第157話「黒鉄の事情」

文字数 2,457文字





         《春の闇》

··········
(···何なんだ?全く動く気配がねぇ)



林に紛れ込んだ夜叉丸は、一切の気配が感じられないカルラを見失う訳には行かなかった―――


しかし、勝機を見出せない状況で無闇に手を出すのは得策ではない


木の上で機会を伺うしかなかったが···


カルラは夜叉丸を探すどころか一切微動だにしなかった








その時――――――

··········

馬鹿馬鹿しい―――――


こちらを向くわけでも無くカルラは独り言の様に呟いた


っ!?
それで隠れているつもりなのか?


いい加減イラついて来たカルラは、手に持っている夜叉丸の刀をゆっくりと振り上げた





次の瞬間――――――


っっっ!!!!??


夜叉丸が身を潜めていた木々達は轟音と共に薙ぎ倒され、ついさっきまで鬱蒼としていたはずの林が今では見る影もなくなっていた


それにより、夜叉丸は強制的に身を晒される羽目となる


―――その上、カルラの放った斬閃の速さは肉眼で認識する事が出来ず、危うく夜叉丸もろとも斬り裂かれる所だったのである



あっぶね―――――ッ
っ!!!

夜叉丸っ!!後方だ!!恐らく君の死角になっている!!



その時叫んだのはホシ猫だった


動体視力の良さと野生の勘がカルラの気配を察知したのである



―――――――なっっ!!



ホシ猫の声に即座に反応した夜叉丸は、体勢を崩しながらも自身の血の刀で背を守るよう身構えた―――その時、


背後に激しい衝撃と、刀同士がぶつかる金属音が春の闇に響き渡ったのだった












っっっ!!!??
っ!!!!!
なん···だ今のは?!
尋常じゃねぇ衝撃音だったぜ!!
鬼狩りとカルラか―――――
鬼VS鬼かよ〜っ!
あやつは半鬼だ
同じようなもんだろがっ!!





ザワザワザワ―――――――

···········!
つーか、最強バトルが始まったんなら見学しに行かねーとな!!
まぁ、確かにわしもそろそろオーマの元へ行きたいと思っていた所···なのだがな―――――
··········
囲われているぞ····
····フン!

たかが鬼の下っ端どもじゃねぇか!!!怖気付いたのかレイっ?!

下っ端とは言え、この数を瞬間消滅させるのは容易ではないぞ



春の闇の桜の木の影には、無数の鬼たちが身を潜めてこちらを伺っていた


今にも飛び掛かって来そうな荒い息遣いは、早く人が喰いたくて堪らないのだろう



いくら何でも、この数は無理だぜ
黒鉄···

援護を頼みたいんだが

·······ウーヌ
····何だよ

その感じ···

オーマの援護はすんのに俺の援護は嫌なのか?
····嫌、と言うかのう··
···わしにも色々と事情があるのだ
だから、その事情って何だよ?!

さっさとしねぇと一斉に飛び掛かって来るぞ?!

一人でも何とかなるだろお前なら

(天眼通もあるし)

ならねぇから頼んでんだろ!
····しつこいのう

わしはな―――――

何だよ·····
現在モヨオシテおるのだ
·············
は?
いや、これは実に深刻な問題なのだ。わしはトイレに行きたい
············
··············

猫だろーがっっ

っっそのっ辺でしろよ!!!!
フン!何を言ってる!

わしは猫又の黒鉄さんだぞ!

その辺でなど出来るか!!
つーか!!

鬼の世にトイレなんかねーだろ!

···········

生きるって大変だな

だから、それを探しに行くからお前の援護は無理なのだ!

···············

マジで最低だ――――
最低なものか

天眼通を貸して貰えているだけでも有り難く思え



黒鉄はそう言うと、颯爽と走り去ってしまった



··············
エビ····

俺の遺言を聞いとけよ

何で死ぬ前提なんだよ!!

そんな弱くねえだろお前は!!

いや···、今の俺は枯渇寸前だ
········うん

きっと大丈夫だぜ!!!俺がいる!

····クソ

黒鉄覚えてろよ···!!



そして、黒鉄が去り···


レイが一人になったのを見計らったかのように、身を潜めていた鬼達が一斉に飛び出した――――!



来るぞレイ!!!

派手に暴れてやるぜっ!!!

ス――――――――
前方に5体、後方に6体、左右から4、5、6、7···体、5秒後に上から3体が降ってくる―――――



周りを確認するわけでもなく、そう呟いたレイは刀(エビ)を鞘にしまった後、鯉口を切り、姿勢を低く刀の柄に手をかけた


そのとき静かな風が何処からともなく吹き始め、散り続ける桜の花びらがレイの周りで渦を巻く―――――



「抜刀術!  疾風雲耀(しっぷううんよう)」



それは一瞬の出来事だった――――



刀身が鞘から抜けた刹那、右手一本で真一文字に払うように一閃


そのまま上から来る鬼へ向けて斬り上げ、両手で持ち直して、斬り下ろす抜刀術だ


初め静かに抜かれた刀(エビ)は、急加速し、最後は疾風のごとき速さで敵を切り付ける技である



一斉に襲いかかって行った鬼達は、まるで時間が止まったかのように一瞬動きを止め、その直後、バラバラに斬り刻まれた肉片は血飛沫と共に地面に降り注ぐ事となった―――――



よし!!いいぞレイっ!!!

これだけバラバラにすれば消滅させるのも簡単だぜ!!!

···········



レイの放った剣技「抜刀術 疾風雲耀」(ばっとうじゅつ しっぷううんよう)は一之太刀を疑わない、一刀に全てを掛ける剣技であるため威力は相当なものである


その上、刀(エビ)には梵字が刻まれている為、死にきれない鬼の場合には直後に来る地獄の苦しみの方が苛烈(かれつ)だ


威力の高い剣技は外しやすいデメリットがあるが、今のレイには黒鉄の「天眼通」があるため鬼達の行動を先読みする事が出来、威力を最大限に引き出すことが可能だった



レイっ!!再生する前に消滅させるぞ!!!
あぁ··!



そう返事をすると、レイは両手で印を組む―――――



「孔雀明王印」!
唵(おん)!

縛曰羅(ばさら)庾駄(ゆた)鑠吃羅也(ばきらや)莎訶(そばか)!!



レイが真言を唱えたその時―――――




レイを中心とした位置から、足元に結界円陣が急速に広がり、さらに領域を広げていく結界は半径5キロ程度まで達していた



「四魔降伏孔雀明王招来法」!!









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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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