第94話 ガガガガーン!

文字数 1,574文字





 ――タマ無し――




 それは去勢済みのオス猫のことや。




 去勢すると、発情したメス猫に反応せえへんようになる。



 とくに発情未経験の若いうちに去勢手術を受けたほうがその確率は高い。



ワイは幼少の頃、見るも無残に荒れた環境におった


けど、ボランティアの人らに保護されたおかげで、一命を取り留めた


その後、わりと早い段階で去勢手術をしてもろうたんや



やっぱり去勢してたのねっ!



そや!

せやから発情なんて知らんし、そのへんに小便ひっかけとうなる衝動も起こらへん


サカリのついたメス猫なんか見ても、へぇ~で終わりや!



へぇ~で終わりだなんて……!


そんなのありえない! 

メスを知らないオスの強がりに決まってるわ!



いやいや、強がりちゃうって。

ハッキリ言うて、興味ないねん!



興味、ない!?








 よほどショックやったんか、ヤミミンの顔は青色で染めたみたいに血色が悪くなった。



 おもわず笑いがこみ上げてまう。



ウッヒャッヒャッヒャッヒャッ!


オトコゴコロをええように転がしてきよったゲスなネェちゃんには、さぞ悔しい話やろなぁ


せやけど世の中にはいろんなオスがおんねんで。

みんながメス好きのギンギンやと思うたら大間違いや!



バカ言わないで!

あたしの魅力で落ちないオス猫がこの世にいるわけないじゃないっ!



アホ抜かせ!

ぎょうさんおるわ!

思い上がりもはなはだしい!



うるさいっ!

これを受ければ、さすがにあんたも堕ちるはず!




 ヤミミンは、くるりと体勢を変えてワイのほうへ尻を向ける。



誘惑のフェロモン・最大放出!




 突如、ヤミミンの両股からチョロッと尿スプレーが放たれた。



ゲェーーー!

なにしてくれとんねん!




 たった一瞬で、辺りはヤミミンの悪しき香りに支配されてもうた。



 まるで大気汚染されたみたいや。



クッサァァァァァァァッ!



し、失礼ねっ!

脳を痺れさせるほど甘美にあふれるこのフェロモンを、よりにもよって臭いだなんて!



なにが甘美にあふれるフェロモンや!

全然ええニオイやないし、こんなんで誘惑されへんわっ!



そっ、そんな……!


フェロモン最大放出までしたのに、あたしの技が通じないなんて……!








 通常、発情猫の尿にはフェロモンが含まれとる。



 オス猫がこのニオイを嗅ぐと刺激されて、フレーメン反応っちゅう変顔になってまうこともある。



アンタのニオイは、ワイにとっては鼻をいたぶる刺激臭や。

人間でいう、つけすぎの香水と同類やな!



そ、そんな……汚点だわ!

このあたしがただのオス猫いっぴき落とせないなんて――




 菊座丸出しのポーズのまま、ヤミミンは動揺にゆれる瞳を闇にさまよわせとる。



なんかどエライ勘違いしとるみたいやから言うとくけど……


仮にワイがギンギンのオス猫でも、アンタのことはええとは思わんで



ハァッ!? 

このモテモテヤミミンの何がそんなに不満だっていうの!?



何が不満て、ほぼ全部や



全部!?








ウ、ウソでしょ!?

こんなに顔もスタイルも良いのに……!


アンタ、目が腐ってんじゃないの!?



アホかっ!

腐っとるんはそっちやろ! 


そもそもワイは、性根しょうねの腐ったヤツはタイプやないねん!



あたしのどこが性根腐ってるっていうわけ!?



どこがて……、

ほぼすべてアウトや


第一、香りで誘惑してそそのかすとか、やることセコイで



セコイ!?








それに、世の中のマジメにパートナーさがししとるメス猫にも失礼やわ


アンタのそのえげつない行為のせいで、発情猫はオス猫を利用する悪い猫ってイメージダウンにつながりかねへん



フンッ! 

そんなの知らないわよっ


それにあたしの特技はフェロモンの誘惑だけじゃない!

力だって、負けてないんだからねっ!



ホンマかいなー?

実力不相応(ふそうおう)大言壮語(たいげんそうご)吐くと、あとあと後悔することになるで



うるさいっ!

あたしの真の力、思い知るがいい!




 ヤミミンはギラギラするような敵意をみなぎらせ、大地を蹴って跳びかかってきた。



 






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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