第130話 因縁

文字数 1,474文字





 ジロリ組を裏切った偵察猫(レコ)がテンダの弟――。



 思わぬ告白に、俺の耳はピーンと伸びちまいそうだった。







まさかテンダの弟だったとは……



それ、ホントなの?



見た目には判断がつきませんネ




 みんなの注目は、テンダと、その弟だという偵察猫に集まっている。



おまえがオレの弟って、本当なのか?



この期に及んで嘘だと疑うのかっ!



いや、そういうわけじゃねぇけど、話が唐突すぎてついていけねーっていうか……



ゴチャゴチャ言うな!

じつの弟もわからない、バカな兄のくせにっ!



はっはっはっ。辛辣(しんらつ)だな。

オレだって、家族のことを忘れてたわけじゃないんだぞ


ただ、いきなり弟って名乗られても実感が湧かないんだ。

オレの弟だというなら、試しに母親の名前を言ってみろよ




 母猫の名を問われると、偵察猫の顔に浮かんでいた怒りがやや緩和した。



母さんの名は、マーゲイ!



……ほぅ……




 テンダはゆっくりと歩んで床に積まれたガラクタの上に跳び乗ると、自分より高い場所にいるレコを見上げる。



どうなんだ、当たってるのか?



ドンピシャっす



正解して当然だ!

だが貴様は、僕の名前などまともに憶えてもいないだろう?



はっはっはっ。

そうやって決めつけるのはよくないぞ


オレに一つ年下の弟たちがいるってことは、もちろん憶えてるぜ



だったらマーゲイから産まれた三兄弟のうち、末っ子だった僕の名を言ってみろ!



おまえの名は、サビイだ



違う!



エッ……!?


そうか、違ったか。

じゃあ、コロコロか?



違う!



あれっ?

また違ったか……


はっはっはっ。

いや~、まいったなぁ



笑ってゴマかそうとしてる場合じゃねぇだろ




 すると偵察猫は再び怒りをみなぎらせ、大声で言い放った。



僕の名は、チータだーーーーー!








そうだった! 

おまえの名前はチータだ!


ちょうどそれを言おうと思ってたんだよ~



噓つきめ! 

思い出せもしなかったくせにっ



あまりテンダを責めるなよ。

時間が経てば記憶も薄れるし、当時のニオイは消えちまうんだ


ガキの頃一緒にいた兄弟でも、オトナになってわからなくなっちまうのは珍しいことじゃねぇ



ボスの言うとおりだぞ。

それにおまえとオレは年が離れてるじゃないか


一緒に暮らしたこともないはずだが?



たしかに一緒に暮らしたことはない。

だが貴様は、母のもとを巣立ってからも定期的に食糧を差し入れたりしていた


そのとき、僕ら兄弟の面倒も見てくれたんだ……!



なによそれ。

普通にいい話じゃない



これといって、副ボスに落ち度はありませんね



ちょっと感動しかけマシタ



黙れ!

何も知らない外野に僕の苦しみがわかってたまるかっ!



とはいえ、意味不明だな。

なんでその流れで、テンダへの復讐に結びつくんだよ



重要なのはここからだ!

僕が生まれた頃、すでに母のもとを巣立ったテンダは、町の一角でケンカに明け暮れていた


テンダの強さは暴れ猛者もひれ伏すほどだと評判になり、その名は瞬く間に広まった



〝怪力無双のテンダ〟か



改めて通り名を言われると、照れるっす



あのころ、まだジロリ組の傘下に与していなかった地域のボスがいてよ、そいつをテンダがぶっ倒したんだ


以降、その手腕を買われ、ジロリ組のメンバーとして活動するようになったんだよな



副ボスを取り巻く状況は、至って順風満帆(じゅんぷうまんぱん)のように思えますが



違うっ!

そのせいで……悲劇は起こったんだ!



悲劇だと?



いったい、どういうことだ?




 何かよくないことでも起こったのだろうか?



 事情はわからねぇが、テンダと偵察猫とのあいだには深い因縁(いんねん)があるようだ。



 それがなんなのか――



 俺は固唾(かたず)を呑みつつ偵察猫が語るのを待った。























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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