第213話「決着」

文字数 3,333文字






           ―AM1時15分―


                 《冥界の穴》

よし、闇淤加美―――――

冥界へ繫がっているこの穴···、この地を呪い、お前の支配下にするんだ

············
············

ハラハラ

····カイト

この様な腐った地を支配したからとて、私に何か利はあるのか?

·············
えっ
り····、利?!

何で?!

···········
····大丈夫かしら
····今迄そんな事一言も言ったこと無かったじゃないか―――――
なんで急に·····
····カイト

お前は順風満帆な人生で実に羨ましい限りだ――――

···········

(順風満帆···?俺が?)

·············

一体どうしたんだ?何か不満があるのか?(この期に及んで)

私は元々高貴な神だ―――――

こんな腐れ切った土地など欲しくもない

私にはもっと私に相応しいモノがある筈なのだ
··············
(···前からこんなに我儘だったか?)
(···て言うか、時間がない。いろはの寿命をそんなに飛ばさせる訳にはいかないぞ)
ならば、闇淤加美―――――

お前に相応しいモノとは何だ

そうだな―――――――
例えば······

カイト、お前が大切に想っている不老不死の少女なんか相応しい

··············??
··何だか厄介な話になっておらんか?
······は?
····なんて言ったんだ?

俺の聞き間違いか?

····不老不死―――――

これは奇跡のような存在だ。それをお前は普通の人間と同じ扱いをしている

·······闇淤加美

何か勘違いをしているようだが―――――――

···········
····彼女の様な高貴な存在は私と共に在る事が正しい
黙れっ!!

貴様が高貴な存在だと?!闇に落ち、全てを呪い、今や見る影もない祟り神の分際でほざくなよ?!

っ!!
····お前、あの日俺があの地へ赴かなかったら永遠に呪いに身を焼かれながら何れ闇と同化する運命だった
その場から動けないお前を、俺の支配下に置くことで救ってやったと言うのに···その言いぐさか····!
···········
············
うーむん

····くらおかみはカイトが羨ましくて仕方が無いのじゃのぅ

(元々、神様だった誇りやら尊厳やらがそのような思いにさせるのやもしれんのぅ····)
····でも、カイトの人生が順風満帆だなんて――――



カイトは生まれた時から、沢山の決められた運命にがんじがらめにされていた筈だ―――――

夜叉丸の記憶と力を受け継ぎ、さらには強大な能力を上乗せられて、幼い頃から厳しく躾けらた····

そこに本人の意思なんて一切関係無い


そして、それは私の事もそうだ···

過去に囚われて好きな人すら自由に選べなかっただろう


あの日、私は夜叉丸にとても酷な約束をさせていたのだと理解した

――――何よりも···カイトの人生を、がんじがらめで不自由な囚われだらけの人生にしてしまったのは私なのだから――――



·····カイト
いろはは――――

····いろはだけは何を犠牲にしても手放す事は無い

····不老不死だから何だ

いろはは元々普通の人間の女の子だ

············
········
·····だが、だからとお前が何かを望む事を俺は否定したりはしない――――
いろはだけは譲れないが、それ以外で俺がしてやれることは何でもしてやる
···········
·····闇淤加美

お前は何を望む?

··········
···ネガイゴト

言えば叶えてくれるんか···

····え、えっ?!
三屍蠱さんの願いは極力私が叶えますっ!頑張りますから!

···ふぉっふぉっ

優しい人子じゃぁ

············
····ならば
············
私に人としての時間を与えろ
······人、としての時間?
そうだ―――――

····人として自由に沢山の地を歩きたい。人々の思いに触れてみたい

っ!!!!
っ!!!
····かつて神だった頃の···、人々を愛してやまなかった日々を思い出したいのだ――――――
·········
······フッ
何だよ····、そんな簡単な事で良いのか?
っ!!!
·····まさか、出来ると言うのか
当然!

俺を誰だと思ってんだ?そんなもんヨユーでやってやる!!

