第97話 知られざる秘密

文字数 1,287文字





 ジロリ組に裏切者がいる――



 ヤミミンはそう語った。



 その裏切者が誰なのか確かめるため、ワイはヤミミンのそばに寄って話を聞こうとする。



裏切者は、誰なんや?



ウフフッ、そんなに知りたきゃ教えてあげる




 耳元でヤミミンが囁く。



 それを聞いた途端、全身にゾワッと悪寒が走った。



嘘やろ!?

信じられへん……!




 頭ン中はもう真っ白や。



 ナメてかかったネズミに反撃喰らった並の驚きにつつまれとる。







ホンマに間違いないんやな!?

適当なこと抜かしとったら、ブチのめすでっ!



あたしの言ってることが嘘かどうかは、いずれわかるはずよ



もしそれが事実なら、わかったところでどうにもならへん


血みどろの戦いが待っとるだけや……!



ふふっ、信じていた仲間に裏切られて残念ね。

じゃ、あたしはこれで




 ヤミミンはサッと身を離し、ワイから逃げるように反対方向を向いた。



いやいや、なに去ろうとしてんねん。

帰すわけないやろ!



なんでよ。

もう戦いは終わったでしょ


お互い引き分けってことでいいから



アホ抜かせ!

どう見てもおまえの負けやろ!



え~、そう?

かなりいい勝負だったと思うけど



どこがや!


まぁ、そんだけ調子こいたことほざけるくらいやから、まだ余裕で戦えるわな



言いがかりはやめてよね。

もう戦うのは疲れたわ



疲れたやて?

嘘つけ! 

ピンピンしとるやないか!


どうせ家帰るとかいいながら、しれっと再戦しようって魂胆やろっ?



いちいち疑うわねー。

もうやる気ないったらないわよ



ホンマか?

ホンマに戦意がないんなら――




 ワイは顔を暗闇の向こうに黒光りする水溜まりのほうへ向ける。



ほれ。

あそこに水溜まりがあるやろ


おまえらねこねこファイアー組が仕掛けた、小便まみれのトラップや


あのトラップの中におもいっきしダイブして()かってみ



はぁ!? 

なんであたしがあんなところに入らなくちゃならないの!?



あそこにドボンしたら、全身小便臭くて戦いどころじゃなくなるやろ



嫌! 


絶対に、嫌!




 ヤミミンは断固拒否や。



 大声で訴えるだけ訴えて、とっとと逃げようと移動しはじめる。



そうか。

じゃあ、しゃあないな




 ワイはすかさずヤミミンのあとを追って背後を取った。



 相手が振り返る前に、両腕を瞬時に(かか)げる。



秘技・両手打ち!




 狙いはヤミミンの後頭部。



 電光石火の勢いで両腕を同時にすばやく振り下ろす。







フナァッ!




 狙いすました一撃が頭に直撃!



 掌打(しょうだ)を受けたヤミミンは、体から生気を抜かれたみたいにコテンッと地に倒れた。



ドヤッ!

マンガみたいな技やろ?


以前ボスに教わった、必殺の打撃技や!




 ヤミミンは気を(うしの)うとる。



 はたから見ると、気絶したっちゅうよりは、ただ草地をベッドにスヤスヤ寝入っとるようにしか見えへんけど。



ま、小便まみれよりマシやろ




 ほころぶ顔を引き締めつつ、ワイは後ろへ向き直った。



早う、ボスらに裏切者のことを伝えなアカン




 見つめた彼方に黒っぽい塊が見える。



 廃工場の形もわからんほどぼやけとるけど、ニオイを頼りに進めばたどり着くはずや。



ボス! みんな!

どうか無事でおってください……!




 ワイはひたすら闇を突っ切って廃工場へと急いだ。
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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