第139話 知識猫の戦い

文字数 1,427文字





 空中ダイブをかましたトウがインテリのもとに急降下していく。



ヒョオォォォォォォオオオッ!



ジャンピングアタックか。

勢いはあるが貴様が放つとスピードに欠けるな




 インテリは相手の攻撃を見切ってかわそうとする。



 だが――



しまった!

足にさきほどの猫キックの疲れが……っ!




 インテリの動きには、いつもの機敏(きびん)さが欠けていた。



 猫ってやつは持久力に(とぼ)しい。



 足の疲労が走りにも影響しちまうのもやむを得ねぇが、とにかくピンチだ!



インテリ、急げっ!




 俺は仲間の無事を願うが……



 瞳に映るのは、白い体がグシャッと押し潰される場面だった。







テメェッ!




 我を忘れてトウのもとへ駆け出そうとした矢先、



邪魔はさせんぞ!




 俺の行く手に、紅が立ちふさがる。



クソッ……!




 トウはインテリの体を羽交(はが)い絞めにしようとしていた。



……っく……退けぇ……っ!



退いてほしけりゃ死んじまいなっ!



この程度で、死んでなるものか……っ!




 しかし抵抗むなしく、インテリは体を押さえ込まれてしまう。



 インテリは身動きを封じられながらも、わずかに手足を動かしてもがく。



 だが、網状の金属板に体が食い込んで、脱出するのは困難な状態だ。



……ぐっ……ううっ…………っ!



インテリーーーッ!



ヒャーハハハハハ! 

苦しいか?


その白い首根っこに噛みついて、血染めにしてやる!



ふざけんなっ!




 なにがなんでも止めに入ろうと、身を乗り出したときだった。



 どこからか、動物の鳴き声が聴こえてきた。



チュウチュウ……

チュウチュウ……




 それは猫を刺激してやまない、永久不変の甘い(ささや)き。



この鳴き声は……!?



ネズミか!?




 ネズミと聞いて、トウは途端に目の色を変えた。



 ギラギラしたハンターのまなざしが、廃工場内に潜む獲物を求めてさまよいはじめる。



ウホォォォォ!

ハラが減ったぞ~~~っっっ!




 みんな空腹には違いない。



 ましてねこねこファイアー組のヤツらは、長期的な食糧不足に悩まされている。



 腹を満たすため、生き残るため、その姿を目にすれば血眼(ちまなこ)になって探しまわるだろう。



 だが――



 その隙を知恵者は逃さない。



愚かな!

ネズミの声に気を取られて(すき)だらけだぞ!




 身をひねるインテリ。



 瞬時に仰向(あおむ)けに近い状態になると、長い腕を振ってトウの横面を思いっきりひっぱたく。







 ガシッ!




 切れ味鋭いと評される拳がトウの頬を強打する。



がはぁっ……!




 頬に刻まれる爪痕。



 顔の毛が綿毛のように宙に舞った。



 拳の勢いに押され、トウは後方にふっ飛ばされる。



ってぇー!




 宙に浮かんだ体は放物線を描き、金属板の上に置かれた箱に衝突した。



テッ……テメェ……!

やりやがったなっ!



フッ、組の幹部ともあろう者が浅はかだな。

本当にネズミがいるとでも思ったのか?



なに!? 違うのか!?




 トウの驚きを目にして、勝ち誇ったような笑みを浮かべるインテリ。



あれは鼠鳴ねずなきさ。

私はネズミの鳴きマネが得意なんだ



んなっ……バカなっ!?



バカじゃねぇ。

ありえねぇことを実現しちまうのが、うちの出来すぎた知識猫(インテリ)なんだよ





 仲間の活躍が誇らしくて、俺は自然と口元にニンマリ笑みが浮かぶのを感じた。








どもー、アイ・キャットでーす!


残念ながら、猫さんがネズミの鳴きマネをしているところは見たことがありませんが……


人間が口をすぼめて鼠鳴きをすると、高確率で猫さんの注目を浴びます


興味のある方は、ぜひお試しください






















ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色