第209話「二ツ神」

文字数 2,967文字





         ―PM8時30分―


             《二ツ神駅周辺》

···すっかり遅くなってしまったな
ごめん···

私がいつまでもベッドから起き上がれなかったから···

··········
···謝る必要はないよ

夜通し復元していたら疲れるのは当然だろう?

····ぅ

でも―――――

····じゃあ、少し体力回復を早める為に三屍蠱に寿命調整をしてもらうか
えっ?!

そんな事も出来るの?!

ああ――――

三屍蠱はかなり有能なヤツだからな

··········

(そんな三屍蠱さんを支配するカイトは本当に凄い術者なんだろうな···)

さて――――
ここから数キロ先に····

怪しさ満点オーラだだ漏れの場所があるようだぞ

····えっ

ここから見えるの?

このペデストリアンデッキは少し高い位置にあるから街が一望出来るだろ?
うん

相変わらず夜景もキレイだよね

そうだな···

久々に来たが、あまり変わっていない

··········

でも、黒崎さんのお宅は··お店と一緒に移転しちゃったみたいなんだよね

·······そうか

例の場所の影響を受けたんだろうな

駅周辺で、立地条件も良くて客入りも良かったのに残念だ····
···········



····意外にも、カイトは少しだけ懐かしそうに目を細めて街を見下ろしていた



いや、それもそのはず―――――

ここの二ツ神は、私が夜叉丸とホシ猫さんと出会った時に、ホシ猫さんの旧友である黒鉄さんの飼い主の「黒崎さん」が住んでいた場所であり、私達が散々お世話になっていた思い出の場所なのだから―――――


夜叉丸の記憶をそのまま引き継いでいるカイトからすれば懐かしい思いにかられるのも当然だろう



····ここに黒鉄さんがいないのなら、まだまだホシ猫さんとは会えないのね
·············
····そう焦る必要もないさ

移転先は旅をしながら探すことも出来るし、先ずはここを何とか解決する必要がある―――――

····一番はいろはの為にな
····うん
有難う、カイト
······おう
···それじゃあ行こうか










        ―PM8時55分―


         《立ち入り禁止区域》

·············
···········
酷い有り様だ――――――
······うぅ
っ?!
いろは、大丈夫か?
····う、うん

少しだけ···瘴気に当てられそう

っ!
·····三屍蠱

出て来い

っ!



カイトが私に向かってそう言った矢先――――



······ぬぅ

どうした

····さ、三屍蠱さん
あぁ····、

いろはスマンかったのぅ

····え?
我に瘴気など微塵も感じられない故な、お前の不調に気付くのが遅くなってしもうた――――
当てられる前に障壁を作ろう
····障壁?



その時、三屍蠱さんは細くて可愛らしい手で自分のモフモフな身体をポンポンとくまなく叩きだした····


何をしているんだろうか?


そう思ったのも束の間、三屍蠱さんのモフモフがまるで布団叩きの時に出るホコリの様に私の周辺に散りばめ始めると、今度は急速に私の体に引き寄せられるかのようにモフモフが引っ付いて来たのである····


ひっつき虫(オナモミ草)のようね···



ほれ、これでもう大丈夫じゃ
あっ、あれ····

気分が良くなったような――――

我の体は瘴気を通さぬ

いろはにも少しだけお裾分けした事で障壁になるのじゃ

っ!!

三屍蠱さん有り難う御座います!

すっかり良くなったわ!
うむん
な?

三屍蠱は有能だろ?

····うん!
······ふん

小童に言われるとむず痒くなるわい

····ここでの事はまだ序の口だ

これからこの先に入らなければならないからな―――――

····何があってもいろはを守れ
わ―――かっておるわい

言われるまでも無い

宜しくお願いします三屍蠱さん!
コホ――――――

 コホ――――――



····それにしても、この場所は何故こんなにも瘴気にまみれてしまったのだろうか?

昔の事を考えると信じられない気持ちが溢れ出るばかりだ


···立ち入り禁止区域の中は沢山の建物が建っていたらしい名残がある

今は誰も近寄れない為に廃墟と化しているが、この辺は確か商店街や貸アパートなどがあったと思う――――



·····見る影もないわ
···········
····取り敢えず、この先に行くためには柵を破らなければならないが誰かが入ってしまっては大変だ
····どうするの?
···そんな事もあろうかと、俺達に調査依頼してきたカルラ様から柵の鍵を預かっている
·····じゃあ、最初のくだりは要らなかったじゃないの
まぁそう言うな

雰囲気作りのためだ

·········


余裕ね·····


あ、て言う事は―――――

ここって、カルラ様とナズナ様が働いている機関で管理しているのかな?

