第82話 待ち受けるもの⑤

文字数 1,241文字





 さらわれた新入りの妹について、秘密の情報を姉弟猫は教えてくれるというが……



感じ悪いから言いたくなくなってきた


同感、ニャウ



なんだと?




 ムッとした俺を見かねて、インテリが横から(いさ)めてくる。



ボス、ここは(こら)えてください。

貴重な情報を得る好機です



……わかってる




 そんな俺を見て、子どもたちはいい気味だと言わんばかりに目をギラギラさせだした。



 完全に獲物を狙う捕食者丸出しのまなざしだ。







あーおなかすいたなー。

おいしいモノいっぱい食べたいなー


なにか食べ物くれたら特別に教えてあげてもいい、ニャウ



ハァッ!? 

今度は物乞いかよ!



だって、ジロリ組は飽食なんでしょ?

ボスはニャオ☆チュール持ち歩いてるって噂で聞いたよ


チュールよこせ、ニャウ



笑わせんな!

俺の腹には便利な四次元ポケットはついてねぇんだよ!



さすがにあつかましいにも程がありますね




 子どもだからと大目に見ていたインテリも呆れ気味だ。



いい加減にしろ、ガキども!

早く言わないと、大人猫の怖さを思い知ることになるぜ!



ふにゃ……


暴力反対、ニャウ




 ふたりはビビッて縮こまる。



 俺が表情を普通に戻すと、子どもたちは嫌々ながらも語りだした。



さらわれた猫は、あの箱の中です


たぶん気を失ってるけど、まだ生きてる、ニャウ



箱の中にいるのかよっ!?



はい


箱詰め、ニャウ



なるほどな……


どうりであの箱のほうから〝複数〟の気配がすると思ったら、オメェらだけじゃなく、中に妹もいたからだったのか


それにしても、あんなところに妹が閉じ込められていたとは驚きだぜ



ええ、想定外でした




 俺は背後の箱へ向き直る。



 壁際に一メートル程度の古びた木製の箱が二つ並んでいる。



 二つのうち片方はボロボロで、もはや収納としての機能を失い、中も筒抜けだ。



 もう片方は全面が板に覆われていて、中を見ることはできない。



本当に妹は無事なのだな?



……大丈夫だと思う


命に別状はない、ニャウ



そうか。

無事ならよかったぜ



じゃ、あたしたちはこれで


バイ、ニャウ




 姉弟猫たちは後ろをチラチラ(うかが)いながらも、足早に去っていく。



 俺とインテリはそれを横目で見つつ、箱のそばへ近寄った。



おーい、生きてるか?




 木箱を前足でこすってみるが、反応はない。



返事はありませんね



なんとなく気配は感じるんだがなぁ。

とにかく開けるぞ



はい!




 俺は前足の爪を箱のかどにひっかけて、扉を開けにかかる。



 そもそも猫なので施錠できるはずもない。

 鍵がかかってなけりゃ、猫の器用さ次第で思うがままだ。



オラよっ




 前開きの扉は、思いのほか簡単に開いた。



 いや、簡単にひらきすぎた。



 まるで内側から押されたように――



まさか!?



ククク! 

かかったな!




 思いがけない――ってか、急すぎる展開だ。



 箱の中から、猫がいきなり跳び出てきやがった!



テメェは――!




 ねこねこファイアー組の幹部・リャク!



血祭りにしてやるぜっ!



クソ! 

罠だったかっ!




 気づいたが時すでに遅し。



 赤毛の刺客は、俺の首筋を狙って(ふところ)に跳び込んできた。





























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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