第210話「怨霊の巣窟」
文字数 3,325文字
―PM9時30分―
《立ち入り禁止区域》
そうか····
そう言えば伊吹さんもそうだった
まだ出会ったばかりの頃、彼は仕事の依頼者である男性が鬼化したにも関わらず、殺す事を最後まで躊躇っていた――――――――
自分の命だって危うかったのに···
···あの時は結局、夜叉丸が駆け付けて消滅させたんだよね···
···玄宥様もそう言われて見ればそうね
とても優しくて慈悲深い方だからこそ、孔雀明王様とも親しいみたいだし
櫻井家が、百鬼すらも救う事で百鬼の力を借りていたとは――――
····もう、本っ当にどこまで可愛いらしい人なんだっ
年齢なんて気にして無いって言いながら、やっぱり一緒に年を取りたいんだね――――――
―PM10時05分―
《立ち入り禁止区域内》
····何だろう、さっきから耳が痛い
怨霊の声なのか騒がしくて仕方がないのだ――――
大勢が一気に叫んでいるかのよう···
でも一つ一つの声を聞き取ることは出来ない
それはとてつもなく煩くて耳を塞ぎたくなる程だった
カイトは何とも無いのだろうか?
と、その時だった―――――
急にカイトの顔がボヤケて見えて···
焦点が合わなくなった
カイト―――――――、じゃない··
や、しゃまる······?
な、何なのこれは――――
夜叉丸が目の前にいる
それに····、私の心配よりも自分の心配をした方が良いんじゃないかってくらい汗をかいてるわ····
一体どういう状況なの···?!
そう言って、ポケットからハンカチを取り出し、夜叉丸の汗を拭おうとした時だった―――――
え····?
夜叉丸の汗を拭おうとした時、何故か夜叉丸は私の腕を掴んだ
ていうか···、あれ?
鬼化···しているの?
何故?
いつのまに?
でも···、相変わらず辛そうな表情は変わっていない―――――
や、夜叉丸が·····
こんなに優しい声で囁いてくれるだなんてあり得ない――――――
カイト····、カイト·····?
確かにこの優しさは夜叉丸じゃなかった気がする···
そうだ―――――
いつも優しくて、私のことばかり優先して自分を蔑ろにするような人····
それが、私の生きる意味になった人だ