第134話 孤独と怒り
文字数 1,220文字
テンダは弟の偵察猫に問いかけた。
戦闘中だったふたりのあいだに微妙な空気が漂いはじめる。
偵察猫は体勢を低くし、側面サイドからテンダの脚に噛みつこうとした。
テンダは片足を少し引いたけれど、熱心によけようという素振りはない。
むしろ戦いの場にあるまじきまなざしで相手を見つめている。
ただ優しげで、せつなげにも映る、温かな瞳――。
ガブッ!
偵察猫の牙がテンダの足を突き刺した。
テンダは片腕をそっと動かし、偵察猫の頭に手のひらをのせた。
偵察猫はテンダの足から口を離し、ぴしゃりと手を払いのける。
拒絶しながらも瞳の動きは正直だ。
テンダの言うように、コイツの心には孤独があるんだろう。
それもちょっとじゃない、〝深い孤独〟だ。
もちろん孤独は俺たちにもある。それは同じだ。
孤独をまったく感じない
けれど、それなりに孤独とうまくつき合っていけるのは、誰かの支えがあったり、ぬくもりを感じたりするからだ。
どんなに強い猫もひどい目にばかり遭ってれば、心がヒネくれちまう。
自分自身に言い聞かせるように偵察猫は叫んだ。
逆巻く感情。
孤独によって積み上がった怒りがいまにも爆発しちまいそうだ。
願いを込めて、俺は叫ぶ。
だが、俺の声は届かなかった。
偵察猫は牙を剥き、勢いをつけてテンダに跳びかかる。
怒りの波は静まらない。
怒涛のような勢いで偵察猫はテンダのもとに迫ると、その首筋に噛みついた。
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