ!!!
氷月···すまねぇ



氷月は地面に突っ伏したまま夜叉丸に首根っこを押さえ付けられているが、ジタバタと抗おうと暴れていた



ク、クソ―――ッ 

離···っせ!!!

オーマ!!!

氷月を縛りつけろ!

っ!!!

わ、分かった!



そうして、氷月はオーマの「張網防魔結界秘法」によって捕縛されたのだった



や、夜叉丸!!!!
そこで大人しくしていろよ氷月··
わ、私を馬鹿にするな···っ!!!
···········
お前を馬鹿にした事など一度もねえ。むしろ何でも出来るお前を尊敬すらしていたんだ
っ!!!

···黙れっっ!!!お前は嘘ばかりだ!!!

私の事など···、女など足手まといで邪魔だとしか思ってはいなかっただろうが!!!
············
すまねぇ氷月、必ずお前を人に戻してみせるから···
く――――··うぅ··
·········
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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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