第191話「三屍蠱(さんしこ)」

文字数 3,332文字





         ―AM9時15分― 


                《桐生家》

慧慈(えじ)、待たせたな
···いえ、構いませんよ
仕事の方は大丈夫か?
ええ···

最近は長男に任せておりますので··

そうかそうか

息子は作っておくものだよな〜

····まぁ、そうですね
··········
·····いつの時代も後継者争いは尽きんものだ―――――
···········
····そうですね

しかし···、その辺の事情で言うとうちは誰も継ぎたがりませんでしたが

そうなのか?

カイトは昔から野心の強い奴だったのだがなぁ?

····カイトが?
····カイトの前世は―――――

『鬼狩りの鬼』だ

っ!!!?
『鬼狩りの鬼』···、その名は史書で拝見したことがあります
まぁそうだろうな···、アイツはもはや伝説だった
·······
····当時、夜叉丸には随分助けられた。彼がいなければ俺達に勝ち目などなかっただろう―――――――
····カイトは、玄宥様と共に戦っていたのですか···
ああ、あいつはかなり強かったよ

·····でもそれは現在も引き継がれているようだな

·····ええ、カイトの潜在能力は幼い頃から鮮明に浮き出ていました
··········
···カイトにはそれを間違った方向へ使わせない為にも、兄弟達の中でも特に厳しく躾をする必要があったものですから···

····そのせいで私はあの子に嫌われているのでしょう

··········

親の心子知らずとは言ったものだ

···········
まぁ···とは言え、夜叉丸はそんな程度の事で誰かを嫌いになったりするような玉ではない
·········

そうだと良いのですが···

昔から夜叉丸は芯が強かった―――

他者から心を揺るがされる事などあり得ないのだ

そして、その芯の強さは紛れもなくカイトに受け継がれている―――――
まぁ···

いろはへの異常な執着は、前世での未練がタラタラ過ぎてドン引きだがな

···········
····いろはさん――――

彼女は不老不死であり『復元』能力を持つ唯一無二の存在···

····ですか
まぁ、お前たちから言わせれば『復元』された人間が何故存在するのかなど考えた事もないだろうがな
···ええ、その辺の事は史書にも載ってはいないのです··。全ては謎のままにされている――――
そりゃぁそうだろ!

いろはにもプライバシーの権限があるんだからな!

そういう問題で史書に載せてなかったんですか?
···········
····いろはは「不老不死」だ。これが何を意味するか分からない訳ではないだろう?慧慈····
···········

ええ···

いろはの不老不死が世間に知れ渡ってしまえば、彼女は解剖され研究の対象となる――――――
············
··もし··それが現実となった場合、今度こそカイトは身も心も鬼となり、人には虐殺以外の道は無くなるぞ
············
そうなれば、確実にカイトの地獄行きは免れない
·····俺は二人の幸せのみを願っている――――この出会いを破滅に導かせる訳には行かんのだ
······玄宥様
····だが、二人の決意は固い

必ずこの状況を打開する事だろう

····慧慈、二人を理解してやれ

この先あいつらがこの世界を変えていくのやもしれんぞ?

·····はい

勿論です―――――

············
よし···

それじゃあ本題に入ろうか












        ―AM9時10分―

       

                 《蔵―倉庫》

ここは―――――
ここは桐生家の蔵の一部だが、だだっ広すぎて倉庫に使っているよ
····蔵を倉庫にするとは

(桐生家ってお金もちなのね···)

ここには殆ど人の出入りが無いから、俺が使用する呪具関係の研究場所にしているんだ
えっ?!

ここで呪具···の研究を?

···そう、呪具の研究は失敗すると周りにも甚大な被害が及ぶ可能性もあるからな···こんな環境が1番安全だ
············

カイトって凄いのね···

っ!
····凄くなんかないよ

これが俺に与えられた使命だからな

っ!!
····いろはが長い年月をかけて『復元』して来たのと同じだ
っ!!
····だから、こうしてお前と共に同じ使命を課せられた事を···寧ろ嬉しく思ってるよ
··········
····そっか

有難う―――――

········
····それで

今からこの場所でやりたいことがあるんだけど···

っ!!
いいかな?
···うん

その為に此処に来たんだからね···

···········

じゃあ、ちょっとこれを見てもらえるか?

···········
··········こ、これは――――



その時····

カイトが沢山置いてある奇妙な呪具の棚の奥底からゴソゴソと取り出して来たモノ―――――――



それは······



つ····壺···だね
····そう、壺だ
····壺の蓋に封印の御札が貼ってあるけど···大丈夫なの?
···········

この壺にはヤバいのが沢山入っているからな――――

そ、そんなヤバいモノを私にどうしろと?
·············
············

なぜ黙る···

あ、いや·····

ちゃんと説明するよ――――

············

うん···

····この壺の中には沢山の蟲が詰め込まれている
··············
·····む、蟲·····?
蟲と言っても、そう呼んでいるだけで本来は百鬼の類を詰め込んでるんだけどな?
·····百鬼···

蟲的な百鬼····?

···まぁ確かに蟲の様な形の百鬼が多く入ってはいるが、本来の目的は··壺の中で共喰いをさせる事―――――
っ!!!
そして――――

勝ち残ったモノが神霊となり力を得る呪術なんだ

つまり···、これは――――俗に言う「蠱毒」ってヤツ
蠱毒·····
···聞いたことくらいはあるだろ?
····ま、まぁ

そうね···

(何か嫌な予感しかしないわ····)
···因みに

こいつは俺が旅に出る前に術を施したから、既に完成されている

··········
···まぁ、蠱毒と言っても種類は様々あるんだが、コイツはその中でもカナリの上級蠱毒だ

·············

(··上級と言われても結局は蠱毒なのよね)
···名前は「三屍蠱(さんしこ)」、コイツの得意分野は人の寿命を喰い、縮める事にある
っ!!!!!
そ、それって····
····そう、いろはは今からコイツを体内に取り入れ、共に生きていく事になる
···················
たたっ、体内に取り入れる?!

····って聞こえたんだけど気のせいかしら――――?

····いや

残念だけど··、気のせいじゃないな

サァ―――――――
····三屍蠱は俺の術を施され、俺の支配下にあるから心配する事はない
それに、この方法なら俺の年齢と共に老いていく事も可能だよ
············
いろはの不老不死が寿命を回復する前に、それ以上の寿命を喰らい続けるには神霊となった三屍蠱意外に方法は無いんだ····
·········
··········
····いろは

蠱毒を体内に取り込むのが怖いのは良く分かっている―――――

····だが

俺は――――――

····うん
っ!
····私も同じだよ
····ただ··ほんのちょっとだけ嫌だなって思ったのは····
········
···む、蟲が····

苦手で····その···

そ、それを私は···食べなくちゃいけないんでしょ?
············
あ〜···、そうか―――――

なるほど···

ご、ごめん····
···いや、謝るのは俺の方だな
三屍蠱を食べる必要はないよ

どちらかというと共存だから

っ!!
そうなんだ―――――

良かったぁ〜

·········

いや、むしろそれ以外の不安はないのか?

····え?

それ以外に何か不安になる事ってあるのかな?

····寿命を喰われるんだぞ?

もし三屍蠱が暴走したり、不老不死の能力に追い付けなかったりでもしたら―――――

·············

そんな事は···最初から心配なんてしてないよ

っ!
カイトを信じてるから
っ?!
··········
····そうか
···フフ
···それじゃあ、施術のために壺の封印を解呪する――――――
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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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