第82話「開かずの踏切 真相5」
文字数 1,569文字
ーPM7時20分ー
《神境二番通り》
どういう事···？
お前が出来る訳がないと思ってる事をやるってだけだ
っ？？？
だいぶ暗くもなって来たし、そろそろ鬼が現れてもおかしくねぇ時間だぜ
では、さっさとやっちゃうです。
そう言うと真那は、着物の袖からやたらと長い数珠を取り出し、左腕に三重に巻きつけると地べたに正座をし、眼鏡を外して何かの準備を始めた。
な、何···？
真那、せめて下に何か敷かないと足が痛くなるし着物が汚れるぞ？
伊吹くん、有難う御座います。ですが問題ないのです。足は少し痛いけど。
それでは、ホノカさん···
始めさせて頂きますね。
？！
その時真那は、左手の数珠をジャラジャラと擦り祝文を唱え始めた。
ｼﾞｬﾗ ｼﾞｬﾗ ｼﾞｬﾗ ｼﾞｬﾗ
月山大権限の御前にて百日通夜をなされつつ 盲人末世迄の渡世の事を御受け下されかしと一心不乱に祈り給う 然るに百日目の夜の暁に至り、月山権現、朝日の枕神立たせ給へう··
な····、何なの？！
この人は一体なに···？
真那はイタコだよ。君が知っているかどうかは分からないが、悪いようにはしないから大丈夫。
イタコ···？！
イタコって··、神や霊を降霊するって言う···
···何処に朝日、汝盲人となり、人のため、身のため、末世の渡瀬祈ること神妙成··
っっ！！？
ｼﾞｬﾗｼﾞｬﾗｯ
即ち、四寸四方の箱一つ与ふる成 此の箱の内に十二の巻物あらん 十二の巻物智識に読みなし、学問して其書にまかせ渡瀬を送るべしと··
ぐあっ··· がぁぁｯｯ
········
真那の祝文によって苦しみ出したホノカは、それと同時に体が半透明に透けて行き、次第にその場から消えた、その時だった···
····こ··んな筈じゃなかった
っ！！！
ただ、ずっと私の側に居てくれるのだと思ってた
それなのに···、急に別れたいなんて言い出して··
つい先日、二人でデートをしたばかりだった。その時に初めてキスだってしてくれたのに
·······
タケルの突然の裏切りに私の心が追い付ける筈もなかった
信じられない。あんなに好きだと言ってくれていたタケルが他の女の所へ行こうとしている
幸せの絶頂から闇の底へ叩き付けられた様な感覚だ
私はそんなタケルを諦めきれずに引き留めようとした
·········
タケルと一緒に歩く時はいつも、手を繋いでくれていた···それなのに
あろう事かタケルは、私の手を払い除けたのだ
···その後の事はもう殆ど覚えていない
気が付いたらタケルはバラバラになってた···それでもタケルの腕だけは私の元へ戻ってきてくれたと思ったのに····
········
よく見ると薬指には不愉快なリングがはめてあった
私がその時に感じたものは、タケルをバラバラにしてしまった事よりも、この薬指のリングが許せない事だった
っ！！
遮断器の向こう側には例の女が真っ青な顔でこっちをみている。私はその女が視界に入ることが嫌で仕方が無い
裏切りのリングをはめたタケルの腕なんてただのゴミでしかない私は、タケルの腕を放って不愉快なその場から去りたかった
聞いていた話と少し違うな···
ホノカは真実を思い出した事で悪霊化し始めているかもしれない
へぇ···、悪霊が真那の中に入ったままで大丈夫なのか？
ああ··。真那の意識がある限りホノカが真那をどうこうする事は絶対に不可能だ
···で、アレをどうするつもりなんだ？
真那がホノカを外に出した時に浄霊したいんだが···、悪霊のままで浄霊してもホノカは地獄へしか向かえない
だから元に戻せるのなら戻してやりたい。そうすれば恐らく極楽国土へ向かえるはずだ
··ナルホドねぇ、何なら俺の事も人間に戻して欲しいぜ。
は··？
そうすりゃ俺は地獄行きが免れるって話だろー？
··············
そんなに哀れんだ目で俺を見るなよ
