第64話 心の傷の原因・其の二

文字数 2,377文字





 このマウティスが放つ威圧感に恐れをなして、(おび)えるモブニャン。



 まぁウチは心が優しいから、それを(いた)わるようになだめてあげるにゃも。



怖がらなくていいにゃ、モブニャン


なにもスパイをしていたモブニャンを葬り去ってやろうと(たくら)んでるわけじゃにゃいも



ホ……ホントですニャ?



うにゃ。

信じてくれていいにゃ



よかったですニャ




 安堵するモブニャン。



 単純というかにゃんというか……。



 けど、その素直さは使えるにゃね。



――で、さっきの話の続きだけどにゃあ



あ、はい……



もはや自明(じめい)()だけど伝えておくにゃ


モブニャンの心の傷の原因・其の二は、彼女のヤミミンにあるにゃ



ヤミミンが!?



そうにゃ。

いまは気づかない――いや、気づかないフリをしていたいだけなのにゃ


苦い真実は心の傷を広げるからにゃ。

元来、恋は盲目のほうが楽しめるものにゃも



ふたりの想いは盲目なんかじゃ……!



にゃはは!

盲目なんかじゃない?

果たしてそうかにゃ~?



何の根拠があって、そんなことを言えるんですニャ?



たとえば彼女の行動にゃよ



行動?



うにゃ。

モブニャンがジロリ組に(もぐ)りこんでいたとはいえ、ある程度行動に自由はあったはずにゃ


随時監視カメラで見張られてるわけでもにゃいし、会おうと思えば会いに行けたはず


にもかかわらず――

一度でも、彼女が会いに来てくれたことはあったかにゃ?



うっうぅ……


……ないですニャ……



そもそもモブニャンは、何のためにスパイをやろうと決意したにゃ?



何のためにって、理由はいろいろですニャ


中でも、一度ナメられたらずっとナメられっぱなしの猫ライフに終止符を打ちたい、って思いが強かったですニャ


野良猫社会は実力主義ですし、相手次第で能のない猫はしいたげられることもしばしばですからニャ



つまり底辺から這い上がりたかったわけにゃね



そうですニャ。

でも幸い、こんなあっしにも彼女ができたんですニャ!



それがヤミミンにゃ?



はい。

彼女、とてもいいニオイがして、一緒にいるだけで気分がとろ~んとしますのニャ



ただ単に、発情期のアレに誘惑されたのにゃね



そんな身もフタもない言い方しないでくださいニャ。

あっしの中では、純愛なんですニャ!



いまだに彼女への想いを引きずってるくらいだからにゃ。

モブニャンは一途いちずなオス猫といえるかもしれにゃいね


それがどうして(こじ)れたのにゃ?



彼女もあっしのことを好きだって言ってくれてたんですニャ。

相思相愛で、幸せな日々でしたニャ


ところがトウとリャクに、

「彼女を取られたくなかったら能力のあるところを見せろ」って無理難題をふっかけられたんですニャ



ふみゅ



だからあっしは、敵方に潜入する危険な任務を志願したんですニャ


そうすれば、認めてもらえると思って……



にゃるほどにゃ~。

モブニャンに彼女ができたから、それを妬んだトウとリャクが絡んてきたわけにゃね



だと思いますニャ。

ヤミミンは魅力的な猫ですからニャ


彼女と離れ離れなるのは辛かったけど、

「あっしのことを待っててほしい」とお願いしたんですニャ


それなのに……、

あんなヤツらのところへ行ってしまうニャんて……!




 風を浴びながら、悲しげに目を伏せるモブニャン。



大体の事情はわかったにゃも


率直に言って、それは悲恋ひれんだにゃ。

相手が悪かったと思って、諦めるしかないにゃ



そっ……!

そんニャアァァァァァ!








たしかにヤミミンとヨリを戻すのは、もう無理かもしれませんニャ……


でも、諦めるなんてできませんニャ~!



さっきも言ったけどにゃ、根本的な問題が自分以外の場合は難しいにゃよ


ダメな彼女に期待するより、とっとと新たな道を模索するべきにゃね



え、新たな道って突然言われても……



道がわからないなら、このマウティスが歩むべき方向を示してあげるにゃ


まずは、ねこねこファイアー組を抜けることにゃね



ニャンとぉ!?

ズバッといきなり組を抜けろだニャんて……!?


いくらニャんでも、そんな不義理なマネはできませんニャ!



そんなチンケな考えにとらわれていても、自らの首を絞めるだけにゃよ


おそらくこれからジロリ組とねこねこファイアー組のバトルが始まるにゃ


闇の集会による不意打ちを狙ったところで、モブニャン程度の実力じゃ、ボスにゃんにボコボコにされるのがオチにゃよ



ぐにゅう……!



どのみちジロリ組にスパイだった事情が知れれば、制裁を受ける定め


もしねこねこファイアー組が抗争の勝利者となり、見事ジロリ組を退(しりぞ)けたとしても……


おそらく、手柄の大半はあのトウとリャクに持っていかれるだろうにゃ~


たとえモブニャンがこの組に残留しても、ヤツらにバカにされ続けるのは目に見えてるにゃよ



ぐにゅにゅにゅにゅ……!



冷遇(れいぐう)されるとわかっていて未来のない場所に固執(こしつ)するか――


はたまた新たな道を進むか――


自分自身のために、よく考えて決断するにゃも



うにゅにゅ……!



どちらも選べないなら、これ以上無茶なことはせずにひっそり暮らせばいいにゃよ



にゅう……。

迷いが生じてきましたニャ!


でもひっそり暮らすにしても、それが叶いそうな場所もニャいですし……



だったらいっそ、このマウティス直属のしもべになるにゃ?



えっ!?

マウティス(ねえ)さんのしもべに……!?



そうにゃよ


もし言うことを聞いてくれるなら、スパイの件は黙っててあげてもいいにゃ



ホントですニャ!?



ただし、命令には絶対服従してもらうけどにゃ~



フッ、そうやって言葉巧みに内通ないつう工作をしかけるわけか。

ジロリ組の策士め!



ニャッ!?



フニャアァ!




 突然一匹の猫が、ふっとドラム缶の上に現れた。



 大柄な体を彩る紅白柄の毛並み。

 その燃えるような体毛が陽射しを受けて、ギラついた太陽のごとく強烈なまばゆさを放つ。



 まぎれもない――

 


ねこねこファイアー組のボス・くれないにゃね!



























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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