だから―――――

ちゃっちゃとその忌々しい穴に呪いをかけてくれ

····分かった
あ、因みに―――――

今回の案件を無事完了させられたら、直ぐにでも人と同じにしてやるよ!そしてお前が好きだった日本酒も御馳走してや―――――――――

直ぐに終わらせるぞ
っっ!!!!
なんか····、良く分からないけど和解出来たみたいで良かった!
····神様とは腐っても神様なんじゃなぁ
どう言う意味ですか?
そのままの意味じゃよ!
ㇲ―――――――――――
·····南無喝囉 怛那 哆羅夜耶 南無阿唎耶 婆盧羯帝 爍鉗囉耶 菩提薩埵婆耶 摩訶薩埵婆耶 摩訶迦盧尼迦耶
唵 薩皤囉罰曳 數怛那怛寫

南無悉吉利埵伊蒙 阿唎耶婆盧吉帝 室佛囉楞馱婆

っ!!?
さ、三屍蠱さん

クラオカミさんが今唱えているのは御経ですか?

····じゃのぅ

あやつはカイトの宗派の世尊ではないが、あれは恐らく「大悲心陀羅尼」――――――

陀羅尼経典じゃろうな
··········

(良く分からないけど、御経なのね)

····ほんに呪文の如くじゃ

南無那囉謹墀 醯唎摩訶皤哷 沙咩薩婆 阿他豆輸朋  阿遊孕 薩婆薩哷 那摩婆伽 摩罰特豆 怛姪他

ピタ――――――
我が名に於いて――――

この地に呪いを掛け給う····今後一切この地は我が支配下に置かれ、何人たりとも手出しは不可能とする

「呪烙印―拷血」
っっ!!!



その時、クラオカミさんは冥界の穴を覆うように両手を添えた、その時だった――――――


お腹の底に響くほどの唸るような地鳴りが始まったかと思うと、ここの土地一体(櫻井家が作った結界よりも遥かに広大な範囲)が、闇の如く真っ黒なオーラに囲われたのだった


それはもはや櫻井家が施した結界の光など簡単に遮り、微かな光さえも通さないほどの完全なる闇だ



いやはや、こりゃほんに凄まじい力じゃのぅ···、祟り神とは言え元は高貴なる神様の本領発揮じゃ
···三屍蠱さん

冥界の穴が――――――――

うぬん

この地鳴りは地形すらを変えてしまっている音じゃ

ちっ、地形を?!
····恐らく、鬼門自体を抹消するつもりなのじゃろぅなぁ
まぁ早い話が··、この腐った地を深い闇に沈めて冥界の穴の入口を闇と一体化させてから、新しい土地にするために地形を変えているんだ
わゎっ!!

カイトっ!いつの間に····っ

いろは、援護ありがとうな
····うん!
しっかし良くもまぁ、こんな右も左も真っ暗な中、こうしていろはの元へ戻って来れたものじゃな
っ!!!
····そんなの簡単だ
えっ?!
その為にお前達の周りの結界に祝福の光を付与しておいたんだから
祝福の光って····?
····この結界は、いろはを守る為に世尊から少しだけ御慈悲を頂いて、それを祝福と言う形で施してあるんだ
····世尊
カイトの宗派のお釈迦様じゃよ
結界に祝福を付与すれば、いろはも三屍蠱も、俺がいない間に傷付いたとしても癒しの力が働くようになってるから、俺としても安心だ
····わ、我の事まで··?!

キュン

····そりゃまぁ、いろはと一体化しているようなもんだしな
そっか···、それで光すら吸収してしまうほどの闇にも負けずに光輝いていたのね····!
お釈迦様の力って本当に凄いわ!
当然だ!

なんたって俺達の世尊だからな!

·········っ!
カイト―――――

周りを見てみろ

っ!!
っ!!!
わぁ····っ
さっきまでの闇が嘘のように光り輝いているわ!
よし!

終わったようだな―――――――

ご苦労さん、闇淤加美···!
····こんなもの

私にとっては容易い事だ

·····今後、この地は私の支配下にあるが····、私を支配しているのはカイトだからな――――
お前が管理しろ
······えっ
そりゃまぁ、そうなるじゃろ
い、いや····

俺は別に地主になりたい訳じゃ――――――







·······だったら、丁度良い人物を紹介してあげようかい?
っっ!!!!
っっっ!!!!!







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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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