第121話 正体不明の存在
文字数 1,267文字
川のほうからヨツバちゃんの悲鳴が聞こえて、熊介さんは様子を見にいった。
ここで待機するよう命じられたボクは、ひとり草地に佇んで、ふたりの戻りを待つだけ……。
外の世界は、人のいる屋内と違ってとても暗い。
闇の中にポツンと立っていると、悪い妄想が膨らんでくる。
ぴょん!
足元で小さな虫がはねた。
今日ボスと初めて
ボクはそれを見てつい興奮を抑えきれず、手を出してしまったんだった……。
バッタの動きは、
跳んで、止まって。
跳んで、止まって。
活発そうで適度にスキがある。
猫を誘うようなその動きは、まさに魔性だ。
衝動的にジャレつきたくなる。
そう思いながらも、頭の中は誘惑だらけ。
天使と悪魔がせめぎ合っている……。
するとバッタが放物線を描いて跳びはねる。
ぴょん!
湧きあがる興奮の波。
狩猟本能を刺激され、衝動的に捕まえずにいられなくなってしまう。
成熟しきってないボクは、遊び心をくすぐる刺激にかなり弱かった。
結局、ボクはバッタの追いかけっこに熱中してしまった。
しばらくして相手を見失い、ふと集中力が切れた頃――
ハッとして辺りを見回す。
耳を澄ましてみるけれど、ふたりの声は聞こえない。
聞こえるのは夜風と、それに揺らされる草木の音ばかりだ。
でもひとりで移動するのは怖いから、毛を舐めたり顔を洗ったりして、気持ちが固まるのを待つ。
ボクはようやく重い腰を上げて行動に移った。
ゆっくりと慎重に、黒い絨毯みたいな草地を踏みながら川へ近づいていく。
川の流れる音に混じって、妙な音が聞こえたような……でも、ハッキリとはわからない。
なにせ自分の心臓のドキドキが邪魔して、本来の聴力を発揮してるとはいえない状況だ。
川に近づくにつれて、音よりも気になるモノがボクの内側に入りこんできた。
鼻を通じて明らかになったのは、異様なニオイの存在だった。
ニオイの正体がわかるにつれて、ボクの恐怖心は強まり、足が
とてもこれ以上先になど進めそうになかった。
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