第108話 対話③

文字数 1,334文字





 猫社会にもそれぞれルールがある。



 それに従えという俺の意見に返す言葉もなく、子どもたちは悔しげな表情だ。



ふにゅにゅにゅ……!


うにゅにゅにゅ……!








 それを遠巻きに見つめながら、ヨウがぽつりとつぶやく。



みんなが仲良くできたらいいのデスケドネ……



みんなが仲良く、か――。

胸にしみる言葉だぜ


俺だってできるものならそうしてぇよ


こんなケンカの強い体に生まれちまったが、元々暴れるのが好きなわけじゃねぇからな



ボスなのに、意外……


変猫(ヘンねこ)、ニャウ



なんだよ、変猫って?



普通より変わってる猫は、みんな〝変猫〟ニャウ



変猫言うな!

せめて変わり者と言えっ



面倒、ニャウ。

変猫のほうが短くて言いやすい、ニャウ



なんでもかんでも短くまとめようとするんじゃねぇよ



まぁまぁ。

短いほうが簡潔でわかりやすいコトもアリマスカラ



フン!

とにかく俺は変猫なんて呼ばれたくねぇからな!



フニャウ……




 膨れっ面のイソルダを諭すように、ヨウが柔らかい物腰で話しかける。



ボスは変わり者というか、優しくて頼りがいのある良い猫さんデスヨ


だからきっとボス自身は、みんなと争わずに仲良くできたらって思っているハズデス



ふぅん……




 メデアは品定めするような目を俺に向けた。



 それから隣のイソルダのほうへ首を振って話しかける。



とか言ってるけど、どう思う?


謎、ニャウ


言うだけ言ってみたほうがいーかな?


ウニャウ。

おねだり交渉作戦、ニャウ!




 姉弟による筒抜けの密談が終わると、姉のメデアがぎこちない笑みを浮かべながら切りだした。



ジロリ組の縄張りを無条件で半分わけてくれたら、みんなで仲良くしてもいいけど?



あぁ? 

無償でジロリ組の縄張りを半分よこせだとぉ?



みんなで仲良くするため、ニャウ



無茶苦茶なこと言いやがって


よく考えてもみろよ

オメェらが欲しいのは、縄張りじゃなく食い物だろ?



えっ!?

食べ物……!?


縄張りより食い気、ニャウ……!?








仮にねこねこファイアー組に縄張りを譲渡したところで、カオス化するのは目に見えてる


現にオメェらの組では、他者を脅かすなどして、被害者を量産してるじゃねぇか



被害者?

それってどーゆうこと?


脅かすとか……、

わけわからん、ニャウ



Umm……,

実体を知らないヨウデスネ



たとえば俺を頼ってきたヨツバは、住処を奪われ、家族を傷つけられたと言っていた


その周辺にいた猫たちも、同様の被害を受けてるって話だ



……!?


……!?



オメェらの組は、いちいちやることが荒っぽいんだよ


そのせいで、

多くの猫たちが悲惨な目に遭ってるんだからな!



う、嘘に決まってるもん!


作り話、ニャウ!



嘘じゃねぇよ。

相手の物を欲しがるより、まずは自分らの行いを見直すべきじゃねぇのか?


まぁこんな話、ガキにしても仕方ねーけどな



大丈夫デス、ボス。

子どもにも理解できるコトはたくさんアリマス



だといいけどな




 俺は苦笑いを浮かべつつ、視線を壊れたシャッターへ移した。



 ズバ抜けて強烈な闘気を感じる。



ムッ――!?


ヨウ! 

その場から離れろっ!



Whatホワット




 ヨウが疑問符を口にした直後――



 俺の視界に、殺気の塊のような存在が跳び込んできた。



子どもたちに触るなぁ!




 殺気の塊の正体は紅だった。



 かつてないほど怒気をみなぎらせ、敵のボス猫は俺の頭上に降ってこようとしていた――。























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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