第175話 裏トーク②

文字数 1,760文字





 廃工場の裏には、古びた倉庫があるにゃ。



 ウチはモブニャンと話をしに、この隔離(かくり)された空間へとやって来たのにゃ。



こんなところに部屋があったんですニャね~




 黒ずんだ倉庫内を見回しながらモブニャンが言う。



この倉庫には、(くれない)の妻イザベラが隠れていたのにゃ


最初にイザベラに出くわしたキンメが、相手から様々な事情を聞きだしたのにゃよ



ということは、あっしが裏切者のスパイだったことも知られちまったんじゃ……?



どうだろうにゃ。

廃工場から聞こえてくるやり取りを聞いている限り、いまのところ平気みたいだけどにゃ


スパイだとバレたのは、もうひとりの裏切者のほうにゃね



エッ!?

それってまさか、親分がとっておきの間者(かんじゃ)っていってたヤツ――!?



そうにゃよ。

ジロリ組の偵察猫(レコねこ)にゃ。

副ボスのテンダの下についていた猫にゃね



し、知らなかった……!








まぁ、下っ端になんでもかんでも教えるわけにはいかないからにゃ。

そもそもモブニャンは冷遇されてたしにゃあ


――そんなことより、大事なことがあるにゃも



ニャ?




 ウチは唐突(とうとつ)に片手を(ひらめ)かせ、モブニャンに殴りかかる。



いきなり裏パーンチ!




 ピシャリ!



 突然裏拳(うらけん)を浴びて、ビックリ顔で抗議するモブニャン。



ニャッ!?

にゃにするんですニャ!?



にゃはは!

モブニャンの気持ちを確かめるため、やむなく殴ったのにゃ


ジロリ組に戻るには、ひっぱたかれても(くじ)けない強固な意志が必要だからにゃ!



……ホントですニャ?

そう言いながら、ただジャレたかっただけなんじゃ……?



言いがかりは止めてにゃ。

優れた策士は衝動に流されないものにゃよ








 ひとまずウチは倉庫内にある頑丈そうな机の上に跳び乗る。



 いっぽうモブニャンは入り口付近で腰を低くしている。



 ウチは上ポジ、モブニャンは下ポジ。(はた)から見ても上下関係がわかりやすい構図にゃも。



話を戻すにゃ。

さっきの件だけどにゃ



はい



いまはジロリ組のみんなに知られていなくても、バレるのは時間の問題だと思うにゃ


ねこねこファイアー組の連中が暴露(ばくろ)しないとも限らないしにゃ



何かいい方法はないですニャ?



そうにゃねぇ……

やっぱりバレても大丈夫な状態に持っていくのが一番だと思うにゃよ



どうすればいいですニャ?



さっきも言ったけど、ジロリ組の裏切者に対する処罰はキビシイにゃ


おそらく、あのテンダの部下の偵察猫も追放確定だろうしにゃ



終わった……!

あっしも追放……!


挙句に路頭に迷って……餓死ッ!



そう悲観しないでにゃ。

ジロリ組のためになる行いをたくさんすれば、許してくれるかもしれないじゃにゃい



ホントですニャ!?



うにゃも。

まずはジロリ組のみんなやボスにゃんに許してもらうため、このマウティスの指示に従って働いてにゃ



やっぱりあっしは、マウティス姐さんの下僕(げぼく)になるんですね……



嫌なら、はみ出し者として生きていくにゃも?



それはそれでキツイっす……



じゃあグチグチ言わないで頑張ってにゃ


ひとまずモブニャンには、新入りの救助をお願いしたいにゃ



え、新入りの?



そうにゃ。ほかにも頼みたいことはいろいろあるけれど、新入りは負傷しているからにゃ。

急を要するのにゃ



そうだったんですね



キンメから聞いた話によると、この廃工場付近で新入りと再会したそうにゃ


けれど新入りはその後、どこかへ行ったらしくてにゃあ。

そのへんで倒れてるかもしれないのにゃよ


ウチとしては野晒(のざら)しでも構わないんだけどにゃ、放置するとボスにゃんがうるさいだろうからにゃ~


モブニャンが見つけて介抱(かいほう)してあげてにゃ



わかりましたニャ。

道端にいる新入りを見つけて、世話してやればいいんですね?



そうにゃ。

よろしく頼んだにゃよ



任せてくださいニャ―!



その顔は嘘っぽいから信用できないにゃ



エッ!?

じゃあどういう顔をすればいいんですニャ?



もっと余裕のない感じのほうが真実味が増すにゃね



え、えーっと……


任せてくださいニャ―!



う~ん……

先行き不安な感じがするけど、まぁいいにゃ


いってらっしゃいにゃも



ウ、ウニャー!




 律儀(りちぎ)にネガティブ顔のまま外へ出ていくモブニャン。



 ウチは命令に忠実なモブニャンの行動に満足しつつ、その後ろ姿を見送った。






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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