第200話「桐生蒼羽の過去③」

文字数 2,876文字




        ―AM9時55分―


           《桐生家―茶の間》

まずは先に、逢馬の父親である遊馬さんの身に起きたことを凪さんはご存知でしょうか?
········いえ
····全てを知っている訳ではありません―――――
ただ···、百鬼からの呪いを受けて、小さい頃から命を狙われ続けていたと言う事と、その呪いが実の父親が原因だったと言う事しか――――
···確かにそれは事実ですが、百鬼との契約交渉は絶対であるのに···遊馬さんは生き長らえています
っ!!
·····呪いの種類は「生け贄の烙印」。遊馬さんの肩の後ろには烙印が灼かれていました
「生け贄の烙印」の呪いを施そうなどとするのは、超級百鬼でありながら、人が苦しむ姿を見ることが大好きなゲス野郎―――――
·····ゴホン
···ゲス野郎···などと··私が言うのもなんですが、最低最悪の諸悪の根源である悪鬼のみです
·····?

(カイト様はむしろ王子様だとおもうのだけれど···?)

··········



夜叉丸····、自覚していたのね



そもそも「羅刹」とは閻魔が統括する、地獄の獄卒です
····獄卒って――――
獄卒とは、地獄へ落ちた人間が気が遠くなるほどの長い期間の刑罰を完了し、その後刑罰を与える側になる地獄の先輩の事を言うのだが····
じっ、地獄のパイセン!!
そんなに長い期間、受刑して完了したのにも関わらず改心しなかったなんて―――――
そう···、羅刹は人間だった時から相当のクズだったようだな
どれ程の悪事を働くと地獄へ落とされるのでしょう····
少なくとも、羅刹が人だった頃に行っていた悪事については数え切れない程ありますね···
····コホン

まぁ···、私が羅刹をどうこう言えた立場でもないのですが――――

·····えっ?!

(何故?!)

·····カイト
···貴方は全てを精算したからこそ孔雀明王様が輪廻転生させて下さったのでしょ?だから、もう何も感じる事はないんだよ?
っ!!!
っ?!
それに···、昔から何も悪い事なんてしていないじゃない―――――
··········
きっと生まれた時代が悪かった··

私はずっとそう思っていたけどね

·····いろは
(な、なんか良くわからないけれど相思相愛感が凄く素敵です!)
そ、それで·····

羅刹の罪状はなんだったのかしら?

·········あぁ
羅刹は地獄でも餓鬼道の獄卒なんだが、地獄道と餓鬼道では罪状が違っていて―――――
餓鬼道は常に飢えと渇きに苦しみ、貪欲と貪りに満ちた世界···他人にその苦しみを与えた者が堕ちるんだ
········

(···所謂、赤鬼に鬼化した者の行く末と同じって事か)

因みに、地獄道は罪を償う世界とされているが、そこにあるのは傷つけ殺し合うだけのまさに地獄。上下に八層重なった地下世界だ
····地獄道は、人を沢山殺した者が堕ちる所みたいね
····そうだ

俺が堕ちるはずだった地獄はまさに地獄道だったな―――――

っ?!
っ!!
···そして地獄にはもう一つあって、それが畜生道という···。これは差別の世界だ――――
輪廻転生の世界には、善悪を分別するが故に六道あるのだと言う
善の世界にも悪の世界にも上中下があり、「三善道」と「三悪道」に分けられるんだ
三悪道は、さっき話した通り地獄道、餓鬼道、畜生道。三善道は天、人、阿修羅とされている
す、凄く興味深いお話です···!
まぁ、諸説ありますが簡単に説明するとこんな感じでしょうか···
···じゃあ羅刹は人だった頃に人を殺してはいなかったのかしら?
いや····、羅刹は自らの手を汚さずに大勢の命を弄んだ諸悪の根源に変わりはない
そのクズさは餓鬼になった後も本領を発揮しているからこそ遊馬さんに悲劇が起きているんだ
········
·····でも、何故―――――

羅刹は地獄にいたのに人の世に戻ってこれたのかな··

····そう、問題はそこだ――――
以前、百鬼達がヒソヒソと話しているのを耳にした事があるのだが····
当時、地獄では大騒ぎだったと言っていた····。閻魔が大激怒して地獄が崩れかけたとかなんとか――――
じ、地獄が崩れるとか···?!
····もしかして羅刹が地獄から抜け出したから?
恐らくそうだろうな――――

獄卒とは言え、地獄から這い上がる事など許されてはいないのだから

·····地獄か

···小さい頃、地獄がどのようなものなのか興味があり···色々な本を読んでいたことを思い出しました――――

人が亡くなる時、三途の川を渡るための六文銭と···後一つだけ好きなモノを持っていけるお話があったんです
···········
····生前、とある女性が肌見放さず持ち歩いていた「鏡」、死んでもなお何かしらの理由で手放す事が出来なかったそうなのですが――――
·····鏡?
地獄へ向かうのに、唯一持って行くものが鏡ってどうなの?と思った事がありましたね·····
···そうか―――――

もしかして···

·····え?
羅刹は受刑者から鏡を奪った可能性がある
····どう言うこと?
············
地獄で鏡は···、人の世を覗く事が出来る唯一の方法――――
·····そして、羅刹はその鏡を覗きながら心に闇を抱えた人間を探していた
·······?!
····丁度その時、その鏡に映ったのは―――――
妻が病に伏せてしまい、生きる価値を失い始めていた男だった
ま、まさか――――――
····そう、妻の命が助からなければ自らも自害すらしてしまいそうな程に闇に支配されていた「桐生蒼羽」です
·······!
····格好の餌食を見つけた羅刹は最高に喜んだ事でしょう――――
で、でも·····

羅刹が桐生蒼羽を見付けたとして、自分は地獄にいるのにどうやって―――

桐生蒼羽は、覚醒前とはいえ術師に他ならない
羅刹は、鏡を通して自分の気配を送り続けたんだ
っ!!!
その気配···当時羅刹は超級百鬼だった事もあり、凄まじい気配を桐生蒼羽に放っていた
ほぼ闇に落ちていた桐生蒼羽はその気配を感じ取りると、羅刹が持ち掛けるまでもなく桐生蒼羽の方が羅刹に契約交渉を持ち掛けたんだ····
鏡を通して―――――
····桐生蒼羽はきっともう··まともな判断は出来ていなかったんだわ
····恐らくそうだろうな

当時、子ども達二人の面倒を見ることも殆どなく、ただただ妻の側にいた

そ、それじゃあ遊馬さんと舞香さんは――――?!
·····伊吹神楽には少し年の離れた弟がいたんだ
当時、大学を卒業し社会人となっていた彼が、家に帰らない父親の代わりに姉の子ども達の面倒をみていたよ
なんと―――――!
伊吹神楽の弟の名前は「伊吹悠人(いぶきはると)」後の遊馬さんの唯一の家族だ―――――
····良かった

遊馬さんの優しさは叔父様に似ているのかもしれないね

····そうだな

そしてその遺伝子は確実にオーマに受け継がれ、現在の凪さんにも繫がっている――――――

··········
·········
·····そして、ここから桐生蒼羽と羅刹の契約交渉が始まる事となったんだ――――








続く

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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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