····管理はしているかもしれないが、瘴気で調査が出来ないと言っていたと言う事は――――――
ここを封鎖したのは恐らく陰陽師である櫻井家か·····
····で、でも櫻井家だったら封鎖じゃなくて封印すると思うのだけれど
····確かに
もしかして····

櫻井家の手にも負えなかったのか?

············
····ここには結界が張られておる
それはまさに陰陽師どもの能力じゃ

···恐らく、外に異形を出さん為じゃろうて

ああ····

結界を張り、外に出さない様にする事しか出来なかった····と言うことか

さ···、櫻井家でも手に負えない案件を私達が何とかするだなんて···
···········
···結界すらもそろそろ限界が来ている――――――
·····え
瘴気が漏れ出し、人が引き寄せられ、鬼化が無駄に進んでいる――――
····その通りだ

だからこそ陰陽師らは定期的に結界を張り直しているが――――――

っ!!!?
っっ!!!?
···········
·····くっ、黒鉄さん?!
····うむ

久しいのういろはよ

····やはり貴方の気配でしたか
ふむ····、なるほどな

コレが今世の夜叉丸か――――

ホシ猫が文句を言いたくなる気持ちも分からなくは無い
っっっ!!!



ホシ猫さん····、やっぱり黒鉄さんの所に居るんだ――――



····何ですかソレ?
いや何····

こちらの事だ―――――

·····なんとまぁ

付喪神に猫又とは····いろはもカイトも中々に恵まれておるのぅ

····ほう

蠱毒の三屍蠱か――――

····夜叉丸に騙されたのだろう?

気苦労が耐えんだろうがいろはを宜しく頼むのだ

まぁ···の··

いろはの為なら仕方あるまいて

····クッ

何だか腑に落ちん!

····黒鉄さん
····どうした、いろは
············



ホシ猫さんは――――――?



そう···言いそうになって、言葉を飲んだ


···さっきの黒鉄さんの口調から、きっとホシ猫さんは幸せに過ごしているに違い無い


またこんな危険な状況に敢えて巻き込む必要もないのだ

····カイトに言われた通り、焦って会わなくても大丈夫····


そう思わないといけない気がしていた



いろは、三屍蠱がいると言うことは···お前は現在寿命を喰われておるのだな
····え、あっ、はい···
···カイトのお陰でようやく人として死ぬことが出来そうなんです
····そうか

それは良かったな

······?



何か····、言いたそうだと思ったのは気の所為かな?



··········
·····それで、黒鉄は何をしに此処へ来られたのですか?
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登場人物紹介

名前 姫城 いろは(ひめぎいろは)

年齢 20歳

職業 大学生


都内ではあるが、県境で沿岸にある集落出身。その集落には毎年行われる豊年祭があるが今年は何故かその豊年祭にいろはが招待を受ける····

名前 姫城 花梨(ひめぎかりん)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの従姉妹

いろはのご近所に住んでいて、小さい頃から姉妹のように育ってきた。いろはにとって大切な存在。

名前 夜叉丸(やしゃまる)

年齢 不明

職業 不明


謎だらけの青年

名前 ホシ猫

年齢 不明

種類 妖怪


妖猫『仙狸(センリ)』人型バージョン

化け猫の類い。人の精気を喰らう必要があるため、死にたくても死ねない夜叉丸の側で精気を拝借している。

名前 黒鉄(くろがね) 

年齢 656歳

種類 妖怪


妖怪『猫又』の人型バージョン

巷では有名な超級百鬼。飼い主の「黒崎陵」とは600年前の記憶を共有しており、唯一無二の存在。当時の二人の事情は『百鬼夜行』に記されている。

名前 黒崎 陵(くろさきりょう)

年齢 60歳

職業 「黒猫マート」の店長


黒鉄の飼い主

24Hコンビニ「黒猫マート」の店長で、黒鉄の飼い主。迷い猫を保護し育てている。黒鉄とは600年前の記憶を共有しているため、黒鉄からは昔の名前「佐助」で呼ばれている。

名前 如月 歩夢(きさらぎあゆむ)

