第121話 正体不明の存在

文字数 1,267文字





 川のほうからヨツバちゃんの悲鳴が聞こえて、熊介さんは様子を見にいった。



 ここで待機するよう命じられたボクは、ひとり草地に佇んで、ふたりの戻りを待つだけ……。



ヨツバちゃん、大丈夫かなぁ……?




 外の世界は、人のいる屋内と違ってとても暗い。



 闇の中にポツンと立っていると、悪い妄想が膨らんでくる。



も、もしもヨツバちゃんがトラブルに巻き込まれてたら、どうしよう……




 気持ちが落ち着かなくてモゾモゾしていると――




 ぴょん!




 足元で小さな虫がはねた。



あっ、いまのは――バッタだ!




 今日ボスと初めて土手(ここ)へ来たときも、このよくはねる虫が跳んでいた。



 ボクはそれを見てつい興奮を抑えきれず、手を出してしまったんだった……。






 

 バッタの動きは、


 

 跳んで、止まって。



 跳んで、止まって。



 活発そうで適度にスキがある。



 猫を誘うようなその動きは、まさに魔性だ。



ハァ……ハァ……




 衝動的にジャレつきたくなる。



ううう……ダメだ! 

そんなことしてる場合じゃ……ないっ!


ヨツバちゃんや熊介くますけさんが戻ってきてないのに、ボクだけ遊ぶなんて……




 そう思いながらも、頭の中は誘惑だらけ。



 天使と悪魔がせめぎ合っている……。







ちょ、ちょっとくらい、いいかな……




 悪魔の囁きに抗えず、ボクは前足でちゃっちゃと虫のいる場所をつついてみた。



 するとバッタが放物線を描いて跳びはねる。




 ぴょん!




ハァァァアアアア~!




 湧きあがる興奮の波。



 狩猟本能を刺激され、衝動的に捕まえずにいられなくなってしまう。



 成熟しきってないボクは、遊び心をくすぐる刺激にかなり弱かった。



うへへへへぇー!

誰も見てないし、遊んじゃえー♪




 結局、ボクはバッタの追いかけっこに熱中してしまった。



 しばらくして相手を見失い、ふと集中力が切れた頃――



 ハッとして辺りを見回す。



あ、あれ……?


ヨツバちゃんと熊介さん、まだ戻ってこないなぁ……




 耳を澄ましてみるけれど、ふたりの声は聞こえない。



 聞こえるのは夜風と、それに揺らされる草木の音ばかりだ。



う~ん、困ったなぁ。

ちょっと怖いけど、様子を見に行ってみるべきかな……




 でもひとりで移動するのは怖いから、毛を舐めたり顔を洗ったりして、気持ちが固まるのを待つ。



こ、このままじっとしていても仕方がないし……、

川のほうへ行ってみよう




 ボクはようやく重い腰を上げて行動に移った。



 ゆっくりと慎重に、黒い絨毯みたいな草地を踏みながら川へ近づいていく。



……ん?


いま何か聞こえた気がするけど……気のせいかな?




 川の流れる音に混じって、妙な音が聞こえたような……でも、ハッキリとはわからない。



 なにせ自分の心臓のドキドキが邪魔して、本来の聴力を発揮してるとはいえない状況だ。



 川に近づくにつれて、音よりも気になるモノがボクの内側に入りこんできた。



 鼻を通じて明らかになったのは、異様なニオイの存在だった。



エッ……!?


これってまさか……!?




 ニオイの正体がわかるにつれて、ボクの恐怖心は強まり、足が(すく)んでしまった。



 とてもこれ以上先になど進めそうになかった。

























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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