第134話 孤独と怒り

文字数 1,220文字





 テンダは弟の偵察猫に問いかけた。



〝本当は、オレに弟だと気づいてほしかったんじゃないのか?〟





 戦闘中だったふたりのあいだに微妙な空気が漂いはじめる。



……!



偵察猫のヤツ、うろたえてやがる。

図星なのか?



オレなりにさ、おまえの気持ちを考えてみたんだ


母さんも兄弟たちも一気にいなくなっちまって、きっとさみしかったんだよな?



べ、別に……!



いや、おまえは子どもの頃、甘えん坊だったもんな


スリスリしだすと止まらなくてさ、オレが母さんに会いに行ったときも、しょっちゅう頬ずりしたり、顔をこすりつけたりしてさ


ヤンチャだけど、甘え上手なヤツだった……



だからなんだっ!

所詮、昔の話だ!



そうかな?

オレには過去だとは思えないぞ



黙れぇぇぇぇぇぇっ!




 偵察猫は体勢を低くし、側面サイドからテンダの脚に噛みつこうとした。



テンダ、よけろっ!



……




 テンダは片足を少し引いたけれど、熱心によけようという素振りはない。



 むしろ戦いの場にあるまじきまなざしで相手を見つめている。



 ただ優しげで、せつなげにも映る、温かな瞳――。







ふざけるなぁーーーっ!





 ガブッ!



 偵察猫の牙がテンダの足を突き刺した。



はっはっはっ。

まさか、おまえに噛みつかれるとはな……


小さくて、甘えん坊だったおまえに――




 テンダは片腕をそっと動かし、偵察猫の頭に手のひらをのせた。



ごめんな、チータ。

すぐに弟だって気づいてやれなくて



……ッ!?



オレがもっと早く気づいていれば、おまえをこんなに苦しめることにはならなかったはずだ


ごめんな――……



言うな……っ! 


貴様の謝罪なんか、聞きたくも……ないっ!




 偵察猫はテンダの足から口を離し、ぴしゃりと手を払いのける。



意地、張るなよ!




 拒絶しながらも瞳の動きは正直だ。



意地など張っていない!



いや、オメェの瞳は感情の波に揺れてるぜ



……ッ!




 テンダの言うように、コイツの心には孤独があるんだろう。

 それもちょっとじゃない、〝深い孤独〟だ。



 もちろん孤独は俺たちにもある。それは同じだ。



 孤独をまったく感じない生き物(ねこ)なんていねぇ。



 けれど、それなりに孤独とうまくつき合っていけるのは、誰かの支えがあったり、ぬくもりを感じたりするからだ。



 どんなに強い猫もひどい目にばかり遭ってれば、心がヒネくれちまう。



オメェはきっと、心の奥底では〝深い孤独〟から解放されたがってるんだろ?


だから、感情が波立たずにはいられねぇのさ



チータ……

オレがおまえの孤独を埋めてやる



そんなものは必要ないっ!


必要ないんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!




 自分自身に言い聞かせるように偵察猫は叫んだ。


 

 逆巻く感情。

 孤独によって積み上がった怒りがいまにも爆発しちまいそうだ。



怒りに呑まれちまうなよ!




 願いを込めて、俺は叫ぶ。



 だが、俺の声は届かなかった。



 偵察猫は牙を剥き、勢いをつけてテンダに跳びかかる。



チータ!?



よせっ!




 怒りの波は静まらない。



 怒涛のような勢いで偵察猫はテンダのもとに迫ると、その首筋に噛みついた。

























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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