年齢 20歳

職業 大学生


いろはの元彼

いろはと同じ大学に通う元恋人。色々あったが結局は今でもいろはの事を引きずっている。

名前 佐伯 怜奈(さえきれな)

年齢 21歳

職業 大学生


いろはの元親友

昔はいろはと仲が良かったらしいが、いろはへの嫉妬心が強いため何かと嫌がらせをしてくる性悪女。

名前 新羅 咲哉(しんらさくや)

年齢 20歳

職業 大学生


如月 歩夢の友人

掴み所のない性格だが、何故か女の子からはモテる。たまに闇が垣間見える事があるため歩夢は少し警戒している。

名前 宮琵 曄子(きゅうびようこ)

年齢 ???

種類 妖怪


妖怪『九尾の狐』の人型バージョン

狐の姿になる事は殆んど無い。

大昔に人から命を救われている為、人を襲わず同族を食糧としている。大食間であり、その力は脅威と言われている。

名前 北条 莉桜(ほうじょうりお)

年齢 25歳

職業 図書館勤務(公務員)


温厚で優しい口調が相手に好印象を与えているが、実際は周りの事や人に興味がなく、相手がどう感じようと全く構わないタイプ。だがやっぱり優しいのでモテている。

名前 伊吹 逢馬(いぶきおうま)

年齢 24歳

職業 祓い屋&心理学者


両親が極度な霊感体質であり、自らも見事に受け継いだ為、祓い屋家業を営んでいる。大学では心理学を専攻していたのでたまに心理学者としての仕事もしつつ生計を立てている。未だに独身。

名前 十朱 真那(とあけまな)

年齢 24歳

職業 管理栄養士&イタコ


本業は管理栄養士だが、今では貴重な存在である「イタコ」の後継者。本人はイタコであることが嫌な為、実家を継ぐのを放棄して伊吹家に居候している。その代わりに逢馬の仕事を手伝わされて結局イタコをやる羽目になっている。

名前 比企 夜叉丸(ひがやしゃまる)

年齢 10歳

職業 人斬り一家


約700年前、まだ人だった頃の夜叉丸。

親に捨てられ死ぬ間際に比企家の頭首である藤治(とうじ)に拾われ、人斬りとして育て上げられる。

名前 比企 藤治(ひがとうじ)

年齢 32歳

職業 人斬り一家


約700年前、死にかけていた夜叉丸を拾って人斬りとして育て上げるオッサン。

比企家の頭首にして凄腕の剣客。

名前 比企 氷月(ひがひづき)

年齢 10歳

職業 比企家の家事全般


比企家頭首である藤治の娘。

母親は既に他界しており、比企家に住む男共の面倒や家事など全てを担っている。

名前 比企 白夜(ひがびゃくや)

年齢 25歳

職業 人斬り一家


人斬り一家のリーダー的存在。比企家に住んでおり、戦では100人斬りを達成している剣客。左目は損傷し隻眼となっている。

名前 坂本 瑠迦(さかもとるか)

年齢 24歳

職業 調理師


いろはのバイト先である、古民家カフェのマスター。最初はせっかちで強引なイメージだったが、実は優しくて空気の読める爽やかなイケメン。野菜作りが趣味で自家製野菜を店で提供している。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

年齢 不詳

職業 カルラ様の側近


鬼族の頂点であるカルラの側近。真面目で忠実な性格だが、人をおちょくった様な一面があり、いつもカルラに消されそうになっている。あだ名の由来はその性格がタマネギ部隊に似ているためだと言われている。

名前 廃炉(はいろ)

あだ名 タマネギ

etc


廃炉の人型バージョン。趣味が中々良いためイケメンになるが、その性格は変わらない。

名前 迦楼羅(かるら)

年齢 不詳

職業 鬼族の長


全ての鬼をまとめる鬼族と言う貴族の頂点。しかし自分の一族である鬼族にも殆んど興味がないため、鬼狩りに仲間を狩られても面倒くさい程度にしか思っていない。取り巻きにどやされて仕方なく鬼狩りを追い払っている。

名前 姫城 奈瑞菜(ひめぎなずな)

年齢 23歳

職業 料理人


200年程前の時代の中、カルラと出会う女料理人。見た目はとても可憐たが過去の経緯から極度の男性不信。しかし惚れっぽいため、いつも簡単に騙されてしまうようなちょと残念な女性。

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