第90話 とっておきの刺客

文字数 1,520文字




 発情したメス猫のニオイは、オス猫の本能を刺激する。



 その影響で気が高ぶったり、攻撃的になったりと、オス猫同士のケンカを誘発してまうこともある。







つまり副ボスは、発情猫のニオイにほだされて闘争本能を刺激されたってことやな!?



そーよ。

あたしのフェロモンでオス猫なんてイチコロよ



こんな強烈なフェロモン臭を放つメス猫がねこねこファイアー組におったとは……っ




 そのせいで副ボスの状態は尋常やない。



 副ボスはもともと色香に惑わされやすいタイプなんやろうけど、いくらなんでもひどすぎるわ。



ウ……ガァ……!



副ボス! 

しっかりしてください!



ヴ……ダメだ……っ!


おれの情動が揺さぶられて、オス猫はみんな……敵に感じちまう……!



ワイが敵やなんて、ありえへんですわ



けど……どうにもならねぇ……



テンダ兄さん、魅了の効果は一時的なものですさかい


ニオイの元から離れれば、興奮は収まりますって!




 すると、頭上からヤミミンのせせら笑いが聞こえてきた。



アハハ、バカじゃないの~。

このヤミミンの香りから逃れられるワケないでしょ~♪




どーゆうことや!?



小悪魔ヤミミンのフェロモンはね、とーっても強力なの!


あたしのこの香りで、オス猫なんて思いのままに(あやつ)れちゃうんだから♪



オス猫を操れるやと!?


アホなこと言うなや!

ニオイでオス猫を操れるわけないやろ!



アホはどっちよ。

そのオス猫の有様を見れば一目瞭然でしょ


あたしの香りに刺激されて、すっかり暴走猫になり果ててるじゃない



暴走猫……!



ヴ……ガガガ……ッ!




 たしかにいまの副ボスは自制心を失うてもうてる。



 コントロールを失って暴走する列車みたいなもんや。



ふふ。

その猫、ジロリ組の副ボスなんだってね


せっかく強くて勇ましいのに、いいように操られちゃうなんて、超絶みじめ♪



副ボスをバカにすんなや!



バカにされるような姿になるほうが悪いでしょ!



なんやと!?




 ワイは不敵な笑みを浮かべるメス猫をキッと睨みつける。



 ヤミミンは、手足はシュッとして瞳はパッチリして、絵に描いたような美猫(びびょう)や。



 せやけど、見てくれは良くても油断のならへんワル猫は許せへん。

 

 

ひとまずあたしの香りで引き寄せて、近づいてきたところをさらに強いフェロモンで誘惑してあげたわ


もうそのオス猫は、あなたを攻撃すること以外考えられないはずよ



ヴヴヴッ……!



この性悪(ビッチ)猫がっ!

なにしてくれとんねん!  



ビッチだなんて言わないでよ、萎えるわー


あたしは並のメス猫を超える強力なフェロモンを放つ、魅惑猫チャーミング・キャットなんだから!








なにがチャーミングや! 

自分で言うなっ!



はぁ~、うるさいバカ猫クンね。

けれど、そうやってあらがっていられるのもいまのうちよ


あなたもあたしのフェロモンで骨抜きにしてあげる




 ヤミミンは体を軽く伸ばすと、ワイを狙って建物から下りはじめた。



副ボス! 

(はよ)う離れてください!


ヤミミン(あんなの)が近くにいたら、香りの誘惑にいてこまされてまいますっ



ヴ……、

すまねぇ、キンメ……



謝らんといてくださいよ。

こればっかりは敵の罠やし、しゃあないですわ




 ……まぁ正直、ええ加減にしてやってちょっとは思っとるけど。



 けど、それを言うたからって状況が改善するわけやあらへんし、ここは早いとこ副ボスに去ってもらうのが一番や。



 副ボスがなかなか動かへんから、ワイのほうから歩み寄ると――



死ねっ!




 唐突に巨体が迫ってくる



 副ボスはワイに向かって、情け無用の拳をくり出してきた。



ええっ!? 


いきなり跳びかかってくるやなんて――!




 いきなりキレる猫並みに展開早すぎやでっ!



 テンダ兄さんはおおらかな猫やったのに、そんときの面影ゼロやないか!